妨害・妨げ・邪魔立て
信玄様
信玄様
舞ちゃん
城下で仲良い男(反物屋の息子)
その日、少し時間が出来たという信玄様と共に、舞は春日山城の城下町で逢瀬を楽しんでいた。
久しぶりに二人きりで出掛けられて、幸せいっぱいに歩いていると、ふと、視線の先に見知った背中を見つける。その背中が誰のものか分かると、舞は思わず声を掛けていた。
「こんにちは!」
「? これはこれは、舞さん。それに信玄様も。こんにちは」
柔和に微笑むのは、反物屋の跡取りの方。やっぱりだ。品のある佇まいと、この下がったなで肩。すぐに分かった。
最近出会ったその人は、年齢が近いことや生地や着物の好みが合うので、店先や城下町で会うとよく立ち話をしてしまう間柄だ。その人は腰をかがめ、何やら露天商の品々を見ているようだった。
「ここで何しているんですか?」
「今日はこれを」
「わあ……!」
手の上に乗っているのは、小さな耳飾りと髪飾り。とてもシンプルな見た目で小ぢんまりとしているが、とても綺麗で可愛らしい品だ。それを見ていた信玄様も、へえ、と感嘆する。
「良い品だな」
「でしょう? 実はこれに、昨日入荷した天鵞絨を使って少し手を加えたいと思いまして」
「わあ、昨日のあれですね。合うと思います……」
「〈あれ〉……?」
信玄様が首を傾げる。舞は昨日のことを思い浮かべて、信玄に向き直った。
「昨日、天鵞絨という珍しい反物が入荷したんです。異国のものなのでまだ数は少ないんですけど、本当に綺麗で……」
「はい。舞さんがそれで着物をお作りになりたいと言うのですから、びっくりしました。そんなに入荷したらうちが潰れてしまいますからね」
「あはは……」
つい現代の感覚で注文して、この人に頭を下げられたことを思い出す。恥ずかしくて思わず頬を染めると、ふと、信玄様が黙っていることに気がついた。ちらりとそのお顔を見上げると、信玄様は、笑みを絶やさず目の前の男の人を見つめていた。……その視線に薄ら寒いものを覚える。
「し、信玄様?」
「ん? どうした、舞」
「あっ」
ぐいっと肩を抱かれて、頬が信玄様の胸板に当たる。不意打ちのそれにさっと体中が熱を持った。
「もう日が暮れるし、体も冷えているな。もうそろそろ帰ろう」
「は、はい」
「舞さん!」
ドキドキしながら返すと、ふいに名を呼ばれた。反物屋のその人が、真摯な顔つきでこちらを見つめている。
「何を作るかはもう決まっていますので、明日には完成しています。是非お店にいらしてください」
和やかな笑みを絶やさずにその人が言うので、舞も笑顔で「はい」と頷き、ひらひらと手を振りあった。
「わあ、綺麗……!」
次の日、舞が反物屋を訪れると、宣言通り天鵞絨を使われた髪飾りと耳飾りが完成していた。まだ試作品だと言うそれは、近々量産して軒先に並ぶみたいだ。
「可愛いです……絶対人気になりますよ!」
「ふふ、ありがとうございます。……ああ、それと、これを」
そう言って後ろから取り出されたのは一組の耳飾り。深い森のような緑色の天鵞絨がふんだんに使われ、少し派手だが上品な耳飾りだった。
「わあ、可愛い……」
「これを、あなたへ」
「え……」
そのまま耳飾りを手渡され、舞は動揺する。
どうしよう。流石に信玄様以外の男の人に贈り物を貰うのはまずいよね。
丁重に断ろうと、口を開いた瞬間。背後から愛しい声が聞こえた。
「やあ。俺の姫君はここにいるかい?」
はっとして振り返ると、そこにはじゅうぶんすぎるほど見知った人物が。身軽な着物を着た信玄様だ。
「し、信玄様。お仕事は……?」
「一段落ついたんでね、少し休憩さ。ところで……」
信玄様は私の手元の耳飾りを食えない目線でじっと見つめる。どこか強い視線に動けないでいると、その人はいつものように優しく微笑んだ。
「へえ、綺麗だな。昨日言ってたやつだろう?」
「え? は、はい……」
信玄様は私たちの元まで来て、近くでその飾りを見つめる。
贈り物だと知らない信玄様は、そのまま私を姿見まで誘導し、耳飾りを持って私の耳にあてがった。
「ああでも、君には少し華美すぎるな……。店主、他の物も見せてくれ」
「っ……は、はい。わかりました」
男の人は慌てて返事をして、そのまま店の奥へぱたぱたと駆けていく。舞はそれを見届けたあと、気まずそうに信玄に振り返った。
「っ、信玄様、あの、この耳飾りなんですが……」
「彼からの贈り物だろう?」
「え……」
その目は、珍しく困ったように下がっていた。もしかしたら外まで声が聞こえていたのかもしれない。
「華美とは言ったが、君はなんでも似合うからな。よく似合っているよ。……貰うか貰わないかは、君次第だ」
先程の困ったような笑みはもうなく、いつもの余裕たっぷりの信玄様だった。
ちゃんと、私に選ばせてくれる。もしかしたら怒っているかもしれないし、悲しんでいるかもしれない。それを呑み込んで、私に委ねてくれている。
「……ありがたいですけど、お断りしようと思います」
「いいのか?」
「はい。私に贈り物を贈れる人は、信玄様だけですから」
「……そうか」
そう言うと、信玄様は嬉しそうに私を抱き寄せた。
こういう時、信玄様はやきもちを妬かずにちゃんと私と向き合ってくれる。その事が嬉しくて、店の奥から出てきたその人に丁寧に断りを入れて、舞は信玄と共に店を後にした。
舞が先に店を出て、信玄も続いて店を出ようとしたが……一歩、踏みとどまった。そのまたくるりと後ろを向く。ありがとうございました、と言って頭を下げるその跡取り息子に、信玄は微笑みかけた。
「……悪いが、あの子はやめておけ。もう離さないと決めているから、君のものにはならない」
終わり。
ありがとうございました!!
もう2時間も経ってる…………(困惑)
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ワンライ0516
初公開日: 2020年05月16日
最終更新日: 2020年05月17日
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ワンライ0516
妨げ・妨害・邪魔立て
イケ戦 たぶん信玄様