暗い世界で,つまんないと叫びながらでもなにもできないって泣いていた.
足の指先から順に切り落としていったらどこで私は私じゃ無くなるんだろうって思考実験したりしていた.そのくらい私は自分自身がぜんぜん分からなかった.
私が指に針を刺してしまって一滴の血を流してしまったとしたら.私は私と認識して貰えるだろうか.
それは是.つまり血の一滴の有無は私という存在を欠くにたらない.
私が献血して,500mlの血を抜いたとして同じく存在を問うたらどうか.
是.認めて貰える.私という存在は血の500mlでは存在を揺るがない.
私が不慮の事故で指の一つを失ってしまったとしたら
それも恐らく私という存在を欠くにたらない.
ではどこまでなら私でいられるだろう?
逆に献血バックの中の私の血や無くした指先の一つを私とは認てもらえるか?
おそらく否.認められない.
ここから分かるのはある程度細かくなってしまったら私は私では無い.
こんなことをずっと考えていた.
そのくらい私というものは揺らいでいた.
制服を纏うようになってどのくらいたつのだろう.
その頃からなんならその前から話題の中心は「誰と誰が付き合ってる.」「誰が誰のことを好きだ.」「モテるためには」と異性の話だ.
まったく興味が持てなかった私は心底困った.
特にどんな異性が好みか.と言う質問はほんとに困った.
だって私はすらりとしていて滑らかで清いのが好みだ.やや曲線があるとドキドキする.けれど直線だけで作られたインテリジェンスなところがあるのもいい.
柔らかな子も好きだけれどどちらかというと硬い子が好みだ.
異性の話じゃない.同性の話でも無い.というか人間でも動物でもない.
私はオブジェクトフィリアだ.モノが好き.
初恋は,3歳の時祖母の家にあったバカラのグラスだ.きらきらときれいでとても美しかった.祖母の家に行くたびにキラリと光って挨拶してくれるグラスに私はぞっこんだった.最初は高いモノだからと触らせてくれなかった祖母もそのうち根負けして私に譲ってくれた.それから毎日一緒にいたのに,ある日弟が床に落として割った.
弟も私もまだ小さかったけど,あの日から弟のことは許せないままだ.
何日も泣き続ける私を見かねて母が似たものを買ってきてくれたが,まったく泣き止まずまいってしまったらしい.
私はもう同じグラスに会えないことが悲しかったし,いくらにていても全く違うのに同じだと言ってくる周囲は冷たいと思った.
小学校の帰り道に出会った八線儀は武骨で無愛想な感じがしたけど,たくさんのひとと共に愛された滑らかさが好きだった.八線儀の事を知りたくて,算数はとても苦手だったけど三角関数が出来るようになった.ほとんど毎日風俗資料館に通って放課後を八線儀の前ですごした.
同級生とかは校庭でドッチボールをしたり,図書館で過ごしていたみたいだけどそんなの知らなかった.曲線と直線で作られた測量のロマンをずっと眺めていたかった.
中学生になって風俗資料館が遠くなりなかなかにいけなくなり足が遠のいてしまったけど共に過ごした思い出は何より大切だ.
私の部屋にはお小遣いで買い集めた所謂骨董品がたくさんある.
荒々しい曲線を纏う茶器も優しい表情の鉄瓶も私の大切な恋人たち.手放すつもりも離れるつもりもない.初恋のグラスのように高価な子達ではないけれど,誰かの評価より私の気持ちの方が大事.
誰のためでもなく自分のために愛してた.
最近の出会いの場は骨董市だ.
素敵な子がたくさんいるし,知識を持った人もたくさんいるのだ.
仲人さんよろしく,どんな出身なのかいろいろ教えて貰える.好きになった子の事は深く知りたいからありがたかった.
その日も神社で開催されていた骨董市にいた.
顔なじみの白ひげが立派なおじさんに挨拶していたらスーツの人がやって来た.
なんでも「特別な一品」を見せてくれるらしい.
いやダメだろうとおもった.
間違いなくやばいやつ.ついていったりしたらいけない.
分かっているけど,特別な美人を拝見できるとあったらちょっと無理してもいいかななんて.
そこから幾つもの鳥居をぬけて,たくさん歩いたはずだけど歩いてない感じのよく分からない場所で,審神者と言う仕事を知った.
なんでも物の心を励起させるのが仕事なんだと.
それから時間遡行軍ってやつと戦うんだと.
基本は本丸での生活だが,決めきれないなら通いでもいいと.
なんだかめちゃくちゃ譲歩してもらったみたいで,やってみるかって気持になってしまった.
そんな理由で始めた審神者
初期刀はもちろん歌仙ちゃんだ.彼は骨董品が好きときいた.だから彼にした.
本丸についたとたん彼が抜刀したときはびっくりしたけどまたすぐしまってくれたから儀式的な奴ね.と思った.
はずだった.
通いの審神者から初めて,高校卒業と共に常駐の審神者になった.万屋街にはいろんなお店があった.骨董品店のような雑貨屋さんもあったけど,どうにもときめかなくてきいてみたところ骨董品ではなく新品の雑貨なのだと聞いた.
審神者は様々な時代からあつめられている.道具は使い方の分かり,見た目も違和感がないものがいいだろうとの配慮でいろんな時代から持ってきてるらしい.けれど想いが籠もったりするといけないからすべてレンタル品で一定期間経つと返却する義務がある.希望すればおなじようなものを再度借りられるし,万一壊してしまってももんだいない.しかしどれも新品なのだそうだ.
正しい歴史を護るために道具は使い捨てにするしかないらしい.
酷くつまらないなとおもった.
他にはない逸品に会いに来たら他の誰とも会えなくなった.
名刀歌仙兼定も素敵だと思う.すらっとしていてきれいで,私好みだ.でもバカラのグラスや八線儀のような燃えるような熱烈な気持ちにならない.
愛された刀というのは分かる.
でもなにか違うのだ.
それでも私にはこの仕事が特別にあっている.
霊力というものも高いらしく戦績も悪くない.
私は審神者として優秀だし評価されてる.
燃えるような気持が湧いてこないのは残念だけど正しい歴史を守ると彼等の存在も守ることになるらしい.
ならば勤め上げようと思っていたのだ.
近侍は私の気分次第で変えている.
書類仕事が溜まってるときは手伝ってくれる子がいいし,今日はこの色をみたい!って気分の時はそういう装束を纏ってる子にする.
きゃっきゃっ騒ぎたい気分の時は女子力の高い子.酒が飲みたいときは酒飲み.そんな感じで気分次第.
最近のお気に入りは短刀だ.
それも本丸の中で唯一白衣を纏っているちょっと変わった子.
薬研藤四郎.
歌仙さんの次の次くらいに本丸の古参のこの子はちょっと歌仙さんと仲が悪い.
本丸を立ち上げたときはそんなこと無かったはずだけれど歌仙さんが薬研さんのことを遠ざけるようにしてるのをしってる.薬研さんもそれを許すような感じでいつも少し離れてる.
だけど,ひょんな事から知ってしまったのだ.薬研さんは話すとすっごい面白いってことに.
彼と話していると知的好奇心が満たされる.
刀剣男士は大体そうだけど彼も例に漏れず私の知らないことを知ってる.
名前に影響されているのか薬の事にめちゃくちゃ詳しい.いい香りの生薬は気持ちを安定させるとか苦い食べ物は胃薬になるとかそういうちょっと雑学っぽいこと.
彼の逸話も好きだ.
短刀のくせに切腹できないように薬研に突き刺さったと言う話.
格好よすぎると思う.
子供みたいに何度も同じ話を強請ってしまうけど彼はいやな顔せずに武勇伝を語ってくれる.語ってくれる.度になんだがほわっとした気分になって楽しい.
吉光らしい刀.守り刀としての地位を確立した刀.
こんなの惚れないわけがない.
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向き
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薬さにデート特集(仮)
初公開日: 2022年03月10日
最終更新日: 2022年03月13日
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