LEDライトがやけに眩しくて目を細めた。
光を遮るように見慣れた影が俺に覆いかぶさってくる。
長い睫毛、柔らかい髪。
そして、柔らかい唇の感触。
初めての感触なのに、初めてじゃないようなそんな感覚は初めてだった。
こんなの俺の知ってるキスじゃない。
甘い口づけは、わずかに残った俺の理性を吹っ飛ばすには十分すぎた。
俺の頭では良い大学は行けそうになかったけど、それなりの大学には入れたし、
親友のミカも、シノアや三葉たちも同じ大学だったから毎日楽しかった。
高校は地元の奴らがほとんどだったからあまり新しい出会いはなかったけど、
大学は色んな人がいるから、出会いの場が多くなるのも俺的には大学に入ったメリットがあった。
モテている方ではなかったけれど、お陰様で彼女は何人かできた。
だけど何故かいつもこんなシチュエーションが多い。
「優はさ、本当に私のことちゃんと考えてる?」
女の子が大好きで、女の子の気持ちのことばかり考えているはずなのに最終的にいつもこんな文言でフラれてしまう。
ちゃんと考えるってなんだよ。一番に考えているつもりなんだけどな。
「優さん、それは男としてサイテーですよ」
「は?!なんで?!」
大学近くの学生も多いオープンカフェ店内に俺の声が一瞬響いたけれど、雑音に掻き消された。
「どうして同じプレゼントを他の子にあげちゃうんですか?!しかも彼女の友達ですよ?!」
「だって同じものが欲しいって話してたから」
「だからって彼女の前で渡すか?!本当にお前は女心がわかってない!」
シノアと三葉に責め立てられるのはいつものことなのでもう慣れっこだけど、どうしてこうも毎回責められてしまうのは俺の方なのか。
「今回はどれくらい続いたんですか?」
「えーっと、……2か月?」
「お前はもう女と付き合うな!」
「えー……お前らみたいに同性愛者じゃねーもん」
「そういう言い方はやめなさい」
シノアと三葉は付き合っている。
高校くらいの時に気付けば付き合っていたのだ。いや、もっと前だったのかもしれない。
俺が気づいたのは大分後だったらしく、ミカから「知らなかったの優ちゃんだけだよ」なんて言われたのは結構ショックだった。
友達だから言ってくれていいのにって二人に言ったら「お前が鈍いのが悪い」って言われてしまった。
俺ってそんなに鈍いのか?
「もっと長続きしないものですかねぇ」
「最短は3日だから続いた方だと思うぞ」
「3日とか付き合ったことにならないだろ」
「何?もう別れたの?優ちゃん」
「ミカ!おっせーぞ!」
俺の責められタイムを良い感じに遮ってくれそうなタイミングで来てくれたミカに助けを求める。
隣に座ったミカがホットミルクティーを少しだけ啜ったのを見て、既に冷めそうになっている自分の飲み物に気付いて慌てて口をつけた。キャラメルマキアートの甘い香りと共に大量の糖分が俺の気持ちを癒す。
「2か月だそうですよ」
「意外と続いてたんだね」
「遠回しにひどいな」
「だって大体1週間くらいで別れちゃうでしょ」
「まぁ……それくらいかもな」
「お前はやっぱり酷いな」
「一週間ぐらいで優ちゃんの性格が見えてくるんじゃないかな」
「単純だもんな」
「おい、単純って言うな!」
こんなやり取りをいつもしながら、俺たちは過ごしている。
毎日つるんでいるような仲間がいて、そこに隣で笑ってくれるような彼女がいれば最高なのだが、そううまくはいかないみたいだ。
「そういうミカはどうなんだよ?この間年上の女子に告られてただろ?」
「あー……僕は、いいんだよ」
「なんで?」
「よく知らない子と付き合う気なんてないし」
「俺だったらOKするのになー。ミカはいいよなー」
いつもモテてるのはミカの方で、俺はおまけみたいなもん。
それもそのはずだよな。ミカは容姿端麗で、勉強もできて、スポーツもできる。
女みたいに睫毛も長くて髪も柔らかくて金髪で、鼻筋も通ってる。
外国人みたいな顔だから目立つし、すぐに女子の注目の的になってる。
なのにミカは全然興味がないらしく、女子の群れから逃れて誰とも付き合おうとしない。
ミカから好きな人の話とか聞いたことないなー。
そういう話をしても話が続かないし、話しづらい空気だから話題にしてこなかった。
俺の話は聞いてくれるんだけどなー。ミカの好きな人の話も聞いてみたい。
「それでは私たちは次の講義があるので出ますね」
「次は長続きするように頑張るんだぞ」
「はーい」
「それか、優さんはもっと身近な人のありがたみに気付いたらどうでしょうか?」
「……身近?」
言葉の意味がわからなくて聞き返したけれど、二人は笑って手を振って去って行ってしまった。
後ろ姿を暫く追っていたが、頭の中ではシノアの最後の言葉が残っている。
「なぁ、さっきのどういう意味だ?」
「さぁ?」
ミカがホットミルクティーをゆっくり啜る音はまた、カフェの雑音に溶け込んでいった。