鉄棒に手を伸ばして、ぐっと手のひらで掴んだ。
とたんに、焼印でもつけられてるのかというくらいの鉄の熱さに、唇を噛んだ。
蝉の声が鳴り止まない、木曜日の昼下がり。
学校はあした半日だけいけば夏休みになるというのに、わたしは今日ランドセルを背負ったまま公園に来た。
どうせ明後日からはここも同級生だらけになるのだし、だれもいない、ひっそりとした公園を味わうには今しかないのだ。
これから1ヶ月、わたしはずっと部屋にこもりっぱなしなのだからこれくらい、だれにともいわないけど許してほしい。
「こんな日に鉄棒、なんて物好きだなあ」
「……だれ?」
不意に背中にかけられた声にぱっと手が離れて、熱さはすうっと空気に溶けた。手のひらの温度が、空気の含む熱に熱と平衡する。
「勝手でしょ」
「またサボりか」
「いいじゃない、どうせ。あさってからはサボっててもサボってなくても変わんないんだし」
藍色のシャツを着た、すこしユルいイタチのすがたが目に映るとすこし妙な感じがした。
「……てか、イタチもサボりか」
「おまえといっしょにするな、うちはちゃんと連絡を入れてある」
みればイタチは片手に買い物袋をぶら下げていて、重そうな丸い塊が袋のそこですっぽり収まっているようだった。
「サスケが夏風邪をこじらせていて、母さんが手を離せないんだ」
「手伝ってるの?」
「まあ、ほんの少しだけ。半分は口実だ」
木陰に立ち尽くすイタチがふっと目を伏せると、蝉の声がわっと激しくなる。こんなところで油を売ってていいのかとおもったが、イタチはのんびりとしていた。
「ランドセル、汚れるだろ」
「いいよべつに、大事なものじゃないし」
砂場に投げ出したランドセルを拾い上げたイタチが、苦笑いを浮かべてわたしのもとまで歩み寄ってくる。
「てのひら、あついだろう」
「あついよ」
ほんのすこし、やけどのように赤くなったわたしの手に、イタチはランドセルをわたしてからまじまじとみつめて、自身のもった買い物袋を軽く持ち上げた。
「スイカを冷やすんだ」
「夏っぽいね」
「おまえもうちに来ればいい」
「弟くん、風邪なんでしょう?」
「甘えてるのさ」
蝉の声がうるさい。
熱く燃えるような太陽の熱が、ずっと頭の上にある。
「怒られないかな」
「くく、サボりがいまさら何を言う」
珍したのしそうな声でイタチがつづける。
「どうせなら楽しくサボれ」
「……サボり方まで優秀ねぇ」
ため息をついて、ランドセルを背負い直す。イタチはそれを同意ととったのか、ゆっくりとあるきだす。
こどもたちのいなくなった公園を、蝉の声だけが満たしている。