「なぁ。俺って可愛いのか?」
ガタン、と客車が揺れる。
その騒音に紛れてぽつりとつぶやいたつもりだったが、優秀な従者は爬虫類じみた切れ長の瞳を心持ち見開いてみせた。
「どうしたんですか? 坊っちゃん」
ディミトリを(渋々ながら)フォドラでの兄だと例えるならば、、クロードにとっての母はこの砂色の髪をした男だ。
否、実の母にだってこんなにも献身的に世話を焼かれたことはない。このふざけた呼び名だって最初はひどく難色を示されたが、
宥めすかして押し通したのは、これ以上の庇護と愛情を示されれば、むず痒さで己の身が持たないと判断したからだった。
商人であった父と母を魔獣に襲われ、身寄りのない彼を引き取ったのが他ならぬクロードの祖父である現リーガン家公であった。
かの好々爺の真意は異邦からきた孫には測りかねたが、それ以来この青年はリーガンにすべてを捧げている。まるで熱心な信徒のように。
パルミラからやってきた見慣れぬ色彩を持つ幼い子供にフォドラの言葉と貴族として生きていくための基礎的な知識を叩きこんだのも、
他ならぬ彼であった。他の使用人たちが遠巻きにするなか、15歳の時点ですでに同年代より抜きんでて大きかった体躯を縮めるようにして、新たな主に挨拶をして。挑戦的に睨み上げたまだ【クロード】ではなかった少年の言葉を『旋律のようですね』と評した。
パルミラ人にとって言葉は明確な意思を伝えあう道具ではなく、感情を共有し、偉大なる大地へ感謝を捧げるための手立てのひとつだ。宴で舞い踊り、歌うのもその派生である。つまりはパルミラ人であることを初めて肯定してくれたのは、今も共に馬車で揺られている従者なのである。
「……ディミトリが俺と結婚したがる理由がさっぱり解らない」
「ああ……。なるほど。そうですね。俺から見れば坊っちゃんはもちろんお可愛いらしいです。ですが、世間様から見たら違うでしょうね」
「どっちなんだよつまりは」
「俺にとって貴方はこの八年間ずっとお仕えしていた主です。大切に思わないわけがない。慈しみの情を感じないわけがないんです。そういう意味でクロード坊っちゃんは【お可愛いらしい】」
ですが、と声は柔らかく続ける。
「客観的に見て、貴方は【可愛い】というより【格好いい】なのでは? 男子に向ける形容としてはそちらの方が自然な気がします」
「……結論は?」
「つまりは陛下は貴方を遠縁として、未来の家族として愛おしく思っているんです。だから大切に思うし、慈しみも感じる。そして手元に置いて安心したい。……決して坊っちゃんが少女のように儚げで、可憐であるといった意味ではないはずですよ」
投げやりな一にもいやな顔をせずに十まで答えてくれた彼に、曖昧に頷く。
もはや耳たことなってしまったディミトリから捧げられた言葉だと察する能力はさすがだが、そこに隠されたかの王の潜熱を告げたら彼はどんな顔をするのだろう。
(お前の同輩は、俺を女にしたいんだと)
かつてガルグ=マクの士官学校に在籍していた彼は、ファーガス神聖王国の長と世代を同じくする。
というより、孫の婚約者のお目付け役として送り込まれたといった方が正確だろう。【女神再誕の儀】などの行事で幾度か客人として
大修道院を訪れたことのあるクロードだったが、そのたびにこっそり挨拶に来る彼の格好がずいぶんと愉快だった。
リーガン家の従者としての来歴を誤魔化すため、あえて着崩された出で立ちは荒くれ者そのもので、そのくせ戦闘時には後衛で
仲間たちの支援や治癒に当たっていると告げられたときは、申し訳ないが笑ってしまった。つまりは所属していた金鹿の面々には
その心根はお見通しだったのだろう。
Latest / 39:03
文字サイズ
血を傷よりも 竪琴の節
初公開日: 2020年07月19日
最終更新日: 2020年07月19日
ブックマーク
スキ!
チャットコメント表示
ディミクロ2317婚約者パロをちょっとだけ書く回です。
リクいただいた話を書く回
ぷらいべったーさんでリクエストいただいた話を書く回。現パロのディミクロ。バ…オは未プレイなのでご容赦…
渦石