石切丸さん。と呼べば、ぱっと振り返り、涼やかな目尻をやわりと甘く細める男が手を振って応えてくれる。大きな身体に似合いの大きな身振りと、真っ直ぐに見上げてくる熱のこもった藤色に、ありもしない獣耳と尻尾を見た気分でほっこりする。
 某か祈祷をしていたのだろう、本殿から母屋に繋がる太鼓橋の上でにこにこと笑いながら、芯に低く響く深い声で、にっかりさん。と名を呼ばうから、青江は片手の掃除道具もそのまま近寄り、庭から殿上の男を見た。
 戦装束の鮮やかな萌葱色が良く似合う、すっきりと整った美しい顔をしている。それが主人を見つけた犬のように、急に人懐こい顔をして見せるのがどうにも可愛らしく、んふふ、といつも笑ってしまうのだ。
「やあ、ご祈祷は終わったの?」
「さっき無事にね。きみは? 掃除かな」
「んふふ。たっぷりシてきたよ。西側の建家と地蔵堂のお掃除をね」
「それはお疲れ様だったねえ」
 他愛ない会話をつらつらと重ねながら、仲のよい友人のような距離で、それでも石切丸は、熱を灯した瞳を青江に向けてくる。見詰めたいのだと求めた彼の願いに添うため、なにも言わず青江は笑って小首を傾げ受け止めるのみだ。
「……ねえ、にっかりさん。今日これから、なにか用事はあるかな」
 ちょうどいい位置に太鼓橋の欄干と擬宝珠があるが、行儀のいい男は寄りかかりもせず、そうして庭に立つ青江へ期待のこもる眼差しを寄せる。すみれの色をゆらゆらと燃やし、そうして言葉ではなくいささかの称賛も滲む視線は、こそばゆくも心地よいものだ。ふふと笑いながら口許に指を這わせる。
「特には、なにも。……どうしたのかな、石切丸さん。なにかお望みでもあるようだね?」
「……うん……」
「ふふ。いいよ、言ってごらん。恥ずかしがらずにね」
 上目で見返せば、大きな身体をもじもじとさせる。可愛らしいなあ、などと思いつつ、朱の欄干と青江とへ交互に視線を寄せる石切丸の言葉を待った。おそらく今日も、いつもと同じ願いなのだろうと半ばわかっていたが、それでも自覚を促すために、敢えて口にするように差し向けた。
 あんなに皮膚の下を暴いてしまいそうなほど、欲にけぶる強い視線を向けてくるくせ、彼の望みは見つめたい、手に触れたい、それだけで、それ以上はない。手に触れてどうするのかと思っていれば、ただ単に手を繋ぎ、それだけだった。
 男としての欲望と言うものを、刀剣男士はその肉体のせいか、望むと望まぬとに関わらず持って顕現をする。そういうものは自然、誰かからとか、環境によってそれとなく知識として得たり、元の主に添うて来たものは、こういうことかと理解するのだから、直接教育として施したりはしないものだった。初期刀の陸奥守曰く、「どいたち困るようなら、わしに相談に来るように言うちょけばええぜよ」とのことだったので、お言葉に甘えていた部分もあったのだ。
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色欲なし丸あおえくん視点
初公開日: 2022年02月11日
最終更新日: 2022年02月11日
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コメント
色欲なし丸さんのつづき
固まってないのであっちへふらふらこっちへふらふら試行錯誤してます