テスト配信中
これTwitterとか乗ってるのかしら
乗ってなかった
これで配信になってる?
何か乗ってた。使い方が簡単なような難しいような…
まあいいや
なるほどね、視聴人数が上に出るのか
何か書くか
【fgo道長・顕光(晴道描写あり)】
この年になると、二日に一度は耳にするようになるのだ。
古ぼけた、けれど大きな日本家屋の庭で、道長は眉間に皺を寄せながら紫煙を吐いた。見上げた青空は嫌になるくらい澄んでいて、だからだろうか、相対的に気分が沈んでいく。振り返って見れば親戚の者たちがやれ夕食はどうするとか次の法事はいつだとか騒がしく話し合っていて、とてもではないが戻る気にはなれなかった。
道長はもう一度タバコを深く吸い、肺を白い煙で満たす。春に行われた健康診断の結果は、まあおおむね予想通りというか、相変わらず血糖値とコレステロールに気を付けましょうねという結果に終わり、おまけという風に医者から禁煙を勧められた。「流石の道長殿も、寄る年の瀬には勝てませんでしたか」涼しげな顔で笑う部下に、「貴様もな」と肩を竦めて返す。つい数年前までは身体に無理を言わせて働いていた男が、このところぱたりと徹夜連勤をやめ、昼に手作りと思わしき弁当を持参するようになった。まあ、大体想像はつくから何も言わない。聞けば最後、後悔するほどに惚気話を聞かされることは目に見えていた。「道長殿はご結婚なされないのですね」そして最後には、皆揃いも揃ってこの言葉を投げかける。そんなこと、分かり切っていた。
はあ、と道長は青空の下ため息をついた。具体的に何かに対して思いつめているわけではない。ただ、脳裏に過った惚気顔の部下と、何の気なしにかけられる決まり文句、そして今まさに行われている親戚の集いという組み合わせに、とある男の顔が思い浮かんでしまったからだ。
「おや、君も一服かい?」
噂をすれば何とやらか。心がずしんと重くなるのを感じながら振り返ると、そこには初老の男が一人立っていた。
「貴殿もか、顕光殿」
「はは、そうだね。私がいなくても、話し合いは進むだろうから」
昔よりも皺が増えた顔で笑いながら、彼は懐から煙草の箱を取り出す。「禁煙していたのではないのか?」「なかなかそうはいかなくてね」彼がライターで火をつける。伏せた目の影が白い肌に落ち、その取り留めもない仕草と表情が、いやに目につく。
「貴殿でも煙草をやめるのは難しいか」
「買いかぶりすぎだよ。まあ、普段は吸わないけれど」
知っている、と内心呟く。この男はそういう人で、何と言うか、他人によく気を遣う男だった。大方煙草も、その煙が家族に害を及ぼすのは悪いだとか、元教え子現部下の男が煙草の匂いを嫌っているからだとか、そんな理由で普段は吸わないのだろう。道長はちらりと顕光を横目で見遣る。彼は白い息を口から吐きながら、燻る煙に身を沈めている。彼の愛する家族や、彼を慕う部下の前では決して見せない姿。それを今、自分には易々と晒している。そのことにある種の優越感を感じて気分が悪くなった。何故ならその「優越感」とやらは、自分が彼の築く世界から除外されていることを示す紛れもない証拠であるのだから。
「最近はどう? 仕事は順調?」
顕光が平坦な声で尋ねてくる。こちらを何とも思っていない声。
「ああ、特に変わりはない。そちらは?」
「私の方も相変わらずかな。ただ、フィールドワークに行きにくくなっただけで」
「は、年を重ねると責任ばかりが重くなる」
「君のことを笑えないよ。色々と手伝ってくれる蘆屋君に感謝をしないと」
取り留めもない話を、温度のない声でする。この三歩開いた微妙な距離感は、初めて顔を合わせた時から今に至るまで変わらなかった。道長は彼の伏せた目元に、その時のことを思い出す。齢十歳の頃に親戚の集まりで出会った、一回り年上の従兄。民俗学を研究しているんだとへらりとした笑顔で言われた時、ああこの男はその道を選んだのかと何処か遠く思った。かつての彼は責任ばかり背負っていて、身動きも取れず生来の優しさを食いつぶしていたから。あの頃のやつれた顔に比べれば、研究というある意味閉ざされた世界の中で目を輝かせている方が、余程彼のためになるだろう。ただその道は、道長が進むであろう道とは違うものであるというだけで。
「そういえば、娘殿は元気にしているか? 結婚してもう一年ほどか」
道長が投げた質問に、顕光は締まりのない笑みを浮かべた。
「ああ、元気だよ。あの子が結婚だなんて考えられなかったけれど……うん、いい伴侶を見つけたようだ」
もうじき孫も生まれるんだよ。そう言ってくしゃくしゃの顔で笑う彼に、嗚呼安易に聞かなければよかったか、と一瞬後悔めいた感情が湧いた。かつてはこの頭脳でもって権謀うず巻く政治の場を取り仕切っていたというのに。部下の平和ボケがうつったのだろうか。再び、暢気な顔をするようになった部下のことが過る。あの頃は超然とした冷たい微笑を浮かべていたというのに、あの元法師陰陽師と一緒になってからはああも変わった。仕事ぶりは変わりがない――むしろ冴えに冴えて香子が困っていたくらいだ――ので放っておいたが、己の精神状態のために一度釘を刺しておくべきだろうか。否、昨今はそれこそパワハラというのか。ええい、人の脳内で惚気だすな。
閑話休題。己の気が緩んでいるのではないか、という話だ。今生に生まれ変わってからというもの、どうにも己が見たくないこと、聞きたくないことにうっかり触れてしまう傾向にある――――こと、この従兄殿に関して。道長の脳内で、小さな記憶がよみがえる。それは自分が高校を卒業し、大学に入学する歳になった頃。大学入学の報告のために顕光を訪れた時、彼は道長にこう言ったのだ。
『おめでとう、道長君。私も今度結婚するのだけれど、嬉しいことは重なるものだね』
道長は、思わずぐしゃりと煙草の箱を握りつぶす。「どうかしたかい?」顕光がぱちくりと目を丸くして問うてきたので、何でもない、としらを切る。――――もう随分と時間が経ったから時効かと思っていたが、まだ駄目だったようだ。他人事のように思いながら、道長は咥えた煙草を強く嚙む。あの時の衝撃といったら、思い出しても笑ってしまう。世界が急に己から遠ざかり、無味乾燥した黒の中に、一人取り残されたような心情。胃液が込み上げて何もかもを吐いてしまいそうになるのを、寸でのところで堪える痛み。無邪気に傷付けられた心の臓はずたずたに切り裂かれて、その破片を抱いたまま立ち尽くす己の姿は、さぞ滑稽なことだったろう。
「初孫とは、もうそんな年になるのか、貴殿も」
「君もだよ。今年で幾つだっけ?」
「五十五、だったか」
「ああ、そっか。私が年を取るのだから、君も同じに決まっているな」
ああ、そうとも。だからこの感情は墓場まで持って行くのだろうよ。心の中で一人毒づく。
「まだ独り身なのだっけ」
「おや、年上らしく説教でも垂れるおつもりか?」
「はは、そんなのではないよ」
娘の結婚の話が出たからだろうか、顕光が道長の身辺について問うてくる。この男の口からその話は聞きたくなくて、思わず嫌味を返してしまう。実際、そういった話はこの男に限らずされたくなかったのだ。理由なら、もう誰でも察しが付くだろう。
「もう結婚するつもりはないのかい?」
「今のところはな」
「君なら良縁に恵まれそうなものだけどね」
顕光の言う通り、そういった話がないわけではなかった。旧態依然の日本社会では、上司の勧めの見合いだとか取引先の相手の娘だとか、とかく婚姻によって縁を作りたがる風潮がある。もっとも、現在ではそういったことはプライバシーに関わるためご法度となっているが。ともかく道長が入社したばかりの頃や、ある程度責任という名の枷を付けられるようになり出した頃は、まだそういった風潮は健在で、道長自身上司などから話を持ってこられたことが何度もある。そしてその度に、のらりくらりと断ってきたという事実も。
「どうして結婚しないの?」
当時からこの年に到るまで、何度も投げかけられた言葉だ。それは身内同僚問わず、結婚しない、する気がないと話した相手には必ず言われる言葉だった。
「そういったことをする理由がない」
決まり文句のように、道長は相手にこう返す。実際その通りだった。どこぞの娘御と結婚をする理由が、道長にはもうない。かつて必死になって昇りつめていた序列はもうなく、家のため繁栄のためと血眼になる必要もない。だから道長は、誰とも知らぬ相手と血の通わない縁を結ぶ気にはどうしてもなれなかった。
「それでも貴方は、想いを伝えないのですね」
涼しい顔でそう言ってきたのは、かつて懇意にしていた陰陽師で、現在は道長の部下である男。
「伝える理由も、またないからな」
「貴方らしくもないことを。かつての貴方なら、相手のことなど露も気にせず、言葉巧みに手中に収めていたでしょうに」
男の言葉に、は、と笑いが漏れた。何ともまあ、他人のことなど視界にも入れていないという顔をしながら、随分と自分を買ってくれたものだ。肩を揺らす笑いが止まらない道長に、男は訝しむ表情を浮かべる。
「貴様の言う男はもう死んだのだよ」
笑いながら、嗤いながら、道長は言う。終いには柄でもなく涙が零れ、嗤いすぎて腹がよじれてしまいそうになる。
「貴様が見ていた男は――――とうの昔に、死んだのだよ」
「まあともかく、この先私が結婚をすることなどなかろうよ。別段、跡継ぎを必要とする家柄でもなし、私が独身であったからといって問題はない」
もう残り少ない煙草を地面に擦り付けながら、道長は言った。まさかあの自分がこんなことを言う日が来るとは、輪廻転生とは面白いものよ。そんなことを思いながら顕光を見ると、彼は何かを思案するような複雑な表情を浮かべていた。
「……何か言いたいことでもあるのか?」
「ああ、いや。君が結婚はしないと言い切るものだから。そっか――――」
歯切れの悪い彼の言に道長は顔を顰め――――次いで、もしや、と頭を鈍器で殴られたような心地を覚えた。――――もしや、この男はあの言葉を言おうとしているのだろうか。心臓がどくりと跳ね、血潮がざあと引いていく。この躊躇いを、そして次に言われる言葉を、自分は嫌というほど知っている。溜まった唾をごくりと飲む。彼が次の言葉を発するまでの一瞬が、緊迫感を孕んだ永遠に変わる。問いに対する答えを、道長は今まではぐらかしてきた。理由などないと、他愛もない言葉で。その奥にある答えを、自分さえ直視せぬよう心掛けて。――――彼が口を開く。白い吐息が零れ、音を纏う。その動作の一つ一つが、まるで弾丸の如く己に降りかかってくる。
――――言え。沈黙の中、道長は一人思う。
――――言え。凡俗共が口にしてきたあの言葉を。
――――言え。己が心を白日の下に晒す宣告を。
――――言え。初めて貴方に会った時から抱いていた情を引き出す、その言葉を。
「――――――――君らしくて、いいじゃないか」
「は――――」
緊張感の末に導き出された答えに、道長の肩から力が抜ける。
「え、何かまずいことでも言ったかな? 最近は独身のままでいる人も多いし、私の知り合いにもそういった人はいるからね」
私は、昔から君のことを知っているし、君があまり人と関わりたくない性分なのも分かっているからね。
顕光はへらりと笑って、煙草を地面に落とす。そのままぐしゃりと足で火をもみ消すと、「そろそろ戻るよ。あまり吸っていると、妻にも怒られてしまうからね」と屋内に戻っていった。
「は――――」
道長は黙ったままその背中を見送る。そうすることしか出来なかった。何故なら彼にとって己とは外部の存在で、その内実も心の内も、深く気に掛ける必要のない存在であったから。
「――――は、はは」
笑いが込み上げる。ああ、なんだ、やっぱりか。やっぱり己ばかりがいつも彼を見つめていて、気を引くことさえままならないのか。――――ああ、そうとも。だからかつてあの男に刃のような言葉を向けたのだし、そうすることでしか彼は自分を見なかったから。だからもう、何もかもを失った今生では、そうしてたまるかと思っていたのに。
――――だというのに!
「ははははははは!」
道長は、堪えきれずに笑い声をあげる。何に対して笑っているのか、自分でも分からなかった。浅ましくも愚かな自分だろうか? 勘違いをしたままの彼に対してだろうか? 己らを取り巻く全てにだろうか? ああもう、そんなことどうでもいい。もうどうでもいいだろう。
「ははははははは――――!」
道長は笑う。ただただ笑う。
長年積み重ねた己の思いに、轟々と燃える火を付けながら。
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がーっと書いたからめっちゃ色々なんかなってそう…。普段はここから寝かせて書き足したりしてます。
ご視聴ありがとうございました