朝目が覚めたら、一番大切な人が腕の中にいる。
そんな幸せが今たしかにここにある。
それを噛み締めると泣けてきて、今この瞬間、死んでもいいと思った。
どれくらいじっと見つめていただろうか。
すうすうと穏やかな寝息を立てていたその人が、身じろいで、口元をむにむにと動かして、やがて目を開けた。
「…はよ」
「おはよう」
腕の中で微笑んだ兄が直視できずに目を逸らす。
「…平気?」
そっぽを向いたまま問いかけてみるも、
「? なにがだ?」
と不思議そうな顔をこちらに向けられてはどうしようもない。
「…なんでもない。シャワー浴びてくる」
逃げるように浴室に来てしまった。
「……!」
後ろでアポロニオが小さく息を呑んだことに、焦っていたヴァッカリオは気付かなかった。
長いこと偉大すぎる兄に対してどんな態度をとっていいのかわからず、つい突っ掛かってしまっていたが
(対外的にもその方がいいと思っていた)、こうして神器覚醒し、叙任式も終え、ナンバーズとして対等な立場になると…
自分の態度が軟化した分、兄はまた昔と変わらない距離まで近づいてきた。
それも、無邪気に。
長年兄に対する以上の気持ちを持て余していた身としては、我慢しなければならないことが多く。
ある日とうとう気持ちをぶちまけてしまった。
きつく抱き締めて兄の様子を窺うと、兄は驚いた表情をしたあと「うれしい」と言ってくれたのだ。
そのときの自分の感情は筆舌に尽くしがたい。
そして今に至る。
シャワーを浴びながら、ついにやけそうになる顔を引き締めて、軽く衣服を身につけリビングに行くと、
兄はもう起きていて朝食を準備していた。
「…出来ているぞ、食べなさい」
「ああ、うん…」
あれ? なんか様子おかしくないか?
さっき目が覚めた瞬間は、幸せだということを隠さない真っ直ぐな感情を向けてくれたはずだ。
けれど今は目を合わせようとしないし、むしろなんだか顔を合わせづらそうな表情をしている。
お兄ちゃんわかりやすいよ。
いただきます、と挨拶してから並べられた朝食に手をつけながら、こうなった理由を考える。
1、やっぱりこういう関係になったのは間違いだったと思っている。
ああ、ありそう…未来ある弟の将来がとかなんとか考えてるやつ…これはきっぱりと「お兄ちゃん以外にはたたないから
他の人との未来は無理」って言えばなんとかなるだろうか。
2、昨日のアレがよくなかった。
これは…地味にこたえる…いや普通にへこむ…。仕方ないじゃん、こっちだって初めてだったんだからさ!!
と心の中で盛大に言い訳してみるものの、この件に関しては次回以降の成長に期待ってことでひとつ…。
3、流されただけで実は他に本命が
ないない。これはない。お兄ちゃんはそんな身持ちの悪い人間じゃない。
だんだん想像があらぬ方向にいきそうで、ちら、と目の前で食事をする兄を見てみたが、やはり視線が交わることはない。
意識的にこちらを見ないようにしていることは明白だ。
はあ。
食べ終わったので、ごちそうさまをしてから、大きな溜め息を吐いてみる。
ビクッとわかりやすく反応した兄は、恐る恐るこちらを見た。
「や…やはり怒っているのか…?」
え?
なんで俺が怒ってることになってるの?
「どういう意味?」
質問に質問で返すと、棘のある言い方が兄の問い掛けを肯定させる結果になってしまったらしい。
俯いてしまった兄に、なるべく落ち着いて声を掛ける。
「なんで怒ってるって思うの?」
「それは…」
「うん」
「つまり…」
言い淀むから、なにか深刻なことかと身構えた。
「そ、その…だから、つまり…お前の、肩や、背中に、その、爪を…立ててしまって、き、傷が」
え。
なんか恥ずかしいこと言われたような。
そう思ったが、目の前の兄が居たたまれない顔で本当に申し訳なさそうにしているので、浮かんだことを飲み込んだ。
「うん…?」
それの何が問題なのだろう。
昨夜、痛みや羞恥を抑えるために必死でシーツを握り締めていた兄に、自分に腕を回せ、しがみついて爪をたてろ
と言ったのは自分だ。
たしかにシャワーを浴びた際に少し沁みたような気もするが、もし肩や背中に傷があるのならむしろ嬉しい。
まるで勲章のようだし、痕をつけられたことにもなる。
しかしこちらの気持ちとは裏腹に、小さく両手の拳を握り締め、悲愴な面持ちで兄は呟く。
「け、経験がないだけでも、お前に多大な負担を掛けたというのに、こんな傷まで残してしまっては…」
そこまで言ってからキッと顔を上げた兄は、何らかの決意を固めていた。
「だから、ここはまずきちんと、勉強をしようと思う」
…は?
何を言っているのかわからない。
「だからその、こういったことは、今後私が知識を得て慣れるまで待ってもらえると」
「却下」
最後まで言わせずに即断した。
「え」
えじゃない。そんな瞳を大きく丸くされても可愛いだけだ。
この人だめだ。
昨日のなんかじゃ全然足りてなかった。
もっとはっきり愛情を伝えないとわからないらしい。
おもむろに立ち上がって、目の前の兄を腕を引いて立たせる。
そのまま背中と膝裏に手を入れて抱え上げた。
「!!?」
混乱する兄を余所に寝室へ逆戻りする。
何をするつもりなのか察したのか、腕の中の人が慌てて上擦った声を出した。
「ま、待て! 話聞いてたか!?」
「聞いた。却下」
にべもなく断じると、兄は泣きそうな顔をした。
身体をさらに持ち上げてその瞼に優しくキスを落とす。
「現場の第一線でずっと活躍してんだからわかってるだろ? こういうのは『習うより慣れよ』だ」
にやりと笑って寝室に入りドアを閉めると、兄は顔を伏せて俺の首に回した両手に力を込めた。
俺にはそれだけで十分すぎるほどの意思表示だった。
よしおしまいです!!わーい終わった!目的のとこまで一時間以内に到達しました
口調とかネタバレとか全年齢とかいろいろ窺ってしまい大変助かりましたありがとうございました!!
これでいいか…
この表現全く同じこと前に書いた気がしますが見逃してください
ありがとうございます!この話元々「却下」ってとこ書きたかっただけなのでもうすぐ終わります
これ以上はいかないようにします…。
ハートありがとうございますこれすごいですね!!!わあ!!
ハートありがとうございます!
わあ!ほんとにハート飛んでくるんですね感動!!
わあすごいありがとうございます!!