取り乱していても、流石は王弟とそのご令嬢。1秒で場の乱れや服の乱れを取り繕い、話し合う空気を創り出すとは…でもこの2人がワタワタしている所はとても面白いので、オレも一つ爆弾発言を放り込んだ。
「お義父さん、ちょっとサクッと戦略級魔法で、シャンボール砦からハイデラルまでの陸地、吹き飛ばしても良いですか?」
「……い、良いワケあるかああぁぁぁッ‼︎‼︎」
「さ〜すがコノック‼︎大胆でシンプルな解決法ね‼︎私もサクッとそっちに行って手伝うわ‼︎」
「だあぁッ、お前ら落ち着けぃ!どうしてそう過激な言動に走るんだよ…」
「アッハッハッハ、血筋ですね!」
「違いないから笑えない…」
 ふぅ、やはり生真面目なお義父さんイジリは楽しいが、ここまでにしようかな?オレは居住まいを糺して、改めて、上官たる救国義勇軍第3師団長、ポワティエ公フィリップ・ド・ダースクラム元帥へ敬礼し、シャンボール砦の現状を報告した。ドワーフ帝国の戦列重装歩兵2個連隊3千名と500名の輜重部隊(しちょうぶたい=主に食糧や各種装備・消耗品の輸送専門の、戦闘に従事しない部隊のこと)と、砦に逃げ込んだ第五連隊の状況は、娘と共に盗聴していたから知っており、猛将のアタマを悩ませる。
 まず戦略的な大方針として、王国はドワーフ帝国を壮大な兵糧攻めの真っ最中であるため、今回の奇襲上陸軍団には、一粒の麦粒だって渡してはならないのが鉄則だ。ハイデラルからドワーフ王国へ向けた食糧を積んだ船団が、奇襲上陸3日前に出港していたのは本当に幸運だった。その船団がドワーフ王国の港に辿り着くまで、あと2週間は、ハイデラルに帝国軍6万を張り付かせたままにしておきたい。その後は成果なく、トボトボと帰ってくれれば理想的だ。帰り着いた帝国の食糧事情を、更に困難にしてくれるだろう。これが戦略上、ベストな結果だ。
 だが目下、敵はハイデラルから32キロ南にある、収穫直後のパンパンな穀物庫がズラリと並ぶ、シャンボール城までの強行偵察略奪部隊を派遣した。僅か2個連隊だけなのは、恐らく確信は持てない派兵だったのだろう。あれば奪え、無ければさっさと帰ってこいと。軍を動かすにも、大量の食糧を消費するので、敵の指揮官もアタマを悩ませたに違いない。これは、何としても阻止する必要があるが、大損害を与えたり、全滅させた場合、より大規模な援軍を送り付けて来るだろう。うーん、絶妙に難しい…
「コノックや、お前、敵の2個連隊の士官全員のアタマん中弄って記憶改竄して、シャンボールの穀物庫は全てスッカラカンでした!って報告させる事、出来ないかな?」
「…出来てたらこの通信はその事の事後報告だったでしょうね…5キロ先から、弓で物理的に士官全員の頭を風通しよくは出来ますけれども…」
「アハハハハ、だよなぁ……え?今なんて?」
「5キロまで近付いてくれたら、魔法を使わずに、敵の尉官以上の士官全員を、弓で1分以内に狙撃で仕留められますよ、と…」
「…………うーん、ハンパないのぅ、加護の力ってヤツは…」
 結局戦略級炸裂魔法の使用許可は降りなかったが、敵がシャンボール砦を素通りする場合は、尉官1人残して、士官全員を弓で狙撃、本格的に砦に攻め寄せた際は、第五連隊と共に迎撃する中で、連隊長1人残して狙撃で片付けて、第五連隊の求心力を得る、という方針に決まった。やっぱり心配してこちらへ転移して来ようとするラベリアお嬢様を宥めすかして、通信を終えた。いよいよ、オレの初陣だ。
 指揮官詰め所前には、ジークフリート大尉が用意してくれた夕食と、話し声が聞こえたので遠慮させていただき、自分は武器の点検に回って参ります、とのメモが添付してあった。全く聞かれても構わない内容であったが、まぁ、元帥のあの取り乱したお姿は見せられたものではないから、オレは大尉の気遣いに感謝して、夕飯を食べた。
 食事後、大尉と合流し、武器弾薬の状態報告を受けた。第五連隊は、ハイデラル陥落の前日に実験的な新式銃の支給を受けており、全員がシャンボール砦まで、銃と弾薬を肌身離さず持ってきていたため、思いの外武器弾薬は充実していた。各々、20発の鉛製の弾丸と、20発分の魔石粉(火薬)を腰ベルトの収納ケースに詰め込んでいる。
 通常支給されている小銃は、木製の台座に鋼鉄製の筒を、鉄のベルトで三箇所締めた構造だが、この新式銃は、筒の鋼鉄にオリハルコンを混ぜ込み、飛躍的に強度を上げた結果、詰め込める魔石粉(火薬)を増やせた事により、対ドワーフの重装鎧では、90m先からの貫通が可能となる優れものであった。
 しかし威力の代償として、発射時の反動が凄まじくなってしまい、更に高価なオリハルコンの使用は、大量生産される小銃には向かない。正に、実験的新式銃なのであった。
 各自、夕食と点検を終えたところで、明日に迫った戦闘の作戦を説明し、概ねの連隊員が了承したが、数名がオレの弓の腕を見たいとせがんできた。しかし、夜なので何とも見せようがなく、困っていると、ちょうど頭上に、オオホロホロ鳥が飛んでいるのを見つけたので、砦に備え付けてあったボロボロの弓で10羽の群れ全てを仕留めてみせた。皆驚き、大いに湧いて、ついでにオオホロホロ鳥はすぐに捌かれて、夜食のシチューになった。うん、美味い。こうして、英気を養い、明日に備えて眠りについた。
 翌朝から、砦の応急補修にてんてこ舞いになった。すぐ横に広がる森林から急いで資材を調達し、ガタの来た外壁材と取り替える。ついでに、密かに外壁面に硬化の魔法をコッソリとかける。これで、隙間から狙撃されない限りは貫通することは無いだろう。
 夕方15:05、とうとう敵を見張りが肉眼で確認した。15:20、砦から200mの地点に、敵軍は展開して、砦を攻める体制を整えるのを確認したため、シャンボール砦に戦闘態勢の指示を下し、各自配置に着かせた。15:30、降伏を促す使者が門前まで近づいてきたため、指揮官たるオレが自ら応対した。
「我らドワーフ帝国第3軍団、第15師団第二、並びに第三連隊3千名、貴国シャンボール城の穀物庫に用があり、罷り越したッ!貴殿らが大人しく降伏、開城し、武装解除に応じるのなら、捕虜として、手荒な扱いはしないと約束しよう!返答や如何にッ⁉︎」
「丁重なご挨拶痛み入るッ!貴殿らが帝国軍でなければ歓迎の宴を催したが、生憎と我らの国土を侵す侵略者に渡すものは麦一粒も無い!まして、我が名はコノック・サンダーブレーク‼︎ドワーフ王国代王太孫であり、エルフ王国王太子にして救国義勇軍第2師団長ティルクリム・サンダーブレークの長子である‼︎いざ尋常に、掛かって参られよ‼︎」
 使者はオレの名乗りを聞いて、想像以上の動揺を見せ、慌てて敵陣へと引き返していった。一方、オレの名乗りを聞いて、味方も改めて隊長は属性盛りすぎだ、と、爆笑を掻っ攫った。
 使者の帰り着いた敵本陣ではどうやら、2個連隊の連隊長が激しく揉めている様だ。魔法で聞き耳を立ててみる。第二連隊長のミュラー大佐は、心のどこかでまだ王家に忠誠があるらしく、ハイデラルへの撤退を主張し、第三連隊長のクロイツァー大佐は、目の前に手柄がぶら下がっているのに帰るバカが居るか!と怒鳴っている。結局、クロイツァー大佐に押し負けたミュラー大佐は、渋々と自身の連隊に戦闘準備をさせた。
 傍に控えるジークフリート大尉が囁く。
「始まります。どうか、我々に勝利をお導き下さい。」
「ああ、任せておけ。ところで、左の敵第二連隊は、やる気がないようだから、彼らを見逃す。」
「分かりました。少佐は、敵の三斉射が終わったら、第3連隊の士官どもの片づけ、よろしくお願いします。」
 闘いの火蓋をまず切って落としたのは、砦前100mで、500人三列で激しい銃撃を始めた、クロイツァー大佐の第三連隊だった。続いて、明らかにやる気を無くしたミュラー大佐の第二連隊も、砦から130mの距離で射撃を開始する。第二連隊員自体にも、王家に銃を向けたくない者がいる様だ。まず当たっても、鎧に弾かれてしまう距離であるし、装填速度もゆっくりしたものである。
 500丁の小銃の発射音は、想像以上に耳を痛めつけてくれるので、こっそり自分の耳に『ヒール』をかけ続けたのは内緒だ。いよいよ、敵の第三射が始まる。
「第一大隊、前へーーッ!…止まれッ!…構えーーッ!…狙えーーッ!……放てぇーーッ‼︎」
ズガガガーン‼︎
「第一大隊、回れ右ッ!一歩左へッ!駆けあーしッ!…止まれッ!回れ右ッ!弾込めぃッ‼︎」
 見事な練度と言わざるを得ない。砦からちょうど100mの位置を維持しつつ、15秒に一度、500発の鉛玉が飛んでくるのだ。今の所、我々は亀の様に首を引っ込めている事しか出来ない。撃っても貫通しないし…
 やがて敵第三連隊は、第二、第三大隊の斉射が終わり、第一大隊が最前列へ戻ってきた。当方は被害ゼロだ。第一大隊が小銃を斧に持ち替えて、前進を始めた。彼らは我々の小銃の射程が20mであると思い込み、30m手前から全力疾走で突撃をかまして来る魂胆なのだ。第二連隊はもう射撃をやめて、動かずに傍観するばかりとなっていた。
 彼らが砦から90mの地点に辿り着いたところで、オレは大音声で砦に命令を発した。
「雌伏の時は終わったぞ、皆ッ!斉射構えーーッ‼︎ってぇーーッ‼︎」
ズゴゴゴゴゴ‼︎ーーーンンン…と、敵の銃撃より一音階下の、より重たい射撃音が響いた。
 すぐに弾着確認すると、320発全て有効射となっており、つまりは敵第三連隊第一大隊は、一度の斉射で半壊した。
 大隊長と副官は即死、今までこんな長距離で致命的な斉射を食らった事のない帝国軍は、一瞬にして全てが停止した。
 ここぞとばかりに、オレは見張櫓にスクッと立ち上がり、普通の弓を、アルテミス様の加護でマシンガンの様なスピードで発射し、正確に第三連隊の尉官から順に、全て20秒で仕留めた。最後に、恐怖に染まったクロイツァー大佐の眉間を撃ち抜くと、第三連隊はとうとう崩壊し、第二連隊を呑み込んでハイデラルへ猛然と逃げ出したのだった。後に残った、第二連隊長、ミュラー大佐の足元に、矢文を放つ。
 そこには「再び戦場で相見えるまで、貴官が壮健たらんと願う。もしも再びドワーフ王国へ戻る気があらば、歓迎する。」と書いてみたが、それを読んだ彼は、こちらへ一礼し、ハイデラルへと引き揚げて行くのだった。
 物見櫓から、自分がただ1人も損害を出さずに守り切った、シャンボール砦と仲間たちを見回す。さぁ、勝鬨を上げよう‼︎‼︎
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