「はい、伽羅ちゃん」
 差し出された一口大の握り飯を、ほとんど反射で頬張る。
 先程から厨に漂う香りの正体を纏ったそれは、咀嚼すれば瞬く間に口内に広がった。
「生味噌か」
「うん」
 自分たちの時代にはなかった味だが、ここで暮らしているうちにすっかり馴染んだ味だ。
「越後……いや、信州か」
「そう。本当は仙台味噌にしようかと思ったんだけれど、あちらは少し辛いかなと思ってね」
 色々試したけれど、と言葉を続ける光忠は、目を細めて楽しそうに握り飯を作っていく。
「主くんの時代は面白いね。味も香りもたくさんあって、色々楽しめる」
 ほどよい固さに握られた白米が、網の上で表面をかためられていく。
 大倶利伽羅がひっくり返して両面を焼いた握り飯は、光忠に味噌を塗られて別の網の上に転がされた。
「でもやっぱり、焼きおにぎりに塗るなら米味噌が一番かな」
 他も決して悪いわけではないけれど、と申し訳なさそうに呟く光忠の視線の先には、試作用に集めた味噌の山がある。
「どうせ、別の料理に使うんだろう。……あんたは捨てたりしないんだから、気にする必要があるのか?」
「そんなもったいないことは当然しないけれどね?」
 それでも、と言い淀む光忠にため息を一つついた。
 焼けた味噌の匂いが厨の窓から外に流れていく。それに釣られた人影が、厨の窓の先にちらほらと見えた。
「光忠」
「なんだい?」
 おひつに残った僅かな量を目にして、光忠を呼ぶ。
「あんたが迷った味を、味見していない」
 言って、口を開いて待つ。何度か目を瞬かせた光忠が「しょうがないな」と口元を綻ばせた。
 片手で握れる、先程よりもちいさな握り飯が作られ、味噌を塗られて大倶利伽羅の口に放り込まれる。先程の物とは違う、けれど自分にとって馴染みにある味が口内に広がった。
「美味いな」
「うん」
「もう少し風が冷たくなったら、外で芋煮を作るか」
「うん」
「上杉ゆかりの刀も増えたから、今年は少し醤油味を増やしてもいいな」
「そうだね」
「味噌味の量は譲らないが」
「本丸の刀も増えたから、去年より作る量自体多くしないとダメだよ」
 くすくすと笑う光忠の眦に唇を寄せようとして、自分が今味噌握りを食べたばかりだと言うことを思い出した大倶利伽羅は、小さく舌打ちして最後の握り飯をひっくり返した。
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おいしくめしあがれ。
初公開日: 2021年09月03日
最終更新日: 2021年09月03日
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コメント
くりみつの日なのでいちゃこらしてるふたり。