「篠岡のイメージってさ、なんか太陽とか青空とか、そういう感じない?」
水谷が振って来る話題はいつも唐突。今までの話に篠岡のしの字もなかったのにどうしてと奴の視線を追えば、窓の向こうにとんでもねえデカさの麦わら帽子。ああ、草刈りかと思いながら向かい側の花井を見やれば花井の視線もまたデカい麦わら帽子。
「オレは麦わら帽子かな」
「見たまんまじゃねえか。しかも今の」
「じゃあそういう阿部はどうなんだよ」
至極真っ当なツッコミを送ればお手本のような切り替えし。
「……どうだろな」
そんなこと突然言われたってわかんねえな。同じクラスで同じ部活で、イメージって言われたところで何かがすぐ思い浮かぶわけじゃない。強いて言えばマネジだろ、ってそれは篠岡の属性であってイメージじゃない。
「そんな眉間に皺寄せて難しく考え込むことじゃないよ。いつも笑顔とかお握り美味しいとか、……可愛いとか」
「イメージってかそりゃお前の主観だろ」
「確かにお握りは美味いけど、イメージって言われてもな」
咥えていた紙パックのコーヒーが無くなったのが、吸い上げたストローからくぐもった音が漏れた。タイミングよく予鈴のチャイムが鳴って水谷や花井だけじゃなく、教室内の思い思いの場所でだべっていた奴らが自席へと戻り始める。五限はシガポの数学。寝たら放課後の部活でモモカンに頭潰されるな。そんなことを考えながらぽっかりと空いた廊下側前から三番目の席を見る。デカい麦わら帽子の持ち主はギリギリで教室に飛び込んでくるのだろうか。水谷の言うところの太陽みたいな笑顔で。
「青空の下の太陽って言うよか、夕焼けじゃねえかな」
「……何、急に」
思っていたことが口をついて出ていたことに気が付いたのは篠岡の反応から。不審な目で見つめられれば居心地が悪くなる。
放課後の視聴覚室は大会前に限り篠岡の根城のようなものだ。練習に支障がない程度にマネジの仕事を終えてからテレビのあるこの教室でホームビデオで撮影された他校の試合をデータにまとめていく。オレはポジション上アドバイスを求められることが多く、モモカンとシガポの許諾を得て篠岡とこの教室に籠る時間はいつも夕方。
「いや別に、何も」
「何もって、独り言にしては意味不明過ぎるし声は大きいし。気になるよ」
今だってほら、夕陽が差し込む窓際に座る篠岡は頬が太陽の色に染まって麦わら帽子の下やお握り配ってるときに浮かべる顔とは多分違う表情。神経使うことしてるせいか、表情だっていつもより厳しい。
「大したことじゃねえよ。オレん中じゃあんたは青空の下より夕焼けの印象のほうが強いなって、それだけ」
考えてみたら当たり前だ。授業中や休み時間の篠岡の表情は知らねえし、練習中は自分のことや内容に精一杯で篠岡なんていちいち気にしてられねえ。こいつと膝付き合わせて何かするのは雨の日か夕方、そのどっちか。
なのに雨の印象がねえのは。
「……こっちまで恥ずかしくなるから、照れんのやめろ」
「らしくないこと言う阿部くんが悪い。夕焼けの印象って、はじめて」
「仕方ねえだろ」
篠岡と話すのなんて教室じゃ一言二言の業務連絡、練習中も同様。一番会話らしい会話してるのが夕暮れの視聴覚室なんだから、どうしたってその印象が強くなる。こいつが普段は見せないような表情を浮かべているから尚更に。
「だから照れんなって」
「無理。だって予想外過ぎて。……ごめん、ちょっとほっぺた冷やしてくる」
画面の試合は一時停止。足音軽やかに篠岡は視聴覚室を出て廊下の向こうへ。
ため息を誤魔化すように頬杖をつけば触れた掌が熱い。仕方がない、雨の日じゃこんな気持ちにはなりようがない。橙と濃紺が重なり合うとき逢魔が時。オレだってらしからぬ言葉を口にすることだって。