恋をしている、と友人に告げられた。
「彼女に会っているといつも心が浮き立つのだ」
フェルディナントは高らかに言う。会っていると、いつも行っていることが特別に思えたり、目の前の景色が鮮やかに変わる。そして、続けて恋とは素晴らしい、と。
ヒューベルトも同意する部分はある。
いつも飲んでるテフが妙に美味しく感じたり、共に見た夕日がやけに眩しく見えたり。しかし、素晴らしいと思ったことはない。
「彼女がどう思っているかはわからないが」
フェルディナントは眉を下げて笑う。
フェルディナントの想い人には、愛する人がいた。そんな彼女の恋の話をフェルディナントは会いに行ってはよく聞いているようだった。
そんな自分を傷つけるだけの話を聞くなんてやめてしまばいいのに。そう思って声に出すのはやめている、自分と同じことをしている男にどうしてそんなことが言えようか。
「だが、この恋は終わらせねばならない」
フェルディナントは決意に満ちた声で話す。散々想い人のこと話した調子とは異なっていた。ヒューベルトがいつも聞き入ってしまう温度の声だった。
同意する。ヒューベルトも終わらせなければならない。幾度もそう思った。
「相手は彼女の想いを受け取ったそうだ。彼女は喜んでいたよ」
笑いを含んでいたが、表情は分からなかった。ついと、横を向いてしまったから。長い髪が彼の表情を隠してしまう。その表情を見たいような見たくないような。いつだって相反する感情に揺れる。そんな恋をヒューベルトは嫌っていた。
「諦めるのですか?」
諦めならとうにしている。叶わない恋だと。そんなことは初めから分かっていたことだったから。
ただ、会うといつも心が勝手に焦がれるだけで。
「諦めるさ」
フェルディナントがきっぱりと言い切った。今更、余計な気持ちは彼女の重荷になるだろう、と。
同意する。余計な恋は重荷となる。そんなこと知っていたのに。友人として相対しているのに、余計に振れる感情の針が鬱陶しくて、ちぎって投げ捨ててやりたいと何度思ったか。
「それに恋が成就する彼女はとても幸せそうだった」
それを見れるのが嬉しい、幸せだ。と、フェルディナントは微笑んだ。
そこで、同意できないと思った。何故なら、成就しない恋を見届けて安堵し、薄暗く喜ぶ己がいたからだ。
「だから、君がそれほど気に病む必要はないのだぞ」
君は優しいからなあ。と笑うフェルディナントに今日は一層胸を締め付けられる。
「フェルディナント殿」
呼ぶ声だけがついて出て、あとが繋がらなかった。
何を言えばいいのか。自分は優しくないと答えたところで、彼は聞かないだろう。頑固な男だ。嫌味だって怒ったふりをしてあっさりと受けとってかわされる。優しいのは貴殿だと言っても慰めにもならない。
何を言うのか、迷いに迷って溢れ出てしまった。
「好きです」
灼けた恋が吐き出した。たった一言に、己の存在ごと消えてなくなればいいと思った。
そんな馬鹿なことを考えてしまう愚かな恋というものがヒューベルトは嫌いだった。