1989年のアーケード 第4章
「ねえ、ねえってば! ドМさん!」
 いつの間にか夢の世界に迷い込んでいた俺は、紗南に肩をたたかれて我に返った。
「ほら、伸びちゃうよ!」
 手元に目をやると、お湯の入った「赤いきつね」が。
 あわててフタをとり、無意識に握っていた割り箸を使って食べ始めた。
 現代のそれと違って、麺は妙な歯ごたえがあって、汁は妙に粉っぽい。
(しかし、不味くはない)
 これがノスタルジーというのだろうか。
 胸の奥がこそばゆくなった。
 まるで初恋の痛みのような、快い感覚だった。
 隣を見ると、紗南が俺をじっと見ている。
「お、紗南も食べるか?」
「あたしはいい。ドМさん、伸びちゃう前に食べて」
「そういえばさ」
 俺は疑問をぶつけてみた。
「紗南は1日どのくらいゲームやってんの?」
「そうだなー、学校ある日は5時間くらいかな」
「え……、勉強やってる時間ないじゃん」
「そんなの学校でやってるだけで充分だよ」
「だって宿題とかどうしてんの?」
「うちに帰ったらすぐゲームしたくなるからさ、放課後に教室でぜんぶ終わらせちゃうんだ」
 得意顔で言い放つ紗南を、俺は改めて見つめた。
「……すごいな。そんで、成績はどうなの」
「まあ悪い方じゃないと思うけど。少なくとも親に成績のことで怒られたことはないよ」
 俺とは正反対の生き方をしている紗南を、少し羨ましく思った。
「それよりさ、あれ。面白そうだよね」
 紗南の視線の先を追うと、レバーが2本付いている筐体が見えた。
 この時代の2本レバーといえば、「クレイジークライマー」か、もしくは……。
 近づいて行った紗南が驚喜した。
「かわいい! ねえドМさん、これやりたい!」
 やっぱりそうか。
「で、なんて読むのコレ?」
「これはな、『リブルラブル』だ」
 じっと俺の目を見つめる紗南に気付き、懐から百円玉をひとつ渡した。
「ありがと!」
 言うが早いか投入口にコインを入れた。
「なんかかわいい曲だね」
 画面横のマニュアルなど見もしないでゲームに飛び込んでいく紗南は、まるで冒険者のようだと思った。
 
 プレイしたことのない方に説明すると、このゲームはアクションパズルに分類されるだろうか。
 上下左右、等間隔に杭が打たれた畑を真上から見たような画面だ。
 主人公は右向きの矢印と左向きの矢印。それぞれが赤と青に色分けされている。
 その矢印を、伸縮性のある紐というかゴムのようなものが繋いでいる。
 左右2本のレバーでそれぞれの矢印を操作し、ゴムを杭に引っ掛けながら動かしていく。
 二つの矢印で輪を作ると、その内側の土地が育って、何度も繰り返すうちに花が咲くのだ。
 もちろんゲームだから、敵がいる。
 ゴムに触れてもダメージはないが、矢印本体に敵が触れるとミスになる。
(それならいちばん外側の杭を囲めば簡単じゃないか)
 そう思った諸兄は正しい。
 ゲームにはバランスというものがある。
 一定の長さを超えると、ゴムは切れてしまうのだ。
 だから、切れるか切れないかギリギリの長さで土地を囲い、耕して、花を咲かせる。それがこのゲームの醍醐味だ。
 さて、紗南はどんなプレイをしているかと画面を見ると、両手の操作という慣れないプレイスタイルに最初は面食らっていたようだが、残機ゼロになった頃にはだいぶ慣れてきたようだ。
「これさ、どんどん囲んでいくと花が咲くんだね!」
 マニュアルを見ないでゲームの真理をつかんでいく探求心の強さに、俺は心を打たれた。
 攻略サイトや必勝法を調べて、効率よくプレイしようなんて、紗南の頭にはないのだろう。
 正面からぶつかって、ダメなら攻め方を変える。
 積み重ねたものが、血となり肉となるのだろう。
 そんなことを考えているうちに、プレイタイムは終了した。
「すごいね! 今から25年も前にこんなかわいくて面白いゲームがあったなんて、ちょっとびっくり」
 この頃。
 ゲームに対する世間の認識は「子供のおもちゃ」というものでしかなかった。
 しかし、クリエイターたちは限られたリソースの中でアイディアを極限まで詰め込んだ。
 子供相手だからこそ、子供だましであってはならない。
 そんな意地と誇りを、この時代のゲームからもひしひしと感じられた。
「ねえ、さっきからボーッとしてるけど、どうしたの? 熱でもある?」
「いや、ちょっとさ。俺も紗南みたいな生き方しときゃよかったなって」
「なにそれ。今からでも遅くないでしょ?」
 それもそうだな。
 俺はずいぶん年下のアイドルたちから教わってばかりいる。
「ありがとな、紗南」
「ドМさん、大事なことってね、全部ゲームが教えてくれるんだよ」
 激しく同感した俺は、黙って紗南に右手を差し出した。
 VRだとは分かっていたものの、握り返す紗南の手からは、現実以上の温もりを感じることができた。
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ななし@02ef23
頑張ってね!
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うえぴー
ありがとう! 知ってる作家さんが使ってるの見て、さっそくマネしてみた
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1989年のアーケード 第4章
初公開日: 2021年06月16日
最終更新日: 2021年06月16日
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