はい! オッケー、です。
その声と共に場が安堵の気に包まれる。
ライトやマイクが下される。
産屋敷さん、今日はありがとうございました。
あ、それと、おめでとうございます。
その挨拶に、ちんまりとした風情の老人は、ふよふよと笑うと、
こちらこそありがとうございました。沢山の若い人に囲まれて嬉しいよ。
と、目を細めた。
そうして、
ああ、雨が降り出すかな。皆さん、気をつけてお帰りください。
と言った。
なんだか、すごいですね。
うん?何が?
産屋敷さん。もう110歳も超えているのに、すごくしっかりしていて…。自分、前の最高齢の人も取材したけど、もう、全然話が通じなくて。
うん、すごくしっかりしてたな。それに…なんだろう。話しをしていると、ほんわかしてくるんだなぁ。
ああ、分かりますー。
最高齢になった産屋敷輝利哉の取材班が、ガヤガヤとそんな話をしながら、随分広い庭を帰る。
と、その入れ違いで、ネコを抱く人影がひとつ、産屋敷邸に吸い込まれていった。
おじいちゃん、愈史郎さんだよ
ああ、いつもの部屋に通しておくれ
うん、もう、通したよ
輝利哉は孫娘ーー本当は孫の孫娘に笑んで言った。
頭はしっかりしていると言われるが、流石に足腰は弱くなっており、普段は車椅子を使っている。
孫孫娘は、車椅子の方向を変えると、屋敷の奥へと運んだ。
書斎に着くと、輝利哉は自分で扉を開けて、孫孫娘に
もうしばらくしてからお茶を頼むよ
と言って、部屋に入った。
お久しぶりですね
茶々丸を抱いた愈史郎が、書斎の机の近くに立っていた。
彼から雨の薫りが立ち上る。
輝利哉は
雨、酷くなっていましたか?
いや、それほどでも…。先程、庭で多くの人とすれ違いましたが?
ああ、私がこの国の最高齢になった、ということで、取材に来てくれていたんだよ。
輝利哉はそういいつつ、机の前に移動すると、鍵付きの引き出しに鍵を入れて回した。
カチャリという、小さな音。
そうして輝利哉は、引き出しの奥から、大切そうに、白い盃を取り出した。