はるか海の向こう、水平線をまたいだその先に、お宝が眠っているらしい。そうとくれば探すしかなかった、幼い私たちは約束をした。きっと大人になったら、海の向こうへ行くのだと。私たちふたりで、お宝を見つけてやるのだと。
 その日から、頭の中に広がった黄金の夢。読んだ絵本の中で、お宝はピカピカに輝いていて、眩しい光を放っていた。なにか物事を考え始めると止まらないタチだったから、未来に描いた夢は、いともたやすく広がっていく。何度も何度も、顔を突き合わせるたびにお宝の話をした。
 きっと、海の向こうにはひときわ大きな島があるのだろうと。
 きっと、ゾウのように大きな洞窟の中にお宝があるのだろうと。
 きっと、こわいゴーストたちがお宝を守っているのだろうと。
 きっと、魔法石やものすごく綺麗な宝石が宝箱の中に詰まっているのだろうと。
 きっと、両手で抱えたって抱えきれない金貨にあふれているのだろうと。
 話は尽きなかった。でも、私がしゃべりすぎたせいで、怒らせてしまったことがある。
「おれと遊んでくれない、イセリアなんか知らない!」
「え? あ、ご、ごめん! デュースごめん! ごめんね、あそぼ! ね!」
 話にのめりこみすぎてしまったものの、デュースだって、お宝の話をするときは丸い目をきらきら輝かせ、頬をほてらせていた。彼の頭の中にだって、黄金の夢は広がっていたのだから。
 でも、年を重ねて、私たちは大きくなっていく。大きくなっていくにつれ、世界を少しずつ知っていく。やらなければならないことが増えていく。やりたいかどうかに関わらず。それらはいとも簡単に、ふわふわと広がりばかりをもつ黄金の夢を、端へ端へと追いやっていった。私たちの間に明確な言葉があったわけではない、馬鹿にされたわけでもない。
 どちらからともなく話をしなくなった。
 どちらからともなく、遊ばなくなった。
 けれども決定打は、突然グレ始めたデュースからの拒絶だった。
 私は、小さくなっていった夢を諦めたくなかったのだ。夢見がちだと思われてしまうかもしれない、現実を見ろと言われるかもしれない。それはデュースからではなく、私たち以外の誰かから。昔でこそ、嬉々として夢を広げ、語っていた私たちだけれど、あの日交わした約束はふたりだけの秘密であり、誰にも話すことはなかった。それでも、大人へ近づくにつれ、あの夢は現実味のないものであることがわかってきて、叶うかどうかわからない夢を見続けることは不毛なもの、みたいな考えに取り巻かれるようになる。周りの目にどう映るのか、気になってくる。喋りこそしなかった、それでも、私は私たちの夢を見続けることに自信がなくなってきたのだ。それでも諦めはしなかった。
 たとえ、デュースとのやりとりが妙によそよそしくなろうとも。
 たとえ、彼とすれ違ったとき、なんとなく目を合わせないよう努めることになろうとも。
 私さえ信じていればいいと、一縷の望みをかけていた。そうすれば、きっといつか約束が果たされるかもしれないと。絵本みたいな願いに、もう心躍らなくなった。むしろ、哀れだと。
 デュースがグレた理由を、私は知らない。彼のそばを少しずつ離れていったのは私だ。何も知らないのは当然であり、しかし当然なのに、胸に黒い毛糸の塊のような、それでいて不快な重さを伴う何かが居座っていた。どうしてなのと、尋ねる勇気はあまりにも小さすぎたけれど、それでも聞かなきゃだめだと思って、彼の背中を追いかけて。
「お前には関係ないだろ。俺から逃げたくせに」
 わだかまりごとぶち抜かれた。頭の中が、背骨の中が、ひどくつめたい。首だけで私を振り返ったデュースの目に、いつかの光はなく、私はそれを勝手に期待して、しかも裏切られたことにショックを受けていた。あまりにも自分が愚かであることに、気づいていながらあくまで「裏切られた側」の顔をしている。その顔を続けることに耐えられず、私は本当に逃げた。脇目も振らず。卒業してからすぐに、デュースから離れたところへ行けるように、がむしゃらだった。
 目を覚ます。枕元に置いていたスマホを確認すると、アラームで設定した時間よりも早かった。まどろみの名残惜しさもなく、すんなり起き上がる。すると隣からかすかにむずがる声が聞こえてきた。一緒に使っている毛布がもぞもぞと動いて、そっちへ引っ張られる。布団の中に体のほとんどをすっぽり入れ込み、しかし枕へはみ出るインディゴの髪の毛がはねていた。顔も出ないし、起き上がりもしないところを見ると、起きたわけではないらしい。私のほうが早く起きるのは珍しいのだ。休日であろうと大抵私が起きるほうが遅い。仕事柄、早く起きるのは癖なのだという。まだ日が昇らないうちに家を出ることもあるし、癖にしなきゃならなくて、最初は目覚ましをたくさんかけていた、と笑いながら教えてくれたことがある。
 今日は休日だ。でも彼はまだ起きない。当然と言えば当然で、今日のために彼は抱えていた案件を一気に終わらせてきた。帰ってきた彼を出迎えると、目の下にクマをつくっていた彼は私を見るなり倒れ込みかけて、片足でなんとか踏ん張っていた。ご飯は無理そうだったけれど、せめてシャワーを浴びなければならない、という気持ちだけでふらふらとシャワールームへ歩いて行った。心配だからそばで待っていたら、びしょびしょのまま上がってきた彼はもう限界らしく舟をこいでいたので、慌てて髪を拭き体を拭き服を着せ、と夜中にアワアワしてなんとかベッドへ連れて行ったのである。ダブルベッドにバタン、と倒れ込むなり寝息が聞こえてきたから、彼の疲労は推してしかるべし。ベッドからはみ出した脚を毛布の中にしまって、私も隣で眠りについたのである。
 まだ私の隣で眠っているのを久しぶりに見た。これはまだぐっすりだろう。今日をすごく楽しみにしていたからこそ、抱えていた案件をとんでもない速さで終わらせて、時計がてっぺんを回りきる前に頑張って帰ってきたんだろうけど、それでも少し寝たくらいで疲労をとりきれるわけではない。今日の出発は別に早いわけではないし、私が起きたのも、気がはやっていたからだ。彼はぎりぎりまで寝ていても構わないし、むしろそうしてほしい。そっと毛布の下から体を滑らせて、洗面所へ向かうために部屋を出た。
 テレビはつけない。起こしたくはなかったから、できるだけ静かな朝にしたかった。朝食を済ませながら、リビングにまとめて置いてある荷物を確認する。収納魔法を使えば持たなくて済む荷物も、とりあえず並べて出していた。寝室で団子になって眠っている様子からすると、まだしばらくは起きないはず。長旅になるというのに、直前まで缶詰になって働いていたのだから、ブロットも疲労も蓄積量がえげつないだろう。職業柄、特にブロットには気を配らないといけないから、仕事で家を空けていた間、職場でちゃんと食べて眠っていたのか、本当に心配だった。寝起きで確認した彼の魔法石は、やや黒ずんでいた。対して私の魔法石は、いつもの色で、ペンダントとして首にさげられている。
 リビングに差し込む早朝の光は、レースカーテンに遮られて柔らかくなっていた。
 デュースがナイトレイブンカレッジへ行ったことを知ったのは、ウィンターホリデーに家へ帰ってからのこと。ハイスクールでの思い出話、家族へのお土産、たくさん持って帰ってきて、荷解きをしているところに、母がそういえば、と口にしたのだ。
「デュースくん、帰ってきてるってよ」
「え?」
「ついさっきデュースくんちに行ったら、お母さんじゃなくてデュースくんが出てきたのよ。びっくりしちゃった、すごくかっこよくなってたよ」
 楽しそうに、嬉しそうにニコニコと、母は話してくれた。当たり障りなく返すことしかできない。
「そう、なんだ」
「あ、そうだ。荷解き終わったらイセリアもデュースくんちに行ってきたら? 久しぶりだし、いろいろお話してきたらいいんじゃない? ついでに買い忘れちゃったやつ買ってきてほしいな」
 メモと財布を渡されたら、行くしかない。荷解きがほとんど終わっていたから、部屋にメモも財布も置いて行かれたのだ。
 
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ビレア
終わらない!!!!!
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向き
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水平線を踏み越えて
初公開日: 2021年12月31日
最終更新日: 2022年03月18日
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コメント
デュ主小説ができるまで頑張る。
202206211506
初めて使わせていただきます。SSの執筆過程。中途半端なところで終わってます。書くのがトロいので4倍速…
紗葉