窓の外を眺めれば、様々な形のビルが乱立する都会の風景があり。
真正面を向けば、自分にとっては分かりきったことを教える教師の姿があり。
後ろを見れば、しっかりと生徒が授業を受けているか監視するためのドローンがあり。
そして右隣を見れば…俺と一緒にこの世界へ転生してきた我が弟、練也の姿があった。
「…ん、どうしたの? 達也」
「いや…。ていうか、その呼ばれ方は相変わらず慣れないな…」
「仕方ないよ。この世界だと僕ら、双子ってことになってるらしいしね。それより、あまり喋ってるとドローンが…」
そう言われて、もう一度後ろに視線を向けると黒サングラスみたいな目を画面に移したドローンがツツ…と滑り寄って来る姿が見えて一瞬ビビったが、そのドローンはゆるりと方向転換して逆サイドにいる居眠り同級生の方に向かっていった。
「王道遊我くん! 授業中の居眠りは厳禁ですー!」
「うわぁっ!?」
ドローンの大きな注意が飛び、クラス全員が居眠り同級生の方へ注目している間に再び弟と…いや、元・弟とヒソヒソ話を再開することにした。
「あのさ、なんか思いついたか? その…元の世界へ帰る方法とか」
「え? いや僕はそんなこと……考えたこともなかったよ」
「Oh……なに? お前はもう未練ないわけ? 俺とか未練タラタラなんだけど。こんなアニメみたいな世界で二回目の小学生するよりやっとの思いで受かった大学に入学して、大学生ライフを送りたかったんだけど…」
「……未練がないわけじゃ、ないけど。あの時、本当に僕らが死んじゃってたなら…正直、もう…ね。仕方ないことだし、諦めがついちゃってさ。それよりはもういっそのこと、このアニメみたいな世界を堪能したいって思ったんだよね」
「うーん……それもまあ、一理あるけどな。いや、それでも俺は諦めないぞ…! 最後の最後まで、何か方法を…」
「栗島達也くん! 授業中におしゃべりしてはいけませんっ!」
「おわぁっ!?」
ヒソヒソ話に集中しすぎてドローンに気づかなかった俺もまた、クラス中の注目を受けるハメになってしまった。
なぜか練也の方は怒られなかった。
 
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「ねー、達也。今日はデッキ持ってきてる?」
「…ああ。お前があんまりしつこいから……一応、な」
授業の合間の休み時間に元弟、現双子の練也に声を掛けられて、俺はちょっと辿々たどたどしくなって答えた。その様子に、練也はちょっと不満そうに口を尖らせて言った。
「もう。達也ったら、お兄ちゃんだった時は遊戯王大好きだったのに、この世界に来てからどうしちゃったの? まるで自分のデッキが嫌いになったみたいだよ?」
小学生に年齢退行し、かつアニメキャラっぽい見た目になったのを意識してか、頬を膨らませるなど妙にあざとい様子で不満を表現しだす練也。そんな元弟の様子を見ながら、半ばイライラしながら俺は答えた。
「ああ。遊戯王は大好きだし、自分のデッキも好きだよ……その、俺のデッキ《《全て》》が手元にあれば、の話だけどな」
俺が鞄の奥底から取り出した、青の透明ケースに入ったデッキ。
そのカードの束からは、いろんなものが消えていた。
カードを保護するために覆っていたスリーブも。
カードの裏側の端にある「遊戯王OCG」のロゴも。
そして何より、カードが丸ごと……EXエクストラデッキのカードが丸ごとなくなっていて、
俺のデッキは…メインデッキとサイドデッキのカードしか残っていなかった。
「なんだよ…なんだよ……なんでエクストラないんだよ…エクストラなしでどうやって戦えっつーんだよ…」
机に突っ伏して拗ねる俺の肩を、練也はポンポンと優しく叩いた。
「うん、気持ちはよく分かるよ。僕だってエクストラデッキだけがどこをどう探してもなくて、心細かったからねー」
「お前のデッキとは話が違うだろ…お前のテーマと違って、こっちはエクストラありきなんだぞ。エクストラなしのメインだけで、低攻撃力ビートしろってか? まともに戦えるわけねーだろーがよ…」
「まあまあ、そんな落ち込まないでよ。僕のデッキなんて、多分エクストラなしの達也のデッキ相手でも勝てないと思うもん」
「いやお前それは……それは…いや、そうかも、しれない、けど……よ」
断言、できない。エクストラなしの俺のデッキが、練也のデッキに勝つか負けるか。
なにせ、練也のデッキと言ったら…環境レベルどころか、一般的なフリー対戦ですらまともに勝てないであろうレベルの……完全に拘り抜いたテーマデッキなのだから。もちろん、俺のデッキも環境レベルではなく、せいぜいフリー対戦で勝てるか勝てないかというレベルなので、元弟のデッキについてとやかく評価できる立場でないが。
それはともかく、こうして練也が俺のデッキ持ち出しにこだわる理由について、一つ思い立った俺は顔をゆっくり上げた。
「まさかエクストラなしの俺とお前で、実際どっちが強いかデュエルしたいとか、そういうことか…?」
「いやあそれはまた今度にしてさ……今僕が気になってるのはさ、”ラッシュデュエル”ってやつなんだよね」
「ラッシュ……? なんじゃそりゃ」
「ほら、こないだクラスのみんなが話してたじゃん。デュエルディスクの形が変になったとか、新しいデュエルのインストールとかいう…」
そう言われても、俺は全く覚えがない。ぶっちゃけこの世界に転生してから数日、俺の心はここにあらずといった状態ではあったし、突然クラスメイトになった周りの小学生共の会話なんて耳に入ってもそのまま逆の耳から出ていく状態になっていたと思う。そもそも、「新しいデュエル」とはなんぞや。「ライディングデュエル」とか「スピードデュエル」とかそういうのしか、俺は知らない。
「それでね、そのラッシュデュエルの発明者ってもっぱら有名になってるのが…同級生の、ほら あれ」
練也がこそっと指差した先にいる同級生の姿といえば、オレンジと黄色のツートンカラーの髪色を持つ、まさにホビーアニメのキャラといった感じの小学生。なにやら他クラスと思しき人達とワイワイしているようだった。
「あいつ…さっきの授業の居眠り君じゃねえか」
「そう。彼こそが校内中で噂のラッシュデュエルの発明及びインストールを成し遂げた、王道遊我君。……気にならない?」
「気になる? 何が?」
「名前だよ、名前。”遊”がついている……って、ことはさ」
意味深に語る練也。俺は練也の言うことを理解するのにきっちり1分はかかった。
そう、名前に「遊」がつくキャラといえば…
「なんだ? あいつが…アニメ遊戯王の主人公なのか? でも遊戯王の最新作って、ブレインズってやつじゃなかったか?」
「まあね。ただあれは放送終了したから。ひょっとしたら…僕らが死んだ後に放送される、新しいシリーズの主人公かもしれないじゃん?」
「…まあ、そうかもしれないけどよ。主人公だから、なんだってんだ?」
俺が思わず首を斜めにすると、急に練也の顔が輝き始めた。
この上ないワクワクを顔いっぱいに詰め込んだような表情をしてる。
「だってさ、だってさ…! 遊戯王の主人公と友達になったらさ! いろんな面白い戦いとか、シリアスな展開の中のデュエルで戦ったりとか…そういう日常に紛れ込めるかもしれないじゃない!」
「…そういうね。だけど、ああいうのは二次元の世界として見るからいいのであって、当事者になったらエラいことだぞ。命を賭けてデュエルしたり、負けたら魂が奪われたり封印されたり…」
「大丈夫、僕は怖くない! なにせ、一度死んでるからね! もう何が来たってヘッチャラだよ!」
「……言っとくけど、俺は怖いからな。やだからな命や魂を賭けてデュエルするのなんて」
そういうことを口に出していると、思わず想像して体が縮こまってしまう。
だがそんな俺を放っておいて、練也は席を立ち始めた。
「…遊我く〜〜ん♪」
その声は…俺に言わせれば、非常にわざとっぽい響きだった。有り体に言えば、キモい。アニメキャラ風味の風貌になっていなければとてもじゃないが見れたものじゃない笑顔にもなっていた。だが、そんなわざとらしさ満載の練也の声でも推定主人公である遊我くんと…その周りにいたカラフルな頭の男女数人も振り向いた。
「あれ、キミは確か……」
「ねー遊我くん、最近ちまたで噂のラッシュデュエル…その発明者がキミって、ホントなの?」
そう言う練也の右手にはどこから出したのか、いつの間にか新聞が握られていた。あれは確か、普通の新聞じゃなくて学校新聞だったような気がする。学校新聞なんて、本当の小学生時代でもまともに見たことはなかったが…。
自分より高めの視線から見下ろされているくだんの遊我君は、”ラッシュデュエル”の言葉を聞くと少し目を輝かせ始めた。
「うん、確かにそうだけど…ひょっとしてキミ、ラッシュデュエルに興味があるの!?」
「そうなんだよ。僕、デュエルからはしばらく離れてたんだけど…この新聞の記事を見て、またちょっと、興味が湧いてきてさ」
「デュエルから離れた…だと? どういうことなんだ?」
練也の言葉に反応したのは…このクラスでは見かけない人物。青髪に赤目の強気そうな男の子だ。その男の子の問いに対し、練也は露骨に顔を曇らせだした。
「僕…さ。デュエルが弱いんだ。今日までどんな人と戦っても、連戦連敗。負けが続くたびに、何もかも嫌になって…さ。ずっと授業にも身が入らなくて、心が沈んでたんだけど……不思議だね。ラッシュデュエルって、見たことのないデュエルの言葉を新聞で見た瞬間に、なんだか…どうしても、気になってきちゃったんだ。それで今日 勇気を出して、遊我君に声かけて見たんだ…」
深刻そうな顔で話す練也を前に、遊我君とその周辺の生徒達は真剣そうな表情で聞いている。一方、ちょっと離れたところで聞いてる俺は呆れた表情になっていることだろう。練也のやつ、言ってることの3分の2は大嘘だ。確かに練也のデッキは弱く、まともに勝てた場面がほぼないくらい、連戦連敗なのは間違いない。だが、それが嫌になるくらいならとっくにあんなデッキは解体バラしているはずなのだ。負けてもへこたれず、弱くても構わない。自分の好きなテーマで戦い続けるという、鉄の意志と鋼の強さを持つ男が練也なのだ。第一、同姓同名の小学生としてこの世界に転生してからたった数日なのに、授業が身に入らないもクソもあるものか。
だがもちろん、そんな嘘に気づくはずもない遊我とその仲間達。今にも涙ぐみそうなフリを見せる練也に、遊我君がその手を取ってブンブン振ってみせた。
「大丈夫だよ! ラッシュデュエルは、いつだって逆転のチャンスがあるルールなんだ! ラッシュデュエルなら、キミもきっと楽しくデュエルができるはずだよ! そうだ! デュエルディスクは持ってる? もしよかったら、今から……」
「いけません遊我くん! 休み時間は残り1分を切ってしまっています! いくらスピード感満載のラッシュデュエルといえど、せめて休み時間がフルにないと、時間オーバーの危険があります! 許可はできません!」
「あら。後1分なら、生徒会長も6年のクラスに戻らないと間に合わないんじゃない?」
「ムムッ! それはロミンくんの言う通りです! では、私はこれにて…失礼します!」
紫髪の女の子から「生徒会長」と呼ばれた、一段背の高いピチッとした服装の男の子が角ばりながらも素早い動きで教室から去っていった。六年生で生徒会長らしき彼とも親交があるとは。遊我君は本当の小学生時代だった自分と違って、コミュ力は相当あるようだ。
残り1分の休み時間の中、練也は屈託のない笑顔で遊我の手を握り返した。
「なら…ちょっとデッキ調整をしてから、ラッシュデュエルをしてみたいな。放課後…とかは空いてる?」
「もちろん! それじゃ、屋上のデュエル場を使おう! 放課後、そこで待ってるからね!」
「うん。…とっても楽しみにしてるよ!」
俺の弟(元)と主人公(仮)との友情が生まれたらしい瞬間に、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴った。
 
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そして、放課後になった。
俺と練也は、六角形の形をした屋上の広場に到着したが…そこにはまだ誰もいなかった。
「そういえば遊我君、なんだか機械みたいなのいじってたな。約束、忘れてんじゃねえの?」
「大丈夫。きっとすぐに来るよ。ちょっと遅れてるだけだよ」
「その根拠は?」
「だって…遊我君は、デュエリストだからね!」
納得できるようなできないような理由を語りながら、左腕に六角形の機械を取り付ける練也。どうやらこれが、いわゆるデュエルディスクということは聞いていた。初代から比べれば随分コンパクトになった気がする。
「ところで…くだんのラッシュデュエルとやらのルール、知ってるのか? 普通のデュエルと、どの程度違うんだ?」
「いやあ、なかなか大味で豪快なルールなんだよ。あのルールでOCGやるってなったらもう混沌カオス極まりないと思うね」
「ほう…具体的には?」
ちょっと興味が湧いてきた俺の様子を見て、なぜか少し得意げになった練也は解説を始めた。
「まずね。基本的なルールは”スピードデュエル”とほぼ一緒なんだ。EXモンスターゾーンなし。モンスターゾーン、魔法罠ゾーンがそれぞれ3つずつ。フェイズはメイン2がなし。お互い手札は4枚からスタート」
「ああ…デュエルリンクスと同じなんだな。それじゃ、違うところといえばなんなんだ?」
「違うところはねー、まずは先攻ドローあり!」
「ふんふん…」
「そしてなんと…通常召喚権が無限! プレイヤーは1ターンに何度でも通常召喚ができる!」
「…んん?」
「さらに…ターンプレイヤーは、ドローフェイズごとに、手札が五枚になるようにドロー! 毎ターン大量ドローができる!」
「…….んんん?」
その言葉に…ちょっと驚いたため、俺は思わず思考が10秒ほど止まってしまった。
「……それってつまり、ガジェットとかを召喚サーチの連続で手札減らさず一気に5体…あ、モンスターゾーン3つだっけか」
「そうそう。だからOCGみたいな大量展開はできないけど…アドバンス召喚も簡単にできるし、毎ターンのドローがあるからモンスターにもコストにもまず困らないっていうね。多分…僕らのエクストラがなくなってるのも、ひょっとしたらこのラッシュデュエルが関係してるんじゃないかって」
「確かに…無限召喚権だと、Sシンクロ XエクシーズLリンク素材揃え放題だからな。パワーバランスという意味では…いや、その点俺のデッキは《《全く関係ない》》んだから、やっぱ納得いかねえ…」
「まあ…その点は僕も事情は似てるからさ。ラッシュデュエルのルール、正直僕のデッキと相性いいかと言われるとちょっと微妙なところだし…いや、もちろん都合の良い場面もあるんだけどさ」
「あ、おーい!練也〜!」
そんな俺たちとの会話を遮って飛んできた声は、王道遊我君のもの。きちんと約束を守って向こうからやってくるその理由は、本当に「デュエリストだから」といった感じなのだろうか。よく見ると後ろからはあの時教室にいたお友達もついてきていた。…生徒会長の姿だけ、なかったが。
「いやあ、遅れてゴメン。僕のロードがもうちょっとで完成しそうだったから、つい夢中になっちゃって…」
「ううん平気。僕も今来たとこだよ」
相手に気を遣った常套句を放つと、練也は左腕のデュエルディスクをさりげなく掲げると、遊我も同じく目を輝かせて六角形のデュエルディスクを取り出した。そんな時タイミングで、遠くから生徒会長が角ばった動きで走ってくる姿が見えた。
「はあ…はあ…ああ、ここで…練也君とデュエルするのですね…」
「あれ? 生徒会長、知らなかったのか?」
「知りませんでしたっ! 校舎中、一通り探し回りましたよ!」
どうやら、屋上でラッシュデュエルする約束を聞き逃した生徒会長は、自力で探し回った挙句になんとか到着したようだ。そんな生徒会長や俺を含めた四人のギャラリーに囲まれ、練也と遊我君は距離をとって対峙した。
六角形のデュエルディスクが、変形を開始する。
「7」の形をしたモンスターゾーンが展開され、彼らそれぞれにデッキから四枚のカードが支給される。
「それじゃあ、いくよ!」
「うん、いつでもいいよ!準備は完了!」
「「ラッシュデュエル!!」」
RENYA:4000
YUGA :4000
「さあ、練也が先攻だよ! 先攻は1枚のドローができるんだ!」
「ありがとう! それじゃ、僕のターン…ドロー!」
4枚の初期手札に1枚加わって、5枚となる練也の手札。
練也は自分の手札を一瞥した後…ほんの一瞬だけ露骨に顔が曇った。
だがその表情を即座に引っ込めると、あたかもワクワクしてますと言いたげな表情に変わった。
「ラッシュデュエルってさ…何度でも召喚ができるんだよね!」
「そうさ! 一気にたくさんのモンスターを召喚する迫力が、ラッシュデュエルの魅力さ!」
「うん、わかった! それじゃあ…」
練也は左手のカードを三枚、右手に携えると…一息に、デュエルディスクのモンスターゾーンに並べてみせた。
「現れろ! 僕のモンスター達!」
「《コアキメイル・デビル》! 《コアキメイル・ドラゴ》! 《コアキメイル・ベルグザーク》!!」
《コアキメイル・デビル》  ATK:1700
《コアキメイル・ドラゴ》  ATK:1900
 《コアキメイル・ベルグザーク》 ATK:2000
「……え」
現れ出たモンスター達を見て、遊我は固まった。
いや…正確にはモンスター達ではなく、その攻撃力の数値にあった。
「な、な、な…なんだありゃー!?」
「ななな…なんですかあの攻撃力は! ありませんよ!?」
「え? え? …あら?」
向こうの遊我サイドのギャラリーのうち、男二人は露骨に驚き
紅一点の女の子は驚くというより戸惑っている様子であった。
「あのモンスターって…四つ星モンスターよね? 攻撃力が2000って…おかしくない?」
「おかしいですよっ! 攻撃力1700といえば、五つ星モンスターの《ハイドロ・マジシャン》と同じ…。攻撃力2000にいたっては、六つ星モンスターの《魔剣士アンサラー》と同じじゃないですか!? 明らかに、4つ星モンスターの攻撃力じゃありませんよ! 異常です!」
「何者なんだ、あの男! あれほどのレアカード、大人の世界を渡り歩いてきたこの俺でも見たことがない…! 奴の正体には何か、とてつもない秘密を感じるぜ…!」
何やら向こうの外野がやいのやいのしているのが俺の方まで聞こえてくる。それにしても…攻撃力2000はともかく、下級モンスターの攻撃力が1700という点は、そんなに驚くほどのことか? とは思うが。だがラッシュデュエルなんてものが発明される世界だ。ひょっとしたら、カードパワーもOCGとはどこか違うのかもしれない。
だが…俺は練也がやった動きを見て、心底呆れ果てた。あいつ、わざとだな…。
「ふっふっふ……カードを1枚伏せるよ。…あれ? 遊我くん、大丈夫?」
「…………」
「ゆ、遊我君…固まってしまってます!」
「遊我ー! しっかりしろー! デュエルに勝って、やつとレアカードの正体を突き止めるんだー!」
「それ、何か目的変わってない?」
微妙に私欲の詰まった声援も含まれていたが、硬直していた遊我もそんな声を受けて気を取り戻したようであった。
「す…すごい、モンスターたち、だね…でも、ラッシュデュエルなら…こんな状況でも、逆転…の、チャンス、が…」
「遊我君…まだビビってますよー! しっかりしてくださーい!」
「…楽しみだね。それじゃあ、僕はこれでターンエンド」
「よ、よし…僕のターン、ド………え?」
遊我が、自らのデッキからカードをドローしようとしたその瞬間、事は起こった。
練也が召喚した胸にそれぞれ同じマークを持つ悪魔、ドラゴン、そして戦士のモンスター達。
そのマークを中心として、モンスター達も内側から赤い光が漏れ出したかと思えば…
それぞれ大きな雄叫びを残して、練也の三体のモンスターは木っ端微塵に爆発四散した。
「「「「は?」」」」
後ろギャラリー三人はもちろん、対戦相手の遊我までもが呆然とする。
モンスター三体が突然自爆し伏せカード1枚だけを場に残した練也は、四人が呆然としているその様子を心底面白そうに笑いを堪えながら、説明を加えた。
「くくっ……あはは、いやあ ごめんごめん。わざと黙ってたんだけどね。実は、僕の『コアキメイル』モンスターはデメリットを抱えているのが多くてさ、エンドフェイズに特定のコストを払わないと、こんな風に破壊されちゃうんだよねー」
「えっ…それじゃあ、今のは…」
「そう。僕はターンエンドの時に、3体分のモンスターの維持コストを支払うことができなかった。だから、全員破壊されちゃって、今の僕の場に残るのはこの伏せカード1枚だけってこと」
カラカラと笑う練也の説明を聞いて、向こう側の四人の肩の力がスッと抜けた。
「なるほど…そういえば聞いたことがあります。レベルに見合わないほどに高い攻撃力を兼ね備えている代わりに、デメリットを兼ね備えているモンスターのことを、デメリットアタッカーと呼ぶとか」
「いくら攻撃力が高くても、あれじゃあ召喚した意味がないんじゃないの?」
「実はあれ、レアカードじゃなかったのか…?」
各々わいわいと言い合う向こうのギャラリー。それぞれ言ってることは確かにあっている。攻撃力2000のベルグザークなんかはOCGで言うデメリットアタッカーに分類されるだろうし、レアカードと呼べるほどの代物でもない。それに、紫髪の女の子の言う通り…わざわざ先攻で自壊デメリットのあるコアキメイルを攻撃表示で出す必要はない。裏側守備表示で出せば自壊も適用せれず壁にはなったはずだ。なのにわざわざ攻撃表示で出した理由……多分、向こうの遊我一味を無駄に驚かせるためだろう。純朴そうな顔をして、練也は妙などころで趣味が悪い。
「ま、まあ…いいや! 気を取り直して…いくよ! 僕のターン、ドロー!」
「早速僕も、連続召喚だ! 来い! 《風の子サイク》! 《ファイア・ゴーレム》! 《ダーク・ソーサラー》!!」
《風の子サイク》 ATK:400
《ファイア・ゴーレム》 ATK:1200
《ダーク・ソーサラー》 ATK:1500
遊我君のフィールドに並んだのは、名前も姿も統一性のないモンスター達。
攻撃力も総じて低い気がするが…何か、特殊な効果があるのだろうか?
「よし…僕は、2体のモンスターをリリースして、アドバンス召喚をするよ!」
かと思ったら、攻撃力の低い《風の子サイク》と《ファイア・ゴーレム》の2体のモンスターが一瞬でリリースとして消えていく。残った2枚の手札のうち、1枚を右手にとって大きく上に掲げる遊我君。
「ゆく手を阻む壁も 山も 惑星も!」
「ロードを切り開いて 突き進む!」
遊我君がデュエルディスクに展開するモンスター…7つ星の最上級モンスター。
「いくぞ!《セブンスロード・マジシャン》!」
《セブンスロード・マジシャン》 ATK:2100
ド派手な演出と共に現れた、燃え盛る頭部を持つ魔法使い。一般的な遊戯王主人公のエースと言われる2500の数値には及んでいないが…ただの大型モンスターという訳ではあるまい。
そして、練也の方も同じことを思ったのか……その口元が、大きく弧を描いた。
「《セブンスロード・マジシャン》……なるほど、それが君のエースとみた!」
「僕はその召喚成功時に罠カード発動! 《オートマチック・レーザー》!!」
「っ!?」
満を持してとばかりに発動された、たった一枚練也の場に残されていた罠カードが起動する。ソリッドビジョンシステムによって具現化された妙な機械にも、コアキメイル達共通のあのマークが刻印されている。
「この罠カードの発動条件は、相手が攻撃力1000以上のモンスターの召喚・特殊召喚成功時に、手札の《コアキメイルの鋼核》を見せること! 僕の手札にある《コアキメイルの鋼核》のエネルギーを用いて、君の《セブンスロード・マジシャン》を破壊させてもらう!」
「な、なんだって!?」
練也が握っていた一枚の手札を公開すると、そこにあるのは奴のデッキの核…《《決して発動することができない》》という、遊戯王の中でも一際特異さが目立つ魔法カードだ。そのカードから光の帯が発生し、練也が発動した罠カードへ吸い込まれていく演出が発生した。
「エネルギー充填、完了! 目標、《セブンスロード・マジシャン》!! 標準補正、OK! 《オートマチック・レーザー》…発射!」
兼ねて考えていたのかアドリブなのか、罠カード1枚に変な口上を付け加える練也。そしてソリットビジョンもご丁寧に空気を読んで練也の発射セリフとピッタリのタイミングによって、《オートマチック・レーザー》から黄色い光線が目標に向かって放たれた。光線を喰らった遊我君のエースと思しき《セブンスロード・マジシャン》は、一瞬の悲鳴を上げた後にこれまた派手なエフェクトと共に爆散してしまった。
「あの《セブンスロード・マジシャン》が、何もできずに破壊されちゃうなんて…」
「練也君は…どうやら、遊我君のエースを狙い撃ちするつもりだったようですね。《ファイア・ゴーレム》や《ダーク・ソーサラー》にあの罠カードを発動することもできたはずですが…あえて、温存をしたと」
絶句するロミンに、小学生とは思えないほど冷静に分析する生徒会長。一方の青髪の子は腕を組んだまま神妙な顔をしてデュエルの行く末を睨んでいるかのようだ。
「く……だけど、まだだ! 僕にはまだ《ダーク・ソーサラー》がいる! カードを1枚セットして、バトルだ! 《ダーク・ソーサラー》で、ダイレクトアタックをするよ!」
《ダーク・ソーサラー》 ATK:1500
RENYA:4000→2500
「うわっぷ……! いや…まだまだ!」
練也は直接攻撃を喰らってしまったが、まだライフは半分以上も残っている。ただ、ボードアドバンテージは二枚の差をつけられ、練也の手札は発動できない魔法カードが一枚。
「これで僕は、ターンエンド!」
遊我君のターンが終了した時点で見れば…練也が不利なのは明らか。
だが…その不利なんて容易に覆せるはずなのだ。
「…よし、僕のターン!」
このラッシュデュエルの、ルールならば。
「ドロー!」
練也の手札に、一気に四枚のカードが加わる。
毎ターンのドローフェイズ時に、1枚のみならず5枚になるようにドローができる。このルールは…一度有利な状況に立っても、油断が一切できない。メンコのように、いつひっくり返るのか分からない。
これは…見ている側もハラハラする。ましてや、デュエルしてる当人達はどれほどだろうか。
「僕は…魔法カード、《コア濃度圧縮》を発動! 手札から《コアキメイルの鋼核》を見せつつ、さらに《コアキメイル・サプライヤー》を手札から墓地へ送って効果を発動するよ! デッキからカードを2枚ドロー!」
「また、あの鋼核とかいうカードを…?」
文字通り、練也のデッキの核となる《コアキメイルの鋼核》。流石に二回も見せたりしてたら、向こうの青髪の男の子みたいに気づくこともあるだろう。だからと言って…手札のあの鋼核を妨害できる手段が、遊我君にあるかどうか。
新たにデッキを回転させた練也は新たに引いてきた二枚のカードを確認すると、メインフェイズの召喚に移る。
「よっし! 僕は二体のモンスターを通常召喚! 《コアキメイル・フルバリア》!! 《コアキメイル・テストベッド》!!」
《コアキメイル・フルバリア》  ATK:1200
《コアキメイル・テストベッド》 ATK:1800
「攻撃力1800…やっぱり、高いね…!」
冷や汗をかいているような遊我君。最初の1ターン目で練也がやらかしたことが余程印象深いのか、警戒の色を見せつつもまだ気丈な笑みは消えていない。おそらく、攻撃力が高くてもエンドフェイズに自壊するのならば大したことはないとか考えているのだろうか。…ただ、あのコアキメイルは特殊な方で、特にデメリット能力を持っていないと知ったら、遊我君はどう思うだろうか。
「ふっふっふ…攻撃力1800どころじゃあないよ?」
「え?」
何やら怪しげな笑みを浮かべた練也は、再び1枚のカードを掲げる。
…ひょっとして、あいつが引いたモンスターは2枚だけじゃなくて…?
「僕は、《コアキメイル・フルバリア》 をリリースして……アドバンス召喚!」
「科学の証を胸に刻まれし紅蓮の悪魔! その拳の先で燃え尽きるがいい!」
「僕のデッキのエース二番手! 《コアキメイル・ヴァラファール》!! 」
《コアキメイル・ヴァラファール》ATK:3000
またそれっぽい口上と共に現れたのは、赤く燃える翼を持った、見上げるほど大きな体躯の悪魔。胸には例のマーク。そのモンスターを見上げる遊我君やギャラリーの各々は、攻撃力の数値やレベルを見て目ん玉が飛び出るかの如く驚いた。
「こ、攻撃力3000!? そ、それって…《《あの時の》》モンスターと同じ…!?」
「というより、あのモンスター八つ星モンスターですよ!? 今、練也君はモンスター1体だけをリリースしてアドバンス召喚しませんでしたか!? そんなのって…!」
「あり得るんだよね! 僕の《コアキメイル・ヴァラファール》は、リリースの素体にコアキメイルモンスターを流用することによって、その一体のリリースのみでアドバンス召喚できる特殊な八つ星モンスターなんだ!」
ギャラリー達が、練也の説明に対してザワザワとどよめきだす。いわゆるリリース軽減効果持ちの最上級モンスターだが…この小学生達には、馴染みがないのだろうか? まあOCGでも有名かと言われれば少し悩むとこではあるが。
思わず一歩、後ずさるような動作をする遊我と対照的に、一歩踏み出して好戦的な態度の練也。
「僕もカードを1枚セットして…バトルだっ! まずは《コアキメイル・テストベッド》で、《ダーク・ソーサラー》に攻撃!」
《コアキメイル・テストベッド》 ATK:1800
《ダーク・ソーサラー》 ATK:1500
《コアキメイルの鋼核》を基にした四つ足の機械生物とでも表現できる練也のモンスターは、オレンジ色のうねるコードを何本も漆黒の魔法使いに向けて勢いよく伸ばした。コードでグルグル巻きにされた《ダーク・ソーサラー》は触手プレイよろしく勢いよく締め付けられ…破壊された。
YUGA :4000→3700
攻撃力の差は300。遊我君に入るダメージは軽微だが……次に来る本命の攻撃は、今のように軽くはない。
「さあ…覚悟! 僕の二番手エースの攻撃、とくと味わってよね! 《コアキメイル・ヴァラファール》で……遊我君に、ダイレクトアタックッ!」
練也の攻撃指令を受けた二番手エースこと、《コアキメイル・ヴァラファール》が腕を上げ始める。その場に出現してから一歩も動いていないモンスターだが、その巨大な体躯から放たれる拳は、遊我君にも余裕で届くだろう。
だが、この圧倒的な状況の中…遊我君は会心の笑みを浮かべた。
「いや…僕は、この時を待っていた! 君が《ダーク・ソーサラー》を倒して…僕の墓地の魔法使い族が4体になる時を、ね!」
「…!?」
「そうか! 遊我はあのカードを…!」
「リバースカード、オープン! 罠カード《ダーク・リベレイション》!!」
「墓地の魔法使い族…《風の子サイク》《ファイア・ゴーレム》《ダーク・ソーサラー》《セブンスロード・マジシャン》の4体をデッキに戻すことで、相手の場の攻撃表示モンスターを…全て破壊するっ!」
遊我の発動した罠カードから発生した白き爆発の光が…《コアキメイル・テストベッド》と《コアキメイル・ヴァラファール》を包み込んだ。
「…残念だったね」
「へ? ……うわあああっ!?」
そして、その爆発の奥から再び現れた紅蓮の悪魔の拳が遊我君に叩きつけられ、大きく吹き飛んだ。
《コアキメイル・ヴァラファール》ATK:3000
YUGA :3700→700
「な……なんで…!? 《ダーク・リベレイション》が…効いてない?」
よろめきながらも混乱した表情で立ち上がる遊我君。正直派手な吹っ飛び方だったから結構不安だったが、遊戯王アニメの例に漏れずそこのところは気にしなくても良さそうだ。一方、最初から微塵も心配してなさそうな練也は、ニヤニヤ笑いと共に解説を始める。
「いやいや、充分に効いたよ。僕の《コアキメイル・テストベッド》は君のミラーフォースのような逆転のカードに破壊されて、予定が狂っちゃった。でも…この紅蓮の悪魔だけは、特別」
「そう、《コアキメイル・ヴァラファール》は赤を司る紅蓮の悪魔! 罠カードの効果によって、この悪魔を破壊することはできない!」
「なんと…攻撃力3000に加えて、罠カードに対する耐性まで備えているなんて…」
絶句するギャラリーの中で放たれた、生徒会長の言葉。練也の言う赤を司るから罠カードで破壊されないとかいうでっち上げ設定は置いといて、どうもこの世界ではカードパワーがOCGとは結構隔絶されているのではないかという考えが頭をよぎり始めていた。無論、遊戯王アニメでは大袈裟な驚き方をするギャラリーというのもある意味風物詩ではあるが、最初の遊我君のターンからして、低い平均攻撃力の割りに一切効果を使わずにリリース素材にされたモンスター達。攻撃力3000に耐性がデフォでついていることにも驚いたり。
俺がちょっと考えにふける間にも、練也のターンは終わろうとしている。
「これで僕はターンエンド…だけどこのエンドフェイズに、《コアキメイル・ヴァラファール》は維持のためのコストを払わないと、自壊してしまう」
「だから僕は、手札の《コアキメイルの鋼核》を墓地に送ることで…《コアキメイル・ヴァラファール》の維持を選択する!」
先攻に召喚していた3体のコアキメイルモンスターと同じく、内側から赤い光が漏れ出していたが…練也が手札の魔法カードを墓地に送ることで、不穏なその光は急速に収まっていった。この維持コストは練也にとってもあまり好ましいものではないはずだ。本当は、他のコアキメイルモンスターの維持コストを肩代わりできる《コアキメイル・テストベッド》を用いて《コアキメイル・ヴァラファール》を維持する腹つもりだったのだろう。だが、《コアキメイル・テストベッド》はあのミラーフォースのような効果を持った《ダーク・リベレイション》とやらに破壊されてしまった。計算が狂ってしまったのは間違いない。
だが…計算が狂っているのは遊我の方だろう。
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遊戯王SEVENS 二次創作執筆
初公開日: 2020年08月08日
最終更新日: 2020年08月08日
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今日放送されたので、テストがてら配信。
オリ主もの・デュエル中心・短編