「露伴、開けてみて」
仗助が赤いベルベットの箱を手渡した。露伴が開けて中を確認すると、白いふわりとしたクッションの上に銀色の輪が一つ鎮座している。
「フン、悪趣味だな」
「いいでしょ、露伴に似合うと思って。はめてあげる」
露伴の左手を金属特有の冷たさが撫でた。すぐにそれは露伴の体温と馴染み、ずっとそこにいたような顔で露伴に寄り添った。
露伴は左手を天井へ掲げる。シーリングライトに照らされて、高級感のあるシルバーが煌めいた。軽いはずの金属から感じる重みは、仗助の気持ちからくるものだろう。繋がっているのは、絆だ。
「似合うよ、露伴」
「まぁもらっておいてやるよ、不便はないしな」
幸せの箱には
康一が久々にその家を訪れると、そこには異様な光景があった。
休日の昼下がり、今日の分の作業を終えた露伴は仗助と共にリビングへ降りる。自分で歩くことはせず、仗助に抱きかかえられソファーへ下ろされた。
「先生、なんですか…それ…」
露伴は左手を見た。カラカラと幸せの音がする。仗助は露伴の動きを見つめて笑った。
「気に入ってるわけじゃあないぜ、でもまぁ…幸せの形の一つかなって」
「露伴、そんなこと言って外さないでしょ。あ、紅茶で良い?」
仗助はリビングからキッチンへ去っていた。
「あ、仗助君…ありがとう」
「外さないんじゃあない、外せないんだ」
露伴はずっと左手を見つめて呟いた。ただのアクセサリーじゃあない。仗助の気持ちが詰まっていて、好奇心で死の縁を歩くような露伴をここに留めているものだ。
露伴の視線の先の鎖の繋がれた腕輪を、康一はじっと見る。それは左手にはめられていて、鎖はずっと向こう、部屋の外から続いていて全貌が見えない。
「先生、それでいいんですか…」
「お待たせ」
仗助は当たり前のように露伴の前にストレートティーを置いた。もう一つは、ソーサーの上には砂糖スティックとミルクが添えられている。
「にしても君は変なもの欲しがるよな。コレの代りに欲しいものがそれってさ。しかも、ずっと箱に入れっぱなしで使わないじゃあないか」
露伴は左手の金属をひと撫でして、それからテレビ台に置かれたベルベットの箱を見つめる。蓋の開いたそれには、仗助の大切なものが入っている。
「いいんだよ、あの箱の中には幸せが入ってるから」
「蓋、閉めとかなくていいのか?幸せが逃げ出しちまうぜ」
逃げ出す…それは比喩なんかじゃなくて、本当に逃げ出しそうなものが入っていた。露伴の左足首。露伴の左足には足首がなかた。最初から存在しなかったかのようにきれいにふさがっている。そんなことができるのは世界にただ一人、仗助しかいない。
「露伴先生…本当にそれでいいんですか」
「いいんだよ、それで。」
幸せの箱には、二人だけの幸せが入っている。
幸せの箱庭
Fin