「はいオレの勝ち!」
「また負けたー!」
「ユウ弱すぎじゃない?」
「デュースにはあんまり負けてないし!」
「僕はこのゲーム初めてやるんだから仕方ないだろう」
 平日であればもう床についていてもおかしく無い時間。オンボロ寮の談話室には賑やかな声が響いていた。
 寮生であるユウとグリムの他に、同じクラスの友人二人が遊びに来ていた為だ。ハーツラビュル寮生であるエースとデュースは学校が休みの前日にオンボロ寮に遊びに来ることが多い。全寮制の学園であるため普段は門限などで厳しく縛られているが、こんな時であればきちんと申請すれば外泊も許される。
 揃って何をするかというと、何をするでも無くお喋りをして夜更かしをしたり、借りてきた映画を見たり。この日はエースが実家から持ってきたテレビゲームでバトルを繰り広げていた。
「エースが強すぎるんだよね」
「ま、そんだけやりこんでるわけだし当然っしょ」
「デュース! オレ様と勝負するんだゾ!」
「僕か」
「グリムまだ誰にも勝ってないもんね」
「一番下手なデュース選んでるあたり、勝つまでやめないんじゃないアレ」
「そういう理由で指名されるのは気に入らないが、負けてやる気はないぞ」
 コントローラーは二つ。一対一で行うゲームなので、必然的に二人は観戦に回ることになる。お菓子の袋に手を伸ばしながら、ユウは二人の対決を見守る。
 ユウの世界にも同じようなゲームはあった。コントローラーの形も似ているが、知っている物と少し違う。とてもよく似ているのに、色々なところが少しずつ違う。本当にここは不思議な世界だと思う。
 隣ではエースがヤジを飛ばしながらテレビのモニターを見るのに夢中になっている。ゲームをしているのは二人でも、残りの二人で話し込むようなこともなく、四人で遊んでいるという感覚がとても楽しい。
 元の世界では女友達の家に泊まりに行くことはあっても、
こんな時間に同年代の男子と一緒に過ごした事なんてない。二人がユウの事を男だと思っているからこそ成り立つ関係なのだとは思うが、今のこの関係がずっと続いたらいいのになと思う。
 エースとデュースが友達でよかった。
「ユウ、眠いのか?」
「ん……」
 いつの間にか半分夢の中だったらしい。グリムはまだデュースに勝てないといってゲームを占領ており、もうずいぶんと長い時間ユウとエースはコントローラーを触っていない。
 時刻は二十四時を過ぎており、普段であれば眠っている時間。船を漕ぐのも無理はない。
「先に寝ててもいいぜ、自分の部屋に戻ればここがうるさくしてても寝られるだろ」
「うん、そうする。ごめんね」
「謝る必要なくね? 俺らもほどほどにして寝るわ」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
 ユウは眠い目をこすりながら、談話室を出た。それを見送り、エースはグリムとデュースの間に割って入る。
「お前らそろそろオレにもかわってくんない? グリムも諦め悪すぎ」
「ふな! もう少しで勝てそうなんだゾ!」
「はいはいまた今度ね、ユウ部屋に戻っちゃったけどまだやる? 別のゲームもあるけど」
「オレ様そっちのゲームやりたい!」
「新しいのをやるならユウもいる時がいいだろう。僕たちもそろそろ寝よう」
「まーね。んじゃこれはまた今度な」
 なんだかんだ同じゲームも長く続けてきて飽きてきたのか、すんなり切り上げる話になった。ゲームを片付け、おのおの寝室に向かう。グリムはユウの部屋へ、エースとデュースは来客用の部屋へ。
 ユウがオンボロ寮に住みだしたばかりの頃は、人が止まれるような部屋は殆ど無かった。どの部屋も埃や蜘蛛の巣だらけで、家具もボロボロ。エースがリドルに首をはねられてハーツラビュル寮を抜け出してきたときは本当に人が住む場所なのかと驚いた物だ。エースやデュースに限らず、縁あって知り合いが増える内に人が尋ねてくることも増えた。そんな人たちのためもあって、ユウがコツコツ
片付けを頑張ったのがよくわかる。グリムはこの内の何割手伝ったのだろうか。
 エースとデュースはもう何度も泊まりに来ていて、そこはまるで第二の自分の部屋の様になっていた。正直ハーツラビュル寮の四人部屋よりもオンボロ寮の二人部屋の方が居心地がいいかもしれない。
「電気きるよ」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ」
 エースとデュースはベッドに横になり電気を消すと、それまで騒がしかったオンボロ寮は一気に静寂に包まれた。
 *   *   *
 ふと、物音に気づいて目を覚ました。
 その音の正体はすぐにわかった。同じ部屋の中、もう一つのベッドに目をやると、動く人影が目にはいる。その影は足音を立てないようにゆっくりと扉に向かって歩き出した。
「どこに行くつもりだ」
 部屋の電気が付き、扉に手をかけたオレンジ色の頭がゆっくりと振り向く。
「……便所」
「嘘をつくな。ユウの所だろう」
「嘘じゃねーって」
「ならなんでそんなにコソコソしてるんだ」
「お前起こしたら悪いと思って」
「いつもはそんな事気にしないだろう」
 そう、床で雑魚寝をしていればまるで技とかのように頭を蹴ったり足を踏んだりする男が。そんな気を利かせるわけがない。
「別にいいだろユウのこと行ったって」
「ユウは寝ているだろう。行ってどうするつもりだ」
「夜這いとか?」
「ふざけるなよ」
 抜け駆けなんてさせない。
 あえて口にしたわけではないが、エースもデュースもユウに好意を寄せており、お互いそれに気づいている。肝心のユウはそれに気づいているのかいないのか、どちらに対しても態度は変わらない。
 いっそユウが誰かを好きな気配でもあればまた違ったのかもしれない。しかし、エースとデュースはお互いを牽制し合いながら、ユウとの距離を縮めて行った。
 夜に泊まりに来るようになったのも、エースがユウを夜な夜な遊びに誘うから。二人きりにさせるわけにはいかないとデュースも声をあげ、いまでは二人一緒に行くのが泊まりに行くのが当たり前になっている。
今のところ、どちらか一人だけが泊まりに来たことは無い。
「臆病者のデュースくんはユウに手なんかだせないもんな」
「そういう話をしてるんじゃない」
「じゃぁなんだよ。いっつもお前が邪魔してくるから二人になれないわけだし」
「それは僕だって同じだ」
「オレの方がお前よりユウの事好きなんだけど」
「ユウを好きな気持ちなら僕だって負けてない!」
 デュースは構わず部屋を出ようとするエースの手を思い切り掴んだ。
「ま、見つかっちゃったわけだし、今日は諦めるわ」
「今日はかよ」
「別に、明日ユウに好きだって告ってもいいけど」
「なっ!?」
 エースの言葉にデュースは動揺する。エースには負けたくない。エースにユウをとられたくない。しかし、エースがユウに告白
するというのであれば、自分も恋人候補に立候補するしか無い。しかし、まだそんな心の準備はできていない。
「しねーよ。今の仲のいいマブダチってのも楽しいしね。ユウに彼氏ができたらもうこういうのできないじゃん。ま、彼氏になるのオレだけど」
 エースの言葉を否定できない。ユウがエースを好きな保証はない。しかしデュースの事を好きな保証もない。
「僕だって、エースには負けない」
「はいはい。じゃ、どっちがユウの事おとせるか勝負でもする?」
「望む所だ」
「ぜってー負けねー」
「僕だって」
 熱い火花を散らし合う二人。
 その頃ユウは自分を想う二人の男が宣戦布告しあっていることなんて夢にも思わず、幸せそうに寝息を立てていた。 
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まほユウワンライ 深夜の激戦
初公開日: 2020年08月11日
最終更新日: 2020年08月07日
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