『はじめまして、愛しい人』
私はあまり器用ではない。
「あんたって本当に不器用ね。」
前の様に冷たく言うような感じでも敵意をむき出しにした感じでもなく。ただの友人に向けるような一言で、それだけ私と彼女の距離が近づいたということだ。
それはうれしいことでもあり、同時に苦しいことでもある。
「そんなことは私が一番知ってますよ」
ちょっとだけムッとしながらそう言えば楽しそうなクロディーヌ。「ほんとかわいいやつ」と聞こえたのはきっと気のせい。そう私が都合よく思いたいだけの幻聴。
「ちょっと聞いてんの?」
私が何も言わないから次は彼女がムッとする。そんな顔でさえ美しい。
「不器用って話ですよね、聞いてましたよ」
そう答えればちょっと不思議そうにきょとんとして可愛らしい。
「違うわよ。可愛いって言ったの、聞こえてなかったんじゃない」
さらりと私の幻聴を繰り返す。
「……!?」
やめて欲しい。掻き回さないでと思ってしまう。私は完璧に彼女の友人でライバルであるべきで、器用であればこの感情も制御出来るのに、私にはその器用さがない。
「揶揄わないでください」
熱くなる顔を見られたくなくてそっぽを向けばその後を追ってくる。
「私が冗談を言ってると思う?」
そういう真っ赤な瞳は私をじりじりと燃やしていく。熱を持った身体が更に焼かれる。私が私を隠しているその殻がこの子によって燃やされる。そんなことは私もこの子も望んでなんかいない。そう思って居るのに、「情熱の赴くままに」そう彼女の言葉が頭を過る。
「あんたが器用じゃないことも、そんな所が可愛いって事も、私の事好きってことも全部知ってる。それをあんたが悩んでることだって知ってる」
全部わかってるんだからと続きが聞こえる。ずるいじゃないですかそんなの……。
「全部含めて私はあんたが可愛くてしょうがないんだけど?」
そんな歯の浮くような台詞を言えるのはお国柄なのだろうか、あんまりに素直な愛情表現に思わず後ずさってしまうがそんなの彼女が許すわけもなく、ぐっと腰を持たれて引き寄せられる。
「逃げられると思った?Ma chère personne」
掴まれた腕も、腰も密着した身体も全部がクロディーヌの熱を私に伝えてくる。あぁ……あなたはこんなにも情熱的なのですね。
「降参です」
そう告げれば満足気な彼女。私は決して器用ではない、むしろ不器用で一つの事に集中していないと完璧な天堂真矢でいられなくなってしまう。友人の距離を保てなくなってもいいと貴女が言ったのですからね。もう知りませんから。散々人を掻き回したんですから責任を取ってもらわないといけませんね。
「ねぇ真矢?」
「なんですか?」
抱きしめられていた腰が解放されてそっと両の手掴まれる。
「私の事好きでしょ?」
さっきまでの自信に満ち溢れていた彼女の面影はなく可愛らしい少女がそんなことを言う。ちょっとだけ低い身長があいまって上目遣いでそう聞く彼女に誰が「好きじゃない」と言えるのだろうか。教えてほしい。
「真矢の口からききたいの」
甘えるようなそんな声。全くどっちがヤな女なんでしょう。
「bien sûr. J'adore claudine.」
それは私からの愛の告白。それを聞いて彼女は安心したのかホッと息を吐いている。
「ちゃんと私の全部を受け入れてくださいね?」
「当り前じゃない、あんたの隣に居れるのは私「西條クロディーヌ」以外ありえないんだから!」
あなたは本当に美しく可憐でそれでいて可愛らしいのにどうしてこんなにもかっこいいのでしょう。あなたの全部が私を魅了してやまない。その熱に触れたくなって思わず手を伸ばす。緊張で汗ばんだ手が触れた肌は同じようにこわばっていて触れた唇は少し震えていた。