「覚悟してくださいね,先生」
そう格好よく言って出てきたは良いものの,早速俺は問題にぶち当たっていた。
「いや,覚悟って何…?あー…完璧にこの後のこと考えてなかった」
頭を抱えながら蹲っている俺は側から見たら不審者なんだろうな。けれど,今だけは自己嫌悪に浸らせてほしい。
いや,でも,待てよ?
あれは先生が可愛かったからしょうがないのでは?
もうやってしまったことはしょうがない。俺は一度頭を振ると膝を叩いて立ち上がった。
とりあえず,
「好きになってもらえるように頑張ろ」
◇◆◇
そして,次の日も当たり前の様にくるわけで。
ひび割れた窓から差し込む朝日に目を細めながら監督生は小さく欠伸を噛み殺した。
「腹がへったんだぞ〜!」
聞き慣れた声と,聞き慣れた足音が段々と近づいてくる。
もう少し感慨に耽りたかったなぁ。という監督生の声はバン!と勢いよく開かれたドアの音に掻き消された。
「はいはい…,グリムツナ缶は一個だけな」
「ふなっ!?」
既に二つ抱えられたツナ缶をひとつ回収しながら話す。この世の終わりの様な表情をしたグリムには悪いが今月も節約しないといけない。許せ…と出てもいない涙を拭うふりをして元あった棚に戻す。グリムの,鬼!人でなし!という抗議にも耳を貸さず監督生は黙々と朝の準備を進めるのだった。
「行ってきますー」
寝ているゴースト達に一応声をかけて学校へと向かう。やっと通い慣れてきた学校への道をテクテクと歩きながら昨日のことを思い出していた。と言ってもクルーウェルのことではあるが。にやけそうになる顔を抑え寒さを耐えるように身を縮ませた。
「ん?」
学校が近づくにつれ見知った背中がちらほらと見えてくる。大半は生徒なのだが何人か教師の姿も見えた。その中に一際目立つ後ろ姿。特徴的なコートを纏って痩身を隠している男,件のクルーウェルの姿を見つけてしまったのだ。見つけてしまったら我慢なんて出来なかった。
さっきよりも大股で歩いて行くと,すぐに追いつくことができた。この距離でもクルーウェルは気付くことなく前を見据えて歩いている。気付いてくれない…等と自分勝手なことを考えてしまう自分が嫌になる…それでもやっぱりクルーウェルの瞳に写りたくて華奢な肩を掴んで引き寄せた。
「!?な…!誰だ…ッ!」
「おはようございます,先生♡」
突然のことにバランスを崩しているクルーウェルを壁に押し付け両足の間に膝を入れ込む。いわゆる壁ドンってやつだな,と頭の中では冷静に考えながらも体は勝手に動いてしまう。
「監督生…これは一体何の真似だ?」
眉間に皺を寄せながら唸るように話すクルーウェルを見下ろしながら監督生は静かに笑った。
「嫌だなぁ,先生。覚悟してって言ったじゃないですか」
ぺろ,と舌を出して唇を舐める監督生の様子に自然とクルーウェルの手が逃げるように動く。それをまた押さえつけながらゆっくりと顔を近づける。
「や…ぁ,監督,生…ッ,ん,ぅ」
嫌だ,と紡ぐ唇を覆い尽くすように塞げば途端に大人しくなる。縋り付くように握られた手を握り返すと安心したように身体を預けてくるのに言葉だけは素直じゃない。何度も角度を変えて口内を貪りながら髪の毛を撫でる。自然と熱くなる身体に倣うように腰に手を回した瞬間,予鈴の音が鳴り響いた。途端に冷めてく身体と二人を取り巻いていた空気も変わる。
「す…」
「す?」
「ステイ……!」
「ぐえッ」
見事な掌底を食らわされた監督生は後ろに仰け反りながら蹈鞴を踏む。その隙を見逃さずクルーウェルは監督生と壁の間から抜け出した。
「ステイもできない仔犬は論外だと言っただろう……!」
「……あはッ。なら,延長戦ですね」
今日はここまでになります!見ていただきありがとうございました!