似姿
夕闇の頃に出るという。人の姿をするという。とびきり会いたい愛しいものの、姿に見えると。
「お兄さん、どちらへ」
日の暮れかけのいわゆる黄昏時、最後の人家を過ぎてかなり来た所。前触れもなく声をかけられて虚淮は振り向く。今さっき通り過ぎた瞬間にはなかった、モヨとした人型の存在だった。背は虚淮より少し高いくらい、涼やかな女のような声音をしていた。黒く長い髪が、時折紫色に揺れる。
「ここいらへんは夜になると危ないですよ」
男とも女ともつかぬ姿でゆらゆらと歩み来る。夕陽で顔は良く見えない。古風な服を着ている様子、背にかかる紫の髪、ゆるく笑む目尻、スッスと差し出される白い足袋、軽やかな足運び、逆光で良く見えないながら、表情だけが不思議とわかる。親切そうに微笑んでいる、今でも覚えている。
「お化けがでますから」
「知ってる。忠告痛み入るが」
手をかざす、怪訝そうな顔すらも懐かしい。その分腹立たしい思いで、虚淮はその存在を捕縛する。氷に籠められた姿を、眇めて眺めるのが軽蔑に似ている。
「まるで似ていない、やり直し」
フン、と踵を返す虚淮の、肩の端に紫の蝶がひらめいている。
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風息の幻を見ない虚淮
初公開日: 2021年05月24日
最終更新日: 2021年05月24日
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手癖の虚風をやろうかな