長い長い廊下を少女が歩いている。裸足のまま、ぺたぺたと音が鳴りそうな様子で、足取りは軽快だ。
 特にその素足を傷つけるような異物はそこには存在しない。塵ひとつ落ちないように、厳重に管理されているからだ。
 やがて緩やかなカーブを描く廊下の向こうから歩いてくる人影が見えてきた。
「おっちゃん、おはよーう!」
 朗らかに片手を上げて挨拶した少女に、声をかけられた壮年の男は笑顔を向ける。
「おう。おはよう」
「おっちゃん今日も元気?」
「ああ、元気だよ。お前さんも相変わらずだ」
「うん、元気。お腹もすいてる!」
「そうかそうか。朝食の前の散歩かい?」
「うん。いつも通り」
「そうか。気をつけてな」
「おっちゃんも、またねー」
 大きく手を振って、少女は男と別れた。知り合いに会えた嬉しさが勝るのか、勢いよく両手を振って歩いていく。
 その様子を立ち止まって見送りながら、男は呟いた。
「あんないい娘がなあ……」
 その眼差しは、憐憫に満ちていた。
 少女はここで生まれてここで育った。世話をしてくれる人間はいるが両親の顔は知らない。
 10歳になるまで自分が寝起きする部屋からは出られなかったが、あるとき部屋を訪ねてきたぶ厚い制服を着た大人から淡々と事実を告げられた。
 あなたはとある大罪人の子供である。
 彼の罪はあまりにも重く、当時の現行法ではその量刑を裁ききれなかった。
 そこから長い年月をかけて刑法の改正が行われ、ある人物が画期的な原案を生み出した。
 何度も審議を重ねて成立した新刑法に則り、あなたは生まれたときから刑に服することになっている。
 すなわち、親が負った刑期をあなたが継続して引き受ける必要がある。
 あなたの親は刑期を全うする前に亡くなった。その分を差し引いた残りがあなたの刑期である。
 あなたの残り刑期は、500年。
 あなたが負いきれない刑期はあなたの子供、孫、ひ孫に受け継がれていくことになる。
 なお、減刑の条件はなし。
 それを神妙な顔で聞いていた少女は、それが話の全てであることを悟ると、明日の予報が雨で残念だとでもいうような調子で軽く言った。
「悪いことしたんじゃ、しょうがないよね」
 その後に簡単な情緒や知能を測るテストを受けさせられた。最終的に少女に下された判断はこうだ。
 自由意志の可能性、極めて低い。
 その日から、少女は自室を出て施設内の散歩をすることを許可された。
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罪の在り処
初公開日: 2020年08月16日
最終更新日: 2020年08月17日
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