1
 不確かなものはいらなかった。確かなものが欲しかった。どうしても。確かなもの、移ろわぬもの。それはいったい何なのだろう。俺のこの想いは、花が散るように朽ちゆくなんてものではない。一生、一生をかけて、この身体に刻まれ、残り続けるものなのだと。
「ケイト」
 彼の名を呟けば、どうしようもない想いばかりが込み上げてくる。この身を焦がすほどの熱をもたらしたのはお前なのだと思い知らせてやりたかった。
「永遠なんてないよ」
 いつだかケイトはそう言った。そんなことは分かっている。分かっているのだ。それでも、俺のこの想いは消えぬものであると示してやりたかった。ケイトそのひとに。ああ、まったく困った性分だと思う。我ながら。お前がその髪を揺らす度に、俺がどれほど心乱されているのか、お前はこの先も知らぬままなのだろう。そう思うと、不意に寂しさが込み上げるし、お前に縋り付きたくなってしまう。
 なあ、ケイト。俺がどんな想いを抱えているか。お前はきっと、知らぬままにその生を終えるのだろう。俺はお前の何を知っているのだろう。きっと、何も分かりはしないのかもしれない。それでも、傍に居たいと思う俺は傲慢だろうか。お前の抱える悲しみを分かち合いたいと思うこの感情は、愛であると言わせてくれないか。
2
「もしかして、ずっとオレに黙っているつもり」
 夕暮れ時の薔薇の庭園で、ケイトが急にそんなことを言い出したものだから肝が冷えた。日が落ちかかっている庭園は、白い薔薇たちもオレンジ色に染まっている。この時間帯の薔薇の庭園は、ここではないどこかのような心地だった。日の光はケイトの赤毛をいっそう濃く染め上げて美しかった。
「バレバレなんだよね」
 オレのこと、好きなんでしょ。なんでもないことのように言うケイトに、身体の芯が冷えた心地だった。
「きっとそうなんだろうと思ってた。ずっとオレのことが好きなんだろうなって。知らないフリするのも飽きてきたし」
 逆光でケイトの顔色は伺えない。お前は、いったいどんな顔をしてその言葉を吐いたのだろう。ケイトのうつくしい声が、この上ない悪声に聞こえた己の耳を呪う。
「応えるつもりもないくせに」
 ケイトは何もこたえなかった。相も変わらず、どんな顔をしているのかも分からない。
「……トレイくんはオレに魔法をかけてくれたよね。卒業するまで、続くものだと思ってた」
 ケイトはようやくこちらを振り返って見る。薄い笑いを浮かべていた。
「魔法が、溶けちゃった。お友達っていう魔法」
「俺は」
「ただの友達だなんて思ってないって?だから、知ってるってば。そんなことは」
 ケイトは口を釣り上げて意地悪く笑う。緩やかな曲線を描く目蓋が、ひどく鋭い眼差しを向けている。
「だから、やってみろよ。暇潰しの相手にしてやる。お前はそんなにオレが欲しい?……なら、その魔法を生かすも殺すもお前次第ってこと」
 ああ、この男はきっと悪魔に違いない!赤い舌を覗かせて、地獄からこちらを見据えて笑っているのだ。俺の心臓を握りつぶしてしまいそうなほどの笑顔で笑う、この男は。
「暇潰し以上に、させてみるさ」
 悪魔だろうが何だろうが、もうどうでも良かった。お前と共になら、どこまででも堕落したって構わない。お前がその手を伸ばすなら、どんな方法を使ってでも知らしめてやろう。否応なく認めさせてやる。
「俺はもう、とっくにお前のものだよ」
 魂なんてくれてやる。それほどに、俺はお前に心を奪われているのだから。
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