どろどろとした、白い粘液のようなやつ、というのが、〇を思い出す時に一番さきに出てくるイメージだった。クラスを新たにした四月最初から隣の席で、たいして話をするでもないが〇はとにかく良く寝る男だった。授業中でも休み時間でも朝一でも放課後でも、はじめはきちんとペンを握ってノートに手を乗せて見たり、支度をするのに机をごそごそやっているのだけれど、いつの間にか寝ている。寝よう、と体勢を整えているところは、見たことがない。飽いたりすることがなくなったりして、息をつきながら腕枕を作って頭を落とす、というようなことがない。少なくともその瞬間をとらえられたことがない。ただとにかく寝ている。梅雨時期になるころには、いつも寝ているやつ、という印象がなんとなく浸透するほど、毎時間毎時間長短はまちまちながら必ず眠っているのに、その境目を見つけられたことがない。気が付くと、腕も何も投げ出して、机の上にとろけるようにしている。〇は色が白い。外に出るような運動をしないらしいが、ただ焼けていないというのとは少し違うような気がする。今まさに、現代文の授業の中盤、〇は隣で眠っている。先生にばれないように、こっそりと〇を眺めてみる。痩せ気味の、全体的に長細い〇はやや骨ばってさえいる。しかしうっすらとでものった脂肪が、荒れたところのない皮膚が、机に押し付けられてやんわりとゆがんでいる。所々に血管が透けて肌の色を悪くする。眼窩からぼこりと浮いたような眼球の丸みに、まぶたがぬるぬると乗っかっている。液体を包んでいるようなのだ。青く、灰色く、緑も混じったどろどろの粘液を、白く半透明の皮膚が形を保つのも不十分に包んでいる。そういう、ゆるみ方を、している。夏が厳しくなって、日差しが痛いほどになっても、〇の白さは変わりなかった。登校したてにはシャツが張り付くほど汗をかいているのに、色味のせいかやたら涼しげに見える。時には実際に暑さを感じていなさそうだ、などと言われて、腕やら額やらを触られたりしていた。冷たい気がする、なんてことも言われたりしていた。そういう時、〇はただ言葉少なに、困ったように笑っている。笑うと、白くあいまいな顔面にすっと切れ込みが入るような形で、唇が開く。そこにはちゃんと歯だって見えているのに、唇の色か、歯茎の色か、ものすごく赤く濡れたように見えるのだ。粘膜というには少し赤すぎる。傷口のようと言った方が、自分の中では腑に落ちる。俺はそれを見るたびに、明らかにしてはいけないものを明らかにされたような気持になって、目をそらす。
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初公開日: 2021年07月01日
最終更新日: 2021年07月01日
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