雨宿り
その日は午後から雨だった。
雨が降り出す前に買い出しを済ませようと宿を後にした悟浄と八戒が買い物を終えて戻ろうとしたところでザッと雨が降り出した。
買い出しの荷物がなければ濡れて帰ることもできたが、昼食用に買った焼きたてのパンが雨に濡れては台無しになってしまう。
悟浄と八戒は仕方なく店の軒下でしばらく雨宿りをすることにした。
幸い、東の空に薄日が射しているのが見えるため、数時間もしないうちに止むだろう。
店の主人に断って軒下で雨が通り過ぎるのを待つことにした二人は地面を叩く雨粒と頭上を覆うどんよりした雲をそれぞれ見つめ、溜息をついた。
「降り出しちゃいましたね」
「――だな」
「通り雨だといいんですけど」
「まぁ…待ってりゃ、そのうち止むだろ」
宿では煙草切れの三蔵と腹を減らした悟空が待っている。
このまま天気が思わしくないようなら、出発を遅らせなければならないだろうし、場合によってはルートの変更を余儀なくされるかもしれない。
帰ったら昼食の準備と買い忘れたものがないかの確認。もう一度、天気とルートを調べ直して、出発までに洗濯と傷んだ服を繕っておかなけばならないし、それから――。
八戒が頭をフル回転させて今後の予定を練っていると、大きなあくびをした悟浄が右手に抱えていた荷物を左手に持ちかえ、ポケットから煙草を取り出して火をつける。
そして、空いたその手を八戒の左手に重ね合わせた。
驚いた八戒が隣に立つ男の顔を見るも、悟浄は馴染みの煙草を燻らせながら正面を向いたまま表情ひとつ変えず、こちらは目もくれない。
右手には荷物。左手には自分のものよりいくらか暖かい手。
往来を色とりどりの傘の花が通り過ぎていく。
軒下に佇む男二人が手なんて繋いでいたら、奇異の目で見られるに違いない。
(困ったなぁ…)
雨なんて、もうずっと前から平気なのに。
悟浄だってそのことは分かっているはずなのに。
この男はどうしてこうも自分を甘やかすようことをするのだろう。
八戒はそこでふと、また色んなことを一人で背負い込もうとしていたかもしれないと反省し、さっきまで頭の中を渦巻いていた様々な考えを一旦、リセットすることにした。
なんでも一人で背負い込もうとしてしまうのは自分の悪い癖だが、悟浄は買い出しの荷物を半分持つように軽々と八戒が抱え込んだ負担を持ち去っていく。
「雨、もうすぐ止みそうですね」
「――だな」
先ほどよりも雨の勢いがいくらか和らぎ、雲の切れ間から青空が顔を覗かせ始めた。
この分だとあと数分もしないうちに雨雲は通り過ぎてしまうだろう。
八戒は遠く東の空に架かる虹を仰ぎ見ながら悟浄の手をそっと握り返した。
- The end -
ご視聴ありがとうございました。