東京都心で初雪観測。スマホ画面のニュースを目で追って、寝返りを打つ。布団から出られそうにない。頭まで布団を被り膝を折って丸まっていると、足音が近付きガラリと戸の開く音が続いた。
「雪がちらついてるよ」
嬉しさを滲ませた優しい声が降る。のそりと布団から顔を出すと零がにこりとして、乱れた私の髪を撫でた。
「そうみたいね」
寒さなど感じさせない温かな手に瞼を閉じると、唇に柔らかな温もりが触れた。髪の先が頬に落ちてくすぐったい。
「起きないのか?」
「起こして」
「僕のキスだけじゃ起きてくれないのか」
横になったまま両手を持ち上げ差し出すと、零は笑いながら大袈裟に、そして優しく両の手を掴み引っ張り上げる。
「零が王子様なのは見かけだけだもの」
「それは褒められているのかな」
素直に体を起こされてあげて零に向き合うと、わざとらしくどうかしらとでも言うように笑って見せた。パジャマの上からもこもこのカーディガンを着せてくれる零に目を合わせる。
「零はそばで守ってくれるナイトでしょう?」
「君はどちらにしてもわがままなお姫様だ」
おかしそうに笑う零を睨むように見返すと見つめ合う形になってしまって、二人してついにやにやと口元が緩んでしまう。
「おはよう、零」
「おはよう」
そうしてもう一度、口付けを交わす。
それから、零は片膝をついて私の手を取ると、上目遣いにこちらを見上げる。
「では姫、ここは冷えますので早くあちらへ。お目覚めに熱い日本茶をご用意しております」
「ふふ。あら、珍しく朝食の案内がないのね?」
手を引かれながらリビングへと向かうと、ご丁寧に椅子を引いて座らせてくれる。
「新しくオープンした…と言ってももう二ヶ月も経ってしまったけれど、隣駅のカフェのモーニングはいかがでしょうか」
なんでもないように急須にお茶を注ぎ少し置いて、お揃いの湯呑みへと注ぐ。所作が美しい。彼のことだから、お湯の温度も茶葉を蒸らす時間もきっと計算されている。
「あなたを待てずにもう行ってしまった、なんて言ったら?」
「僕に嘘は通用しないなんてわかってるだろ」
そっと目の前に置かれた湯呑みを両手で包み、日本茶の香りを小さく深呼吸するように堪能する。それからひと口啜り、ほっと息をついた。態度や癖で嘘を見抜くことは零が得意とするところだけれど、単純に行動が筒抜けなんじゃないかと思うくらいに、彼はいつだって動じない。
自分と同じように両手で湯呑みを包み、一息ついている男を見つめながら、ついふっと口元を緩める。完璧なようで、それは少しだけ虚勢だ。冷静に見えて情熱的で、とっても優しくてひどく心配性なこの男は、とても、驚く程に、私を愛している。
「一緒に行こうって言ったでしょう? 零と以外、行く気がしないんだもの」
なるべくなんでもない風を装ってみる。私も、ひどくこの男のことを好いているのだ。私が彼の気持ちを自覚するように、私の気持ちも彼にはお見通しだろう。それが私にはまだ、少し照れ臭い。零はそういう私に対して、明からさまに嬉しそうな顔をする。それはきっと本心で、そんなところも可愛いのだけれど、恥ずかしがる私を少しだけからかう気持ちがあるのも本当だろう。
「…可愛いな」
ほら、そうして、まるで思わず声に漏れてしまったように言う。お互い様だ。
「…零こそ、いつもそんな綺麗な顔して」
「お褒めに預かり光栄です」
苦し紛れに言い返しても、零はなんとも綺麗に微笑んだ。私の負けだ。頭の回らない内に零相手に攻防するものじゃない。
「支度するわ」
「今日は寒いから、暖かくね」
「うん。あ、お茶ありがとう。やっぱり零が煎れるのが世界で一番美味しいね」
そして零と一緒に飲むのが一番美味しいのだけれど、それは言わないでおいた。きっと言わなくても伝わっている。少し驚いたように目を開いた零が、ちょっと顔を逸らして照れたように笑ったから。今度は私の勝ちだ。
上機嫌でクローゼットを開く。零が選んでくれたワンピースと今季一目惚れしたコートで、と既に決めていた。お姫様なんて柄じゃないけれど、美しい零の隣は気合が入る。髪を梳き、ワンピースに袖を通し、お化粧をして鏡を見つめ、にこりと笑う。零は私の支度中、別室で大人しく待っていてくれる。変身シーンを暴かない紳士なのだ。その礼儀に応えるように私は背筋を伸ばし、今日も美しく愛して愛されるのだ。
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降谷小話
初公開日: 2021年03月01日
最終更新日: 2021年03月01日
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コナン、降谷零の小話