流れる風が、長い髪を揺らす。
星と波と風。
他には何もない崖の上で遠くを眺め続ける。
視線の遥か向こうでは、時折波が触れた結界が淡い緑を放ち
世界が隔たれていることを知らせる。
かつて暮らしていた世界。
あの人がいた世界とこの世界は
とても近くで、限りなく遠い。
あの事件より前、世界は繋がっていたから
自分がここに来たのだって軽いノリだった。
間違えたのはどこだったのだろう。
こっちに来ようと決めた時か、
危ないからとあの人を置いて行ったときか、
それとも・・・。
悔やんだところで時間は戻らないし、
呪ったところで変わることもない。
そうやって嘯いて、後悔なんてしたことがないなんて言ってみて。
そんな苦し紛れの強がりが自分の一部になったのはいつからか。
今では人さえいれば、元々そういう性格だったみたいに
ヘラヘラとしていられることに内心驚くくらいだ。
波の音に合わせるように流れた風が右の目にかかる髪を揺らし
去っていく。
満天の星と穏やかな音につられてふと、
このまま落ちたらどんな気分だろうと奇妙な好奇心が胸に宿った。
頭ではしっかりとどうなるかのシミュレートをしているにも関わらず、
軽い気持ちで足を踏み出してみる。
「君は、死にたいのかい?」
後ろからかけられたよく知る声に振り返ることもなく
「いいや?」と答える。
「そこから落ちれば、死ぬよ」
後ろの声は、慌てることもなく淡々と続ける。
「それは、困るな」
「なら、戻るといい」
「どこに?」
「君に」
その言葉にようやく振り返ると、声の主は安堵したようにため息をついた。
「よくここがわかったな」
「私もそう思うよ」
「どうやって」
「わからない。けれど、ここと思った」
真っ直ぐに目を見て答える彼に、シューターは小さく笑う。
彼は、そういう男だ。
いつもは関わるというほども関わることができないほどの王子という立場である上に、一国どころか世界そのものの守護者でもある彼は、
それでもしてか自分が馬鹿なことをしようとすると必ずその場にいて
「それでいいのか?」と問いかけてくる。
あの間違いに気づき死のうとした時も、
今のように“何か“に引かれかけたときも。
無理に連れ戻そうとせずに、ただ問いかけ待っていてくれるらしい
彼のおかげで、まだ自分は生きていられるらしい。
「帰ろう」
それだけ言って、来た道を戻るミストラルの背を追いかけて
シューターは崖から離れる。
空に赤い星が一つ、瞬いて消えた。