美月編4「美月と看病」
「京ちゃん、体温計いる?」
「大丈夫……」
救急箱を漁りながら京子に声を掛けると、彼女は首を横に振った。どうやら気分が悪いだけの様子だ。家族のなかでは一番気が利く美月は、自然と体調不良の面倒も見るようになった。
料理をやるようになったのも、初恵が熱を出して寝込んだとき「ちょうど家庭科実習でおかゆ作ったから」と進んで作ったからだ。盾(じゅん)もサポートしつつ、鮭フレークをまぶしたおかゆを出したところ、初恵が珍しくぽろぽろ泣いてしまって驚いたのを、美月は懐かしそうに振り返る。その母が言うには、あれは嬉し泣きだったらしく、初恵が店に復帰した日には夕食が豪華になった。
「絆創膏とか足りなければ、明日にでも買い物行くけど」
「んー……念のため一箱、お願いして良い?」
「いいよ」
「ちゃんと休んでね」
「ん」
小さい頃、幼心に両親がお店で共働きであることを察していた美月は、「ぼくがしっかりしなきゃ」と掃除や洗濯をしようとしていた。当然、どうすれば良いか分からずにぐずったり、床がびしゃびしゃになったりと、初恵からデコピンを受けた回数も数知れず。
一方で、正直にやりたかったことを言ったおかげで、両親から少しずつやり方を教わっていくことができ、今の特技にも繋がっている。
「はい、お水」
「ありがと」
今では、陽介との間で「何だかんだぼくらで店を切り盛りしそうだよね」と笑い合っている。それを聞いた、外で色々やりたいという京子から「任せた」と言われ、「ちょっとくらい手伝ってよ」と苦笑いもした。
気が合う相手である森宮創からは「盾さんみたいな、立ち位置で、初恵おばさんみたいな、役割」と評されたときには、納得した美月がコーヒーを入れて感謝の言葉に代えた。
何にしたって、得意なことを褒められるのは気分が良い。その道に向かってひたむきに進むのが楠家らしいといえば、そうなのだ。