フェイスはヒーローになった自覚が足りていないと思う。夜中までふらふら出歩いて、朝方に帰ってきたかと思えば、仕事中に欠伸なんてしやがるし。ひとが注意してやってんのに迷惑そうな顔をして、口を開けばおチビちゃんうるさいよ。ふぁっく、おまえがヒーローらしく振る舞えば夜遊びだろうが朝帰りだろうがおれはどうでもいいんだよ!
そう思っていた、昨日までは。
「な、なあ、クソDJ。その、今日も出かけんのか?」
「なぁに? なんか予定あったっけ?」
パトロールから帰ってすぐにシャワーを浴びたのは別にグッバイマンが怖いからってわけじゃない。ヒーローは常に清潔であるべきだって話をどこかで聞いたのと、ただなんとなく、外を出歩いた状態のままベッドに飛び込むのもどうかなと思って。つまり心境の変化ってやつだ。
しばらく考えて、たぶん何にも予定がないってことに気づいたフェイスの口角がゆるりと持ち上がる。ああ、またバカにしやがるつもりだ。もしかして、と呟いたフェイスに、おれは唇をそっと噛み締める。
「おチビちゃん、ひとりで部屋にいるのが怖いの?」
「っ、ち、ちげえ、別にそんなんじゃ! ただ、夜遊びもほどほどにしたほうがいいと思ったんだよ! おまえも一応ヒーローだからな」
「ふぅん、そっか。どうしようかなって悩んでるとこ。魅力的なお誘いもあるし、今日はそんなに疲れてないから遊びに行ってもいいかなって」
「えっ……」
フェイスのスマホが数分ごとに光っていたのは知っている。それはいつものことだけど、そのなかにこいつを誘うメッセージがあって、そんでこいつがその誘いに乗ろうとしてんのが少し嫌だった。そいつらはただ、気まぐれに誘っただけかもしれないだろ。でもおれは、おれにはこいつがいないとダメで。
「アハ、そんな寂しそうな顔しないでよ。普通に叱られるより行きにくいんだけど」
「さ、寂しくなんかないっての。おれは……ほら、ゲーム! あれまだクリアしてねーし! 今夜おまえが暇なら一緒にやりたいなと思ったんだよ!」
「ゲーム?」
スマホをソファーのうえに置いたフェイスが、目をまるくしてこっちを見る。なんだ、言い訳だってバレちまったか?
でももう引き返せるはずもなく、嘘の理由は雷みてぇに次から次へと落ちていく。それをただ黙って眺めていたフェイスは、何がおかしいのか涙を流しながら笑い始めた。
「ぷっ、あはは……おチビちゃんってほんと……っはは」
「ふぁっっく! なんだよコラ! 笑ってんじゃねー!」
「だって、くく、はぁ……いいよ。しようよ、ゲーム」
「へ?」
「クラブに行く気分でもなくなっちゃったし、今日はおチビちゃんと遊ぼうかなーって。クリアできたらなんでも言うこと聞いてあげてもいいよ」
「おい、子ども扱いすんなよ。つーか、そんなこと言っていいのか? クリアさせたくないからって手ぇ抜くなよな」
「そんな子どもっぽいことしないよ。おチビちゃんじゃないんだし」
癇に障ることばっかり言いやがるフェイスを黙らせて、おれはさっそく準備を進めた。まずはメシ食って、やること全部終わらせたら寝る直前までゲームをしよう。クリアできなくても眠くなるまで続けられたらこっちのもんだ。寝たら朝が来て、余計なことも考えずに済むからな。
「おいクソDJ、おまえもゲームやる前に風呂入ってこいよな」
「はいはいっとー」
◇