エペルには一つ俺にしか知らない秘密があった。
「このニードルで、ブスッと一気に刺して」
「うぇえ……マジでやるの?」
「エースクンにやって欲しいから頼んでるんだよ」
エペルの手には注射針くらいの太さの刃物が握られていて、消毒液やら何やらが机の上に用意されてた。エペルは俺に細い針を握らせると、鏡の前で自分で舌をべっと出して何かをマーキングしていた。
「ここ、見える?」
「うん、なんか紫になってる」
「じゃあ、ここに刺して」
目を閉じるエペルは圧倒的に美しい。が、こいつが俺に頼んでいることはかなり、いやめちゃくちゃにぶっ飛んでいる。そりゃあ「エースクン、ピアス開けるのって怖くない?」と聞かれた時は「そんなの余裕」って言ったけれども、場所がそんなところなんて聞いてない。
エペルの舌には紫で印がつけてあった。ここにピアスを開けてくれと言っているのだ。
「早くしないと、口疲れちゃう」
「お、お、おう、ごめん」
舌にピアスって、聞いたことはあるけど実際見たことないし何の経験値もない俺がやっていいものかと散々聞いたが、エペルは「エースクンにやって欲しい」「エースクンじゃなければ意味がない」と真剣な顔をしてお願いするので仕方なく、仕方なく引き受けたのだ。
痛いのは俺じゃない、でもやるこっちもなんか何処かが痛い。
そんな俺の思いは梅雨知らずエペルは長い睫毛を揺らしながら目を閉じて、舌を出している。
「え、っと……一気にいくから」
「うん、僕はいつでも大丈夫だから」
エペルの林檎のように赤い舌の裏から、細い針を真っ直ぐに突き刺した。プツ、とした感覚がこっちにも伝わってくる。ジワジワとやるのは逆に痛そうだし、こういうのは勢いが大事な気がしてそのままぐっと力を込めるとエペルの顔が少し歪んだ。
「ごめ、痛い?」
まだ貫通させてないので喋ることができないエペルはフルフルと首を横に振った。
針が貫通してしまうと「貫通したらこれを刺して、硬く締めて」と言われていたストレートバーベルを舌の穴にグッと押し込んだ、押し込む最中開けた穴を見失いそうになって、変なところに押し込んでエペルの瞳からはポロポロ涙が溢れた。本人も痛いんじゃん、じゃあなんでこんなこと、しかも俺に頼むんだ。
なんとかバーベルは舌の上に顔を出して俺はキャッチを緩みがないようぎゅうっと締めた。
ぺっとティッシュにエペルは唾を吐いた、その色は赤い。
「血、出てる?」
「あーまあ、少しは出ると思うし、でもエースクン上手かったよ、ありがとう」
さっき舌に穴を開けて金属を押し込んだように思えないエペルの態度に俺は結構ビビっていた。エペルは完成した舌ピアスを鏡の前で見て、ニヤニヤと笑っている。
エペル・フェルミエの舌にはピアスが開いている。