「シュガーさえも飲み込めない」/ブラネロ
※嘔吐表現注意!※
「ごほ、ごほ……っ、」
 酷い吐き気が止まず、長いこと嘔吐いていた俺は、咽返りながらようやく顔を上げることができた。乾いた咳が何度も洩れる。
 数日前からじわじわと上がり始めた熱は、未だに下がるどころか上がり続けている。吐き気も酷くて、ここ二日くらい何も食べられていなかった。何か変な病気でも貰ってしまったのだろうか、と思いながらひとまず盥を持った両手を下ろしたところで、部屋の扉が開いた。
「おーおー盛大にやってんなあ」
「……うっせ……」
 けほ、と再び空咳が零れる。酸に焼かれた喉に冷たい空気は刺激が強すぎる。
 ベッドの上に体を起こして座っていた俺の隣まで歩いてきたうちのボス――であり、俺の相棒でもあるブラッドは、少し腰を屈めて俺の額に手を伸ばしてきた。汗ばんだ前髪が払われ、ひたりと手の甲が当てられる。
「下がんねえなあ、熱」
「……寒い」
「まだ上がんのかよ」
 ほら、と口元にシュガーが運ばれる。おとなしく口に含んで咀嚼していると、自然と生唾がたまってきて、堪らず盥を両手で摑んで顔を突っ込んだ。
「……げェ……ッ、」
「これも受けつけねえのか……どうしようもねえな」
 ほんとにな、と粘度の低い唾液を落としながら自嘲した。本当にどうしようもない。いつ治るのかもわからないし、どこまで悪化するのかもわからないし。もう、辛いし。
 これ以上吐くものもなくて仕方なしに顔を上げると、再びブラッドの手が伸びてきて額に触れた。今度は手のひらの方。抵抗せずじっとしていると、じわじわと、額を中心に倦怠感が和らいでいく感覚。
「……え、これ、」
「シュガー食えないんだったらもうこうするしかないだろ」
「……でも」
 ブラッドの手のひらから俺の額へ、ゆったりと魔力が流れ込んでくる。俺の体の負担にならないように、できるだけ繊細にやってくれているのだということが嫌というほどわかった。
 他人に魔力を送ることは、実は想像以上に繊細な作業で、疲れることだ。病人や負傷者みたいな、弱った相手ならなおさら。相手の体の負担にならないように、繊細に繊細にコントロールしなきゃいけない。だからこそ、簡単に魔力を受け渡すことができる“シュガー”という方法が生まれたのだ。
 ブラッドに余計な手間をかけさせている。そう考えると申し訳なくて、やっぱりシュガーで大丈夫だと言おうとしたとき、額に当てられていた指でバチンと額を弾かれた。
「いてっ」
「余計なこと考えてねえでさっさと寝て治せ。おまえ抜きで“仕事”するより、こうやって魔力渡す方がよっぽど楽なんだからよ」
 また、額に手のひらが当てられた。今度は目元も覆われて、そのままベッドに倒される。横になれば眠くなるのはあっという間で、力の抜けた両手から盥が抜き取られた。
 ……ああ、心地いい。彼の隣は、いつだって。
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