祖母の動きは驚くほど迅速だった。
古びたトランク一つでタケルの家に転がり込んできた彼女は、古びた黒皮の手帳を取り出すと、いそいそと電話を掛けはじめた。
祖母が最初に連絡を取ったのは、タケルの父・直久だった。
大手商社に勤務し、九州に単身赴任中だった直久は、タケルの目から見ても仕事一筋の男で、言い方は悪いが家庭を顧みないところがあった。
そんな父が、祖母が電話をかけた翌日の夕方に、大急ぎで家に戻ってきた。汗でよれたワイシャツを身につけ、目の下に大きな隈を作った直久の姿は、タケルを驚かせた。
直久が帰ってきた日の夜。
【なんか入れる。夕食の描写。全員無言。食卓の日常っぷりと緊張した空気でギャップを出す】
奇妙な緊張感が漂う夕食が終わると、父、母、タケル、祖母の四人による、家族会議が開かれた。
「タケルに学校を休ませる」
その席で、祖母は開口一番宣言した。
父は困惑した表情で、母と祖母の顔を交互に見比べ、何か言おうとして口ごもった。
わけが分からず狼狽する父とは対照的に、母の態度は泰然自若としたものだった。
「休むって、どれくらい?」
のんびりした口調で母が尋ねる。祖母の返答は「分からん」という素っ気ない一言だった。
「分からないって……そんなことを言われても……」
父が恐る恐る口を開くと、祖母は鋭い目線で彼を睨んだ。温和な祖母が見せた峻厳な表情も、それにたじろぐ父の姿もタケルにとって見慣れないものであった。
「学校を休むだけで良いの?」
母が尋ねる。
「いや、学校を休ませるだけではだめだ。家の外にも出してはいけない。一歩たりとも」
祖母の返答に、タケルは思わず「え……?」と声をあげた。
祖母の顔がこちらを向く。そこには、さきほど父に向けられていた厳しい表情はなかった。皺だらけの祖母の顔はいまにも泣き出しそうだった。
タケルは、そんな祖母の顔を見ていると自分も泣きたい気分になってきた。
「あら、困ったわねえ。この年で引きこもりなんてどうしましょう?」
まるで危機感のない母の声。
「しかも、いつまで引きこもっていればいいのかも分からない。困っちゃいましたね。わたしたち、長生きしなくちゃね?」
「安心せい。何十年もかかるわけじゃない。せいぜい数年……長くても十数年くらいだろう」
祖母は小さく笑った。少し寂しげな笑いだった。
「そうだね、タケルが大人になったら【傍点入れる】、外に出ても良い」
【12月13日分 終了】