夜は理不尽だ。目を覆い隠して、見たいものすら見えなくなる。そしてきっと、目の前に立つコイツもどこかへと攫ってしまうだろう。
優しい女だ。不器用なくせに多くを抱え込むような。そのくせ、無理をする素振りひとつない。1人で立って1人で歩いていってしまうような、そんな女だ。惚れたきっかけは些細なことすぎて覚えていない。ただ、こいつが無理をせずに立つことができたらいいのにと思った。無理をすることのないように、隣で支えてとびきりに甘やかして、こいつの弱い側面を独占したいとそんな風に思ってしまった。
コイツは夜を纏う。夜蝶とは違う、夜が恐ろしく似合う女だ。大人びた表情だとか、雰囲気だとか、そんなもののせいでは無い。危なげで、氷上で笑うような儚いさまが朝日に飲まれていく夜の一瞬の空模様のようなんだ。だから、オレはコイツと夜に高い場所で会うのが酷く嫌いだ。いつの間にか、夜の空に身を投げて駆け出していきそうな気がするから。気づいた時には、はるか下の地面に赤をキャンバスにそこに浮く白い肌と広がる髪を見る羽目になるのではないかという想像が頭をよぎって仕方ない。実際には、そこまで弱い女ではないことくらいわかる。不良と付き合い堂々としてるような女はそうそういないだろうし、それでなくとも1人で立とうとするような女が弱いはずもない。
けれど、泣いて欲しい。時には何も気にすることなく心のままに泣いてくれ。何も言わないお前を見ると、拒絶されているような気がする。これ以上は踏み込むなと線をひかれている気分になる。頼むから、オレを頼ってくれないか。好きな女を守らせてはくれないか。
ひとりでは泣くことも出来ない不器用なお前が好きだけど、オレの前では泣いてくれよ。まだお前は、ここで息をしているんだから。