大人になるということ。子供でなくなるということ。大人になるということ。責任を背負うということ。大人になるということ。生き残るということ。
 私はそんな風に思っていた。でも、私は今、現実はそうでないということを知っている。
 ロドスにおけるメンタルケアとはつまり、オペレーター達に精神的な後遺症を残さないためのものだ。戦場という特殊な環境は人を変え、容易に消えない傷を残してしまう。それゆえにオペレーターは多くのケアを行う必要があった。彼らの大半は軍人でなかったのだ。ましてや人材の価値は上がり続けていた。
 痛覚をマスキングし、視野角を拡張し、バイタルサインを監視する。訓練と戦闘と診察と治療と、という無限のサイクルを繰り返す彼らには尊敬の念を抱く。私はその円環の外側から何が出来るかを考えているのだ。
 「……ドクター? 扉を開けてくださるかしら?」
 「いいぞ」
 ディスプレイは来客を告げていた。承諾すると扉が音もなくスライドしてロサが現れた。腕に付けた腕章はキリル文字で記されている。
 「その、昨日から予約をしていたのだけれど」
 「ああ。これから先一時間は予定がないから大丈夫だ。そこに座ってよ。短い話ではないと聞いているけど」
 「はい、おそらくは、とても」
 私は疑問を抱いた。ロサは既に緊張しきっているように見えたのだ。私の立場を考えれば当然のことかもしれないが、彼女との面談は今に始まったことではない。お土産にもらった紅茶を入れてロサにカップを手渡すと、彼女は両手でそれを受け取った。
 「私は、今日、自分の中に抱えているものを全ていっぺんに吐き出してしまおうと思っているのです」
 「うん。簡単ではなさそうな試みだね」
 「しかし、いつかは行われねばならないとも思っています」
 紅茶の液面を見つめるのを止め、顔を上げたロサは私の方をきっと見た。その目が震えているということを私は心の中に留めておくことにした。
 「先生、私は乗り越えることが出来るでしょうか?」
 「ロサ、君は『心理社会的モラトリアム』という言葉を知っているだろうか?」
 「いいえ」
 「では、アイデンティティの確立であったり、青年期という言葉には?」
 「はい、習ったことがあります」
 「よし、そこから話を始めよう。君が倫理の授業が好きであってくれるとありがたいけど……」
 ロサが話している間、私はじっと椅子に座ったまま彼女が何を言っているのか、何を言いたいのか、何を言いたくないのかについて考えていた。彼女の話し方は一貫性が保たれ、極めて矛盾が少なく、明朗な論理に基づいた説明であったため、私は考えることに集中することが出来た。
 適当なホワイトボードを引き寄せてホログラフを投影し、簡単な図をいくつか用意する。
 「君の行動には一貫性があった。私達が考えたいのは、何故君がそれを選んだのかということだ。私の個人的な意見としては、君の選択以外に残された道はなかったようだけどね」
 「虐殺の王となることが、ですか?」
 「そうだね。君が解決できる問題を超えていた以上、その選択肢以外はのこされていなかった」
 問題はもっと深いところにあったんだ、と私は続ける。
 
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