ただ通り過ぎるつもりだった民家の縁側で、静かに座っている子供に目を奪われた。桃の節句の祝い着のせいか、人間離れした美しい顔立ちのせいか。このまま成長すれば、いい女になるだろう。人間の成長は早い。しかし、これほどの容姿では、その前に。
「お前、一人で山や森、海や川へは行くなよ」
人ならぬモノに見初められたら、帰って来れなくなる。ほんの子供でも、この美貌だ。気をつけろよ、と言ってやりたくなった。いや、そんなのは言い訳だ。俺だって、こいつに魅せられて、近寄りたくて、声が聞きたくなっただけかもしれない。
「妙なことを言う。妖怪のくせに」
青みがかった黒い瞳に、俺の姿が映り込む。ちゃんと人間の子供の姿だ。それなのに、なぜ分かったのか。考える隙もなく、白い手に頭を掴まれ、強く引き寄せられた。唇が重なり、口内に舌が入り込む。触れ合う部分が熱い。妖力が、少しずつ相手の中に溶け出していく。こいつも、人間に化けていたのか。しかも俺から力を奪おうとするとは。甘く見られたものだ。
いいだろう。吸えるものなら吸ってみろ。肩を掴み返し、こちらから舌を絡め、思い切り妖力を送り込む。
「んっ!はぁっ……、何するんだ、ばか!倒れても知らんぞ!あほ!!」
思ったより、だいぶ早く唇が離された。おまけに、子供らしい罵り口調ではあるが、俺の心配をしてくれているようだ。しゃぶり尽くすつもりではなかったらしい。正直この程度では何ともないし、もっと吸わせてやってもよかったのに。
「座れ。少し休んだら帰れ。ばか」
毒ではないから安心しろ。そう言って、口をつけてから渡された湯呑みには、白酒が入っていた。愛らしい容姿に、不釣り合いな口の悪さ。そこにきて案外、優しいところもある。興味がわいた。
「同じ器で飲むなんて、結婚するときみたいだな」
仲良くなりたくて、話しかけてみただけなのに。相手の顔が心底嫌そうに歪む。
「二度と俺の前に現れるな!早く消えろ!この、あほっ!ばかーー!!」
異性装。そういう意味でも化けていたのか。仕方ないだろう。魔除けの呪いかもしれないが、そんな格好では騙される方が自然だ。似合い過ぎている。だから雛あられを投げつけるのはやめてくれ。一緒に食べよう。落ち着いてくれ。
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雛の戯れ 20210606 エンカイ
初公開日: 2021年06月06日
最終更新日: 2021年06月06日
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ひな祭りの日に人間界で出会う人化け子エンカイの話です。女装してます。