4月1日には嘘をついていい、ロキがそんな話を聞いたのは、ニューアスガルドに定住してからすぐの頃。四月馬鹿の名を冠したそのイベントは、なるほどどうして愚かで楽しそうである。
イタズラの神たるもの、タチの悪い嘘のひとつやふたつでモータルどもを惑わせるのなんてたやすいことである。
ただひとつ気になるのは、この嘘つき放題デーについた嘘は、向こう1年叶うことがないという制約がある事だ。これでロキが、地球を征服するだの、ソーを倒しただの、優秀な下僕を手に入れただの、そんな嘘をついたら向こう1年望み薄になってしまう。そんなものは迷信だなんて、ロキも十分に分かってはいるが、1年は叶わないかもしれないと少しでも思い込めば、現実でも上手くいかなくなるものだ。
別に叶わなくても平気で、モータルどもが思わず信じてしまいそうな嘘。
ロキが誰かに捕まった、とか?
「うーむ、それだとソーしか慌てないだろうな……」
ソーが怪我をした、とか?
「うーむ、誰も信じないだろうな……」
大金を拾った、とか?
「うーむ、あの鉄の男が驚くほどの金額は流石に現実的じゃないな……」
うんうん唸りながら考えるロキ、そこで地球に来てから何度も何度も言われたセリフを思い出す。
『君たち兄弟、距離感がおかしいよ!』
「ふむ……」
ソーとロキはそこまで仲良しではない、と、ロキは思っている。思ってはいるが、周囲の認識はまた違うようで、何度距離が近いと言われたことか。
「……これだ!」
ロキはろくでもないことを閃いた。
「……結婚報告?」
「嘘の結婚報告だ!」
「誰と誰の?」
「私と兄上の!」
3月末日、ソーが帰ってくるなりロキが楽しそうに偽装結婚について話し出した。
「明日は嘘をついても許される日だからな、私と兄上が結婚すると嘘をつくのだ」
「それで、どうするんだ?」
「午後になったら嘘だとバラさなければならないからな、ふふ、この嘘で慌てふためくモータルどもの姿が目に浮かぶ」
「ふぅむ……」
ウキウキと楽しそうにしているロキを後目に、何かを考え込むソー。そんなソーの様子なんて気にもしないで、嘘の婚姻の書類も用意しようかなんて楽しそうに準備をするロキ。
何かを考え込んでいたソーは、おもむろにロキに聞く。
「なあ、もし俺が断ったら、次は誰に頼みに行くんだ?」
「ソーがダメだったら?うーん、グランドマスターにお願いするかなぁ……」
「グランドマスター!?」
思わぬ人物の名前が上がり、ソーも思わず素っ頓狂な声が出る。
「アイツ!アイツも地球に来てるのか!?」
「うん、住んでるのはここからちょっと遠いけどね、電車で……」
「しかも電車で行ける距離に住んでるのか!?」
「そうだよ、今日もグランドマスターと会ったし」
「奴と付き合うのはやめなさい!!」
「えー……」
「えー、じゃない!」
ソーの言葉に、少し不貞腐れたような顔をするロキ。そんなロキを前に、呆れたようなため息をついたソーは言う。
「わかった、お前の嘘に協力しよう」
「やった!」
4月1日の午前、SNSでは色んな人間が楽しく愉快に嘘をついている。そんな中、ロキも嘘結婚報告をアップする。
『本日、ソーと結婚することになりました!』
そんなコメントと一緒に、笑顔で婚姻届を持つソーとロキの写真も添える。ロキのこの投稿は瞬く間に、いいねや拡散がされ、あっという間にネットニュースにまでなった。
ロキは考える、婚姻届を持った写真だけだと信憑性に欠けるかもしれない。
「兄上、ちょっと来て」
「ん、まだ何かあるのか?」
「結婚報告の後にイチャイチャセルフィーのひとつも無いと信憑性が薄くなるだろ」
笑顔でほっぺにちゅーするセルフィーを撮影、そしてSNSにアップ。これもまた瞬く間に拡散される。
「はは、愚かなモータルどもめ、信じきってるな」
「ロキが楽しそうでなによりだ」
「ああ、兄上の協力があってこそだよ!」
ケラケラと楽しそうにSNSのコメントを見ているロキ、そんなロキを静かに伺いながら、ソーはそっと婚姻届を手に取った。
「午後になったら嘘だとバラすんだよな?」
「ああ、私の嘘を信じきったモータルどもの鼻を明かしてやるんだ!」
「それはまた、色んなところから怒りを買いそうだな」
ソーがちらりと時計を確認すると、もう少しでエイプリルフールの午前中が終わりそうな時間帯。
ロキも時間を確認したのか、少々つまらなさそうにため息をつく。
「ああ、もうネタばらししなきゃいけないのか……」
「なあ、ロキ」
「どうした兄上……」
何気なく、ソーがロキを呼ぶものだから、何の気なしにロキも返事をして振り向けば。
「んむっ!?」
優しく、そしてしっかりと顎を取られ、柔らかく口付けをされた。ただ触れるだけの口付けは、呆然としたロキと、鋭い目つきのソーが見つめ合いながら、ただゆっくりと時間が流れていった。
ゆっくりと、ゆっくりとお互いの顔が離れていくと、ロキは呆然としたまま、ソーを見上げることしか出来なかった。
「なあ、ロキ、俺たちの結婚報告を信じた人に、嘘でした、だなんて言って困惑させるのは可哀想だろ?」
「……えっ?」
「だから嘘だとバラす必要も無いだろ?」
「……えっ?」
ぽかんと見上げてくるロキに、ソーはちゅっと軽くキスを落として、ロキとソーが書いた婚姻届を片手に言った。
「今から、この嘘を本当に変えてくるから、お前はいい子でお留守番してくれよ?」
「……えっ!?」
4月1日の午後、ネットニュースで少々話題になってる出来事が。
ソーとロキの結婚騒動、当初はエイプリルフールにかこつけた嘘なのではと囁かれていたが、SNSにも投稿された婚姻届が、無事申請されたという一般市民からの投稿により、あれは本当だったのか!などと盛り上がりを見せた。
多くの市民から、どうしてロキと結婚をしたのかと問われたソーは、晴れ渡るような笑顔で答えたのだ。
「俺たちは昔から愛し合っていたからな、俺はずっとタイミングを見計らっていたんだ」
時折下世話な質問も投げかけられる。今日は新婚初夜だけど、何をしたい?そんな質問にソーは応えず、ただ笑顔で頷くのみだった。
婚姻届をソーが出したので、ソーには話が聞けたけれど、ロキは家から出る様子が無く、SNSの更新も止まっており、ロキからのコメントはまだ出ていないおそらく、明日にならないと出てこないだろう。
なんといっても、今日は結婚初日なんだから。
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エイプリルフールズ
初公開日: 2021年04月01日
最終更新日: 2021年04月01日
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コメント
四月馬鹿って言った方が馬鹿なんだからね!な、ご兄弟