凜殺ワンドロ 【山ほど】
掠が家を空ける時、決まってすることがある。寝室にある文机の引き出しを開け、その中身をいくつか読み返すのだ。ああ見えてあいつは筆まめで、特にこれといった理由もなく手紙を寄越す。その習慣はこうしてともに暮らした今も変わっておらず、時々消印のない手紙がポストに投函されていた。
「これは……大学三年の夏、か」
便箋の中に、何年も前の空気が残っているような気がするのは何故だろう。人差し指と中指があの頃の掠の部屋に踏み込んでいく。
『〜なんか手紙の内容〜』
「ふふ」
この手紙も棚の中の手紙も幾度か読み返しているが、その度に、
「ただいま。手紙が届いていたよ」
「ああ……ありがとう」