「カンナ。カンナ・ロレーヌ」
 確かそんな名前だったな。思い出せなかった名前を聞き、グラドは満足した。
「そうか。じゃあ、気をつけろよ、カンナ」
 そういってグラドはそそくさとその場を後にした。
「「で??」」
「いや、それでおしまいだけど」
 友人二人は、呆れたため息を盛大に漏らした。
 昼休みに、友人たちと食堂で昼食をとっていた。昨日、女の不良を見かけたという話をしたら、これである。グラドには意味が分からなかった。
「グラちゃーん。彼女欲しいんでしょーーー? 絶好の機会だと思わなかったの?」
「グラドのいいところだけどね。助けたからって相手に見返りを求めないのは。カンナ・ロレーヌ。可愛くて、人当りも良い女子でしょ。次に会う約束とかしときなよ」
「え、は? ああ、そういうこと?」
「「そういうことだよ!」」
 全く同じタイミングで言い切る二人に、お前ら仲いいなと思いつつ、グラドは今更ながら”出逢い”が起こっていたことに気づいた。
「え、でもなあ。話すことも無いしな」
「グラちゃん。そんな姿勢だったら、いーつまでたっても彼女はできない」
「ベタすぎる出逢いでしょ。そこらの女子なら好意持つし運命感じるよ。この際話の内容なんてどうでもいいの」
 まあ確かに、友人たちには彼女を作りたいとは話してはいたが。しかも絶好の機会を逃していたと今気づいた鈍さだったが。
「グラド、友達も少ないでしょ。そうなると、手広く友人からの紹介って手も使えないし。私はそういうのやりたくないし」
「俺から紹介ってのも嫌だって言っただろ。本当に好きになれるかもわからないしって」
 ここまで盛り上がることの事なのか。そこまで言われる程の事だろうか。確かに俺は友達少ないですけど、と若干拗ねに入り始めたグラドに友人二人は追い打ちをかけた。
「今から行ってくれば? イアンみたいにあの時から君のことを忘れられなくて~みたいな戯言をつけて」
「戯言呼ばわりするなよ! 行くとしたら、A組だからな」
「……お前ら、なんで猛プッシュするんだよ」
 グラドは不思議だった。グラドの彼女を作りたいという希望を叶えるというふわっとした希望に対し、カンナ・ロレーヌという存在を明確に推しているように思える。
「グラド、そんな気がなくても悪い印象は持ってないでしょ。カンナは女子にはやっかまれてるけど、ただの嫉妬みたいで悪い噂もないし」
 急いで彼女作ろうとして変な女に引っかかるのは嫌だし、というのはシャール。
「グラちゃん嫌いだったり、苦手だったりすると露骨に顔に出るからねー。第一印象悪くないのはいいと思うよ。お互いにさ」
 と、イアン。二人の友人はどちらもそれなりにグラドの相手のことを考えてくれていたらしい。
 グラドが嫌悪するのはグラドの有名すぎる親に繋がりを作りたくて媚びを売ってくる連中だ。調子に乗ってるとかいうわけのわからないいちゃもんをつけられて絡んでくる連中よりも遥かに嫌いだ。
 カンナはあまり接したことが無いタイプだったが、グラドが嫌悪する連中の匂いはしなかった。
「それに出来上がったら注目カップルだし」
「ランク3位と5位だもんなあ」
「なんだそりゃ」
 そこで二人は目くばせした。どうにも誤魔化そうとする雰囲気に、グラドは二人を無言のままじっと見つめた。
「怒られそうだから今まで言わなかったんだけど」
 と、イアンが携帯端末を取り出して、あるサイトを見せてきた。
 女子人気ランキング2年生編と題して、男子生徒顔画像と名前の一覧が表示されている。
「新聞部でやってる裏新聞の人気ランキング。校内で貼り出してるものとは違ってこっちは会員制サイトだけど」
「まあ裏って言ってもそう大した内容は無いの。あんま品がよくないネタを扱ってるってだけ。今の世の中何言われるか分からないでしょ」
 グラドはそのサイトを眺めてみた。3位にグラドの顔写真が載っている。食事を食べているところだが、視線はこちら側に向かっておらず、カメラ目線にはなっていない。明らかに隠し撮りだ。カンナが言っていた人気があるとはこのことだろう。
「どこで撮ったんだよこの写真」
「企業秘密」
「ごめんごめん。今度はちゃんと掲載許可とるからさ。ついでにインタビューとか受けてくれると助かるんだけど」
 どや顔で答えないシャールと謝りつつも図々しいイアンの願い出をグラドはすげなく断った。
「絶対嫌だ。このサイト後で教えろよ」
 隠し撮り写真が出てきた以上。自分のどんな画像が晒されているのかわからない。隅から隅まで見て抗議をしなければ。イアンとシャールはグラドの許せない範囲を超えてきたことはないので、そういう情報は無いだろうが。わざわざ食事中なんて画像を掲載するのであれば、それは問題だ。どうせ載るならかっこいい画像がいい。
「しかし、このランキングってホントなのかよ。大体人気ってなんだよ。なんで俺が3位なんだよ。友達もすくねえのに」
「一番かっこいいとか、彼氏にしたいとか、友達になりたいとかそういうランキングを総合したランキングなの」
「グラちゃんは滅多に見ないくらいの美形だし、家柄もこれ以上ないくらいいいし、学力は普通だけど、運動神経も抜群だろ? そりゃあ人気あるよ」
「態度が悪い部分もかえって孤高な感じが素敵ってなってるしね」
 友人の率直な感想はやや棘すら感じるが、内容自体は喜んでもいいのかもしれない。いや、表面上のことだけで人の性根なんて分からないことの証左なのだと、思うべきなのか。複雑な気分に浸っているときに、不意に呼びかけられた。
「グラド君」
「あ、あんた」
「食事中にごめんなさい。どうしてもちゃんとお礼を言いたくて」
「もう言ってもらったけど」
「グラちゃーーん」
「とりあえず座ったら、カンナさん」
 グラドがそのまま対応するとまずいと思ったのか。シャールとイアンが会話に口を挟んだ。
「でも、お邪魔じゃ」
「いいのいいの、むしろ俺たちの方が邪魔かもなあ、シャール?」
「そうかも。グラドは沢山話したいこともあるんじゃない? じゃあお二人でごゆっくり」
 話したいことがあるなんてことはまるで無いが、シャールの目線が否定を許さなかった。シャールとイアンが席を外そうとするので、せめて一人で置いてかれないように、制止をかけようとすると、グラドより先に声がかかった。
「待ってください!」
 カンナである。カンナは自分が出した声が思いのほか大きかったのに気づいて気まずそうにするが、沈黙を恐れたのか言葉をつないだ。
「邪魔をしたくないんです。お二人がいてくれた方が、私は嬉しいです」
 取り繕った笑顔に押されて、席を立とうとした二人は座りなおした。
「んで、用は? お礼ってことなら必要ないぞ」
「グラド!」
 シャールが止め、
「カンナちゃんと俺やシャールは初対面だよな、クラスも違うし。自己紹介から行こうか」
「じゃあ、まず」
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