ちょっといつもと違う雰囲気で書いてみようと思います。
ここは綾薙学園高等部・第1寮。普段の休日は街に遊びに行ったり学校へ自主練に行ったり、もしくは自室でのんびり過ごす生徒が多いから、土曜日の今日も寮は静かなはずなんだけど……あれれ? どうやらキッチンと談話室が騒がしいみたいだね。しかも、人がいっぱい! お昼ご飯も終えたこの時間に、みんな何をしているのかな? ちょっと覗いてみようか!
「──そうそう、卵と牛乳はしっかり混ぜてね。うん、蟻坂くん、いい感じだよ。あ、卯川くんはもうできたんだね」
ふむふむ、どうやら15人くらいの生徒が集まってお菓子作りをしているみたいだね。全員この学園の2年MS組生みたいだけど……面子はチームごちゃまぜのようだ。中心になってみんなに指示をしているのはteam鳳の那雪だね。他にはteam柊の卯川やteam暁の百合野、team楪の蟻坂にteam漣の東堂が作業しているみたい。他は作業を見守っているか、カセットコンロの準備をしているね。キッチンに備え付けのコンロだと足りないくらいものを焼くのかな?
「那雪くん、ホットケーキミックスはさっくり混ぜるんでいいんだよね」
「さっくり、って……どれくらい?」
「えーと、泡立て器を大きく円を書くようにして……20回くらい混ぜるといいよ」
「「「「はーい」」」」
なるほど、今作っているのはホットケーキのようだね。……それにしても分量が多くないかい? 今は大きなボウルいっぱいに生地が作られていて、更にホットケーキミックスの新品の箱はまだいくつも残っていて……君たち、何枚食べるつもりなんだい?
「よしっ、できたぞ」
「こっちも。那雪くん、あとは焼くだけ?」
「うんっ。でも1枚数分で焼けるから、買い出し班が帰ってくるくらいに焼き始めたらちょうどいいかも──」
プルルルルルル。ピッ。
「もしもし」
『あっ、月皇ー? こっちの買い出し班は今スーパー出たとこ! そっちは?』
「声が大きいぞ星谷……。こっちは生地ができて焼く準備が整ったところだ」
『ほんとっ!? それじゃあ急いで帰るね!』
「買ったものを落とさないようゆっくり帰ってこい。急がなくてもホットケーキは逃げないぞ」
『はーい!』
ピッ。
「ってことで那雪、今から焼き始めるとちょうどいいんじゃないか?」
「そうだねっ。それじゃあ、焼こうか。あっ、コンロ班はフライパン温まってる?」
ふむふむ、どうやらここにいる以外にも、買い出し班とやらがいるみたいだね。
それにしても、このteam鳳の那雪はやっぱり料理に関してはとても頼りになる人物だな。十何人もの指示を的確にこなしている。
「生地は高い位置から流し込んで、キレイな円を作ってね」
キッチンに備え付けのコンロに3人交代で、それとどこからか調達してきたカセットコンロ4つの計7口でホットケーキが焼かれていく。
「あっ、プツプツが出てきたよ!」
「こっちもこっちも!」
「ねえねえ、もうひっくり返していいのっ?」
「うんっ、十分に穴が開いたらひっくり返してもいいよっ。……よっ、と」
「「「おぉ~~!!」」」
お手本を見せるかのように那雪がフライ返し1本で返したそれは、キレイなきつね色が付いており、それにみんなが歓声をあげる。
……まではよかったのだが、そこは男子高校生。俺も僕もと挑戦したい盛りの子どもたちだ。みんなが那雪みたいに、返そうとして、形が崩れたりフライパンのフチに引っかかったりと、散々な様子だ。
「……那雪くん、上手く返すコツってある……?」
「え、えーと、一回お皿に上げてからすれば、形も崩れにくいと思うよっ。みんなも無理しないでねっ」
そのアドバイスに従った卯川だけは、形を崩すことなくフライパンの真ん中にホットケーキをひっくり返すことができた。うんうん、その方がいいだろう。お菓子に見栄えは重要だからな。
そしてここらはもう待つだけ。数分たって、生地が生焼けでないことを確認したら、用意していたお皿に盛り付けていく。
「ふう、なんとか1枚目はできたね」
「うん、じゃあボクはさるくんと交代するね。那雪くんもみんなのこと見てばっかりじゃなくて、ちょっとは休憩取りなよ?」
「うん、ありがとう」
どうやら焼くのはこれだけじゃないみたいで(そもそもまだボウルにたんまりと生地が残っている)、焼くメンバーを交代して2枚目、3枚目とどんどんホットケーキが作られていった。
……おっ? 玄関の方が騒がしいな。どうやら買い出し班とやらが戻ってきたみたいだね。
「「「ただいまー!」」」
「「「おかえり!」」」
「うわ~っ、いいにおい! オレもうお腹ペコペコー!」
「僕も僕もー☆」
「おいっ、うるさいぞ駄犬コンビ。有罪だな」
「きみだってうるさい、北原廉」
「ああっ?」
買い出し班は10人くらい……って、ここにいるの2年MS組全員じゃないかっ! いったいぜんたい、休日にどうしてみんなでホットケーキ作りなんてしてるんだいっ?
「ったく、何で休日にまでクラスメイトの顔見なきゃなんねーんだよ」
「の割には廉も結構ノリノリだったじゃん」
「うるせー、春馬」
「買い出し班ー、俺のリクエスト買ってきてくれた?」
「そうそう、僕のチョコスプレーも」
「大丈夫! ちゃーんと全部買ってきてあるから! 天花寺が最後までみんなの欲しいものが足りてるかチェックしてたからね!」
「なっ、俺様は買い出しを任された以上、中途半端なことはできないからだなぁ」
「はいはい、お前のツンデレはどーでもいいから早くアイスクリーム系冷凍庫に入れようぜ」
「ど、どーでもいいとはなんだっ、虎石!」
おやおや、買い出し班が帰ってきてから一層騒がしくなったね。まあ、それも仕方ないか。元気盛りの男子高校生たちが25人もそろったんだからね。
「ふふっ、それにしても、2年MS組みんなでホットケーキパーティーをしようだなんて、星谷はいつも面白いことを考えるね」
「えへへ、そうかな。でもでも、せっかくおやつ食べるなら、みんなで食べた方がおいしいでしょ?」
「そうだね」
ほほう、なるほど、このホットケーキパーティーの発案者はteam鳳のリーダーだったみたいだね。まあ、なんとなくそんな気はしていたけど。だってこのメンバーでそんなことを言い出すのは彼、って決まってるようなものだからね。
ところで……冷蔵庫は大丈夫かい? アイスクリームにホイップクリーム、チョコレートソースにヨーグルトと、たくさん飾り付けの材料を買ってきたみたいだけど、入りきるのか……怪しいね。
「……仕方ねえ、先に食うか」
「おいっ愁、何言ってんだよっ」
「でないとアイスクリーム溶けちまうぞ」
「あー仕方ねえ。イヌ! ちょっとこっち来い!」
「なになにー?」
「このアイスクリーム1個やるからさっさと食っちまえ」
「やったー! いただきまーす!」
冷蔵庫入りきらない問題は一応? 解決したみたいだね。
おっと、ホットケーキ焼成班もいよいよ大詰めだね。
「えっと、これで最後かな。じゃあ、ちょっと試してみようかな……、えいっ」
「「「おぉーーー!!!」」」
おぉーー! すごいね那雪は。まさかフライパンだけでホットケーキをひっくり返してしまうなんて。これにはみんなも拍手喝采だよ。
さあ、最後の1枚が焼けたようで、みんなが思い思いの場所(テーブルが足りないから折り畳みテーブルやキッチンの調理台に場所を取っている子もいるね)に陣取って、テーブルには定番のハチミツやメープルシロップから、何種もあるジャム、チョコレートソース、泡立てたホイップクリーム、ヨーグルト、チョコスプレー、アラザン等々を並べて準備は万端のようだね。
「よしっ、みんな! オレの突然の誘いに乗ってくれてありがとう!」
「星谷はいつも突然だからね」
「もう慣れてしまったじゃねーか、有罪だろ」
「あはは……で、えーと、那雪、何だっけ?」
「えっ、えーとね、アイスクリームは冷凍庫にあるから欲しい人が各自で取っていってね。ホットケーキもまだまだ生地はあるから、さっき作れなかった人も作れるし、おかわりもたくさんしてねっ」
「ってことで、それじゃあ今から2年MS組第1回、ホットケーキパーティーを始めます! みんなー、手を合わせて──」
「「「「「──いただきます!!」」」」」
はい、召し上がれ。