右から飛んできた拳を避け、足払いする。当然避けられ、距離をとったリィンが身構えた。
来る。軸足を踏み込んだ彼によって一気に距離が詰められる。早い。
「くっ」
重い手刀をクロウは肘から上で受けた。衝撃で眉根が寄る。まともに受ければ骨を損傷していた。
彼の扱う無手の型は武器のない状態で使用する技だと聞いてはいたが、威力の程度は知らなかった。
「まだだ!」
ガードの空いた腹を狙って放たれた足を掴んで転ばせる。瞬間、頬を彼の踵が掠めた。
「おいおい、随分お行儀が悪くなったじゃねえか」
「誰かさんのお陰でな」
転んだ拍子に地面に両手をつき、身体全体をばねにして跳ねてみせた彼はコートについた埃を払っている。
未だ痺れの残る腕を振り、ふたたび戦闘態勢に入ったリィンと対峙した。
「それで、決着はついたんですか」
無感情に見下ろすアルティナに首を横に振った。もう一言も話す余裕がない。隣で同じように転がっているリィンも同様だった。
「かわいい生徒ほったらかしにしてよくやるよな」
アッシュに言われ、最初は訓練終わりに見本として手合わせしはじめたことに思い至る。途中からお互い夢中になって止まらなくなってしまった。
「男同士の熱いバトル、堪能させて頂きました」
「まあ、参考にはなったかな」
「止めに入ることもできませんでした」
「もう! リィンくんにクロウくんまでなにしているのっ」
事態を察知した様子のトワが走り寄ってくる。
ひとまず風呂に入ってこいと怒られ、改めて自身の身体を見下ろす。服は砂埃ですっかり汚れ、髪から砂利が落ちてきた。
「……とりあえず、風呂入るか」
「はは、そうだな」
お風呂上がり、用意されていた着替えに絶句する。
「なあ、リィン。お前にはこれ、なんに見える」
「ここの制服、だな」
まっすぐ現実を突きつけてくる彼の言葉に項垂れる。
「こりゃ、トワのやつ相当おかんむりだな」
「こっちは前にクロウがくれた服だな」
着るのが勿体ないなくてとっておいたのに。しぶしぶ服を着替えたリィンは残念そうに肩を落とした。