12月25日の朝。いい子のみんなは目が覚めて、ツリーの下を目にして歓喜の声を上げている時刻。
そんなクリスマスの朝に、ソーはズボンだけを身につけて朝食を作っている。別に凝ったものを作るわけではない、目玉焼きにトースト、ベーコンをカリカリに焼くくらいだ。
手馴れた様子でフライパンから半熟目玉焼きを皿の上へと移すソーは、どことなく上の空。それはそうだろう、ずっと何かを悩んでいる。
「プレゼント、いつロキに渡すか……」
まだベッドの中でぐっすり眠っているであろう弟へのプレゼントを渡すタイミングについて悩んでいたのだ。このプレゼントを決めるのにもまた散々悩んだ。服やバッグなんかはソーとロキの趣味は全く違うし、食べ物や日用品を送るのも味気ないし、Amaz○nギフト券や現金は流石に即物的すぎる。悩みに悩んで、色んな人にそうだした結果、プレゼントをひとつ買ったのだ。綺麗なラッピングで包んで、そっとポッケに忍ばせて。
だけれど渡すタイミングを考えていなかった。
部屋にツリーなんか飾っていれば、その下にそっと忍ばせることも出来たかもしれないが、あいにくこの部屋にはツリーが無い。
さて、どうしたものかと考えながら、ベーコンエッグをダイニングテーブルに並べるソー。
そんな時、クリスマスの朝なのに玄関のチャイムが鳴った。こんな日に誰が来たのだろうか、頭にクエスチョンマークを浮かべながら、ソーが玄関の扉を開けると、そこには宅配の人と、ちょっとおおきなダンボールが。
そのダンボールを受け取ったソーは、家の中へと運び、まじまじとその箱を見る。赤と緑がふんだんに使われ、側面にはポップな絵柄の赤帽子に白ひげのご老人が描かれている。まさに、クリスマスの贈り物を体現するような箱である。
(「見覚えがあるな……」)
送り主の名前を見れば、そこに書いてあるのはトニースターク。
(嫌な予感を覚えながら、その箱を恐る恐る)開けようとした、その時。
「おはよう兄上……」
「おお、おはようロキ、朝ごはん出来てるぞ」
「ん、ありがと……」
寝ぼけまなこのロキが起きてくる。
「さっき、誰か来たみたいだけど、ふぁ、誰が来てたんだ」
「さっき?ああ、これが届いたんだ」
そう言ってソーが示した先を見て、ロキはキョトンと首を傾げる。
「どうしたんだそれ?」(「またスタークから届いたのか?」)
「トニーからの贈り物みたいだ」(「そうなんだ、今度は何が入ってるんだか……」)
「ふぅん、じゃあさっさと開けてみるか」
ロキはそう言うなり、バリバリとクリスマスなダンボール箱を開き始める。
箱の中にはシンプルなクリスマスカードが一枚と。
「……お菓子?」
「……酒?」
トニースタークからのクリスマスプレゼントが入っていた。
「何だこのお菓子は、黒いクッキー?」
「これは、俺が前に出されて気に入ってた酒だな!」
「じゃあその酒は兄上のプレゼントで、このクッキーは私宛かな」
「クリスマスカードに何か書いてあるかもしれない」
ふたりは肩を寄せあって、同封されたクリスマスカードを読み始める。
曰く、みんなで集まってクリスマスパーティができない代わりに、スタークが友人知人、色んな人に送り付けているものらしく、各々にピッタリのプレゼントをチョイスしたらしい。ソーにはお気に入りのお酒を、ロキには石炭を模したクッキーを。
「私がわるい子だからか?」
「はは、そういうことか」
そしてとっておきのプレゼントは、お酒とお菓子の下に入っているものだという。それを身につけて、写真を撮って送ってくれと書いてある。
「その下って何が……」
「おお……」
ダンボールの一番下に、丁寧に梱包されて入っていたのは。
「これ、既製品じゃないよな……」
「わざわざクリスマスの為に作ったのか……」
前面に大きく、"THOR"と書いてある赤いセータと、"LOKI"と書いてある緑のセーターであった。
そのセーターを手に取って、表も裏もじっくりと検分したロキは、ソーに視線を寄越して言う。
「これを着て写真を撮れって?」
ぎゅっと眉根を寄せるロキ、絶対に嫌だというのが表情からもわかる。
「これは絶対にいやがらせだろ!私は着ないからな!」
「写真は撮らなくてもいいから着てみるだけ着てみないか?ほら!お前のセーター、後ろには蛇の絵が着いてるぞ!」
「ほら、じゃない!」
せっかくのセーターをテーブルに放ったロキは、そのままそっぽを向いてしまう。
仕方がないからソーだけでも着て写真を撮るか、そう思っていた時、ソーのスマートフォンに通知が来て。
「……ロキ、ほら、この写真を見てみろ」
「ふん、何を見せられたって私は着ないからな!」
腕を組んで、絶対拒否しますのポーズをとってるロキに送られた写真を見せれば。
「なっ?これも後で思い返せば良い思い出になるさ」
「……仕方がないな、だけど、写真撮るのは一枚だけだからな!!」
「はは、わかったわかった」
あの頑なだったロキも許してくれる。
ソーのスマートフォンに送られてきた一枚の写真、それはただの家族写真である。スタークと、ペッパーと、モーガンが、まさにソーとロキに送られてきた様なセーターを着て、各々が楽しそうにポーズをとっている、幸せな一家の写真である。
「ただ並んで撮っても面白くないよな、助けてでもやるか?」
「正気か?私は絶対に嫌だからな」
やいのやいのと言いながら、ソーのスマホを棚の上に立てかけて、セルフタイマーをかける。
「嫌か?お前も助けてやるの好きだったろ」
「好きじゃない」
「好きなくせに」
「好きじゃない!」
ソーは笑いながら、ロキもムキになって少し怒って、少し楽しそうに言い合う。
ふと、ソーは思った。この写真を撮った後にプレゼントを渡そう。ムードも何もないけれど、一番のタイミングだと思える。
「タイマーは10秒でセットするからな」
「早過ぎないか?」
そっと、ズボンの中の小さな箱を確かめる。綺麗なラッピングをした、ビロードの箱の中にある指輪を。
クリスマスから数日後、アベンジャーズ本部の壁には楽しげな写真がいくつも飾られている。その中の人達は、自分の名前がでかでかと書いてあるアグリーセーターを着て、楽しそうに家族と、仲間たちと一緒に映っている。
その中の一枚、ロキに肩を貸して笑うソーと、呆れたようにソーにもたれるロキの写真がある。その2人の手には、シンプルな指輪がはめられていて、ロキの顔はなんだか少し赤いようで。