※しょっぱなからダークMAX
燃え盛る人間を見るのが好きだった。真っ黒な人影から立ち上る焔の柱を見るのが好きだった。あの美しさを己の網膜に焼き付けることができるなら、彼らが放つ劣悪な臭いからくる吐き気だっていくらでも我慢できた。と、言うよりもあの光景の前では視覚以外の感覚など無いに等しかった。
何故、燃える家族を見て泣き叫ぶ。何故、町を彷徨う彼らから逃げ惑う。何故、何故、何故。近くで見たいと思わないのか、美しさの根源に何があるか知りたくないのか、彼らがどこに行くのか見守らなくて良いのか。
結局、数年間の内に分かったことは、世間は私のような存在を「ひとでなし」と呼んでいることくらいだった。
ヘッドホンから流れるチープなJ-POPで聴覚と脳細胞を浪費しながら街を歩く。周りの人間を見れば、何だか皆生気が無くて。どいつもこいつも湿気た面下げてんな、なんて思ってしまうのも仕方がない筈だ。あぁ、何か良いことが起こらないだろうか。
2ブロック後ろの金切り声を拾う。体ごと顔を向ければ、建物の隙間からちらつく橙色が見えた。高鳴る鼓動を認識するよりも前に、働き者の両足は勝手に走り出していた。
十字路を左へ曲がれば、それは私の正面にいた。道の真ん中でポツンと立つ様は、とても人に害をなすとは思えない。風に飛ばされた木の葉がそれの真横で焦げさえしなければ、熱をもつことすら忘れてしまっただろう。
周りの喧騒は吹き飛んでしまった。最早何も聞こえない。私の世界には今や彼と私の二人だけだ。しかし、当の本人は、ずっと顔を上に向けている。眼球はとっくに消し飛んだだろうに空を眺めて何になるのか。それとも彼らの知覚には器官など不要なのか。こちらに気づくような素振りは微塵も無かった。一歩、足を進める。もう一歩、足を進める。彼はまだ、気づかない。こちらに気づいた時、彼はどうするだろう。無視するだろうか。テリトリーに入った狼藉者を消しに来るだろうか。
だんだん瞬きの回数が増えてきた。頬はかさつき、呼吸は浅くなっていく。揺らめく輝きに手が届くまで凡そ1メートル。90センチ。80センチ。70センチ━━。我慢できずに手を伸ばす。
その時、彼がこちらを向いた。私と真っ直ぐ向き合ったそれは、まるで━━。
「第八特殊消防隊です!皆さん、道を開けてください!」
「大丈夫ですか。お怪我は」
茫然と立ち尽くす私に向かって、眼鏡をかけた男が声をかけてきた。男の後ろでは、霧散した火の粉が風に流れていく。他の面々は、何やら片付けを始めだした。
あぁ、なんてことだ。私の、
「私の、憧れが——」
「それは——、心中お察しします」
「…お前たちが、今、消したんだろ?私の心が分かるなら、何故消した」
「市民の皆さんの安全を確保する為であり、故人の方を苦しみから解放する為です。たとえ、貴方たち遺族の方に人殺しと罵られようと、」
「私は、生前のアレなど知らないが?」
「は、」
無表情な男は、目を見開く。
「遺族?馬鹿な事を言わないでくれ。私は燃え盛るあの美しさに触れたかっただけだ」
「あんた、何言って——」
「だと言うのに、消してしまえば何も残らない。それこそただの燃え滓だろう?」
「つまり、お前の望む“美”の為に苦しめと…?」
「人間など皆誰かの苦しみを食い物にして生きているのに燃え死ぬ時だけ慈悲を重んじろなど愚かしい。良いじゃないか。せいぜい薪にしかならん世の廃棄物が、命を燃やして“美”を体現できるんだ。焼け爛れる苦しみなど、己の醜さに比べれば——」
「っ…ふざけるな!」
男に胸倉を掴まれる。怒りに満ちた眼光を認めると同時に、背中に激痛が走った。
「お前には分からないだろう!焦がれる苦しみが、残される悲しみが、看取る絶望がいかなるものか‼」
ぎりぎりと首元の布が絞まっていく。視界が煙る。
それにしても、なんたる皮肉か。妹はあんな姿になってまでついぞ病院に行ったことなど無かったと言うのに。私は燃えただけで意識もあるのに病院送りだ。
結果だけ言うと、私は死ななかった。どころか、五体満足で大きな損傷もどこにも見つからない程度には健康体だった。曰く、発火能力が覚醒したとか。第二世代と呼ばれるそれによって、私の辞書から焼死と言うワードは消えたも同然になった。私が見ていた彼らは、第一世代に分類される。つまり、分類が違う我々の境界線は交わることが無い、と。
一人っきりの病室に乾いた笑い声が転がる。能力を手に入れた事実に周りは皆「良かった」と言った。「焔ビトになることを恐れなくて良くなった」と。だからどうした。人はどうせいつか死ぬ。確かに、死因に美学など求めていないが。しかし、あの聖職者共が私によこした事実は、「お前の命に輝きなど無い」と言わんばかりの絶望だ。
焼死体になりたい訳でも、そうやって死にたい訳でもないが、可能性くらい寄越したって良いだろう。ろくな生き方では無かったことは重々承知の上だが、たった小指の先ほどの確率さえ奪い去るとは。どうやら神は私のことが余程憎いらしい。なればこそ。
「お望み通りに死んでやるよ」
誰もいない白の部屋。動く度に軋む粗末なベッドの上で寝転ぶ。
そして私は、静かに舌を噛みきった。
Latest / 213:28
炎炎同人用のなんか
初公開日: 2020年07月13日
最終更新日: 2020年07月24日
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二次創作/炎炎の消ぼう隊
いつか出す同人本用の何か。
どこを切り取ってもダーク仕様。
グロとか鬱とかダメな人は見るの止めとこうね。
冒頭とラスト。中身は今度書きます。
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