《大筋》
泰麒の鬣が肩まで伸びた頃、市井で教師をしていた官吏が入ってきたと珍しい経歴に噂になる。市井の暮らしが知りたい泰麒は話を聞く機会を作る。元教師の官吏が初めて対面した台輔は市井で語られるものと違っていてーーーー??
市井で語られる台輔像、阿選の乱について
泰麒の暴力等が秘密にされていることに気づく。
麗らかな陽気に甘い風が堂室を抜けていった。護衛と言う職務上、部屋の開放を嫌う大僕に頼み込んで取り入れた風が伸ばしかけの鬣を揺らしていた。
まだ肩をようやく過ぎたばかりの艶やかな鋼色の鬣は俯くとすぐに視界を暗くしてしまうので、泰麒はここしばらく自然と背筋が伸びているように思えた。
目の前には一人、緊張した面持ちの男がいた。
見目は初老、蓬莱の感覚でいうなら50歳くらいの人のよさそうな男だった。
中肉中前、癖のない顔立ちでだらしなさはないが華やかさがあるとも言い難いその男は歴の浅い、瑞州の新人官吏である。
「あまり緊張なさらないでください。気楽に、ものを知らない若者の話し相手になっていただきたいだけなのです。」
困ったような顔で首を傾げられて、男の緊張はより深まり額からは冷たい汗が流れていた。
なぜ新人が州候たる宰輔に対面しているかと言えばこの男の経歴の話が台輔の耳に入ってしまったからだ。
「妙に年嵩の新人がいる」
「昇仙までに時間がかかったといううことだろう」
「未だ白圭宮は人手不足だから凡庸な者もいるだろう」
「それが、どうも市井で教師をしていて突然一念発起して官吏になったと」
「変わり者だな」
「官吏になると決めてからは優秀であったとか」
「その方のお話、もう少し詳しくお聞かせいただけませんか?」
突然、回廊脇の茂みから音がしたと思ったらそれが台輔で、そうした経緯で茶が振舞われることになったのだった。
噂話に取り立てられてしまうのは諦めていた。たしかに中々この年で新人として昇仙するものは珍しい。珍しい経歴を含め知られている方がただ昇仙が遅い新人と侮られるよりは自尊心も楽ではある。しかし本来なら姿を見るまでにあと何十年も要する、雲の上の黒麒と同じ卓についている。
意識すればするほど背中を妙な温度の汗が伝った。
「私は胎果で、本当に市井のことを知らなくて…宮のこともまだまだなのですけれど…」
緊張を察したのか泰麒のほうが口を開いていく。
「蓬莱では私も学生で、良くしてくれた先生もいたのです。こちらの学校について聞けたらな、と思って…本当に気楽なおしゃべりと思っていただきたいのですが…」
「台輔の御年で学生を…?」
張り付いた喉をやっとのことで男が動かすと、春を待っていた戴の花々のように目の前の顔が綻んだ。
「はい…!あまり良い生徒ではありませんでしたが…こちらよりも皆が長く学生をするのです。だから勉学に秀でていたわけではないですよ」
はにかむように笑んだ姿は10代の少年そのものに見えてふと男は自身の肩から力が抜けるのを感じた。
「どちらで先生をしていたのですか?やはり地域特有の事情はあるのでしょうか?なぜ教師を志したのですか?生徒はどのような家庭の子女が多かったのでしょうか?」
あまりの質問攻めに一瞬、息を飲み込む。そして不敬なことだが、知識欲旺盛な少年そのものの表情に頬が緩むのを感じた。一度不敬ながらもそう思えてしまえば、元教師の腕がなった。
「順番にお答えしますね…」
冒頭で無知を恥じていたのは謙遜としか思えぬほどには泰麒は一般的な事柄は知っていた。それだけ奏上に耳を向け、その意味を考えていたのだろう。話が進むほど泰麒の意図は奏上が真であるか、全体と細部の問題の差異、地域差の問題へ強い関心が隠せなくなり、何かを書きつけたり「今度調べさせましょう」と言ったりとこちらが舌を巻きたくなるような聡明さだった。
正当な朝、王と麒麟がいることでこんなにも民は思われるのだという僥倖を目の当たりにし熱くなる目頭を笑うことで誤魔化した。
「台輔、一度に根を詰めては御身に障ります」
気付けば日は傾き始めていて、寺人が茶を入れ替え台輔の痩身に布を一枚掛けていた。
「あ、…ごめんなさい。貴重なお仕事の時間を」
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モブ官吏からみた泰麒と驍泰
初公開日: 2020年05月03日
最終更新日: 2020年05月03日
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筋トレ
アヤカさんはミモザがこぼれるように咲く頃、動物園のペンギンの檻の前で懐かしいおもかげを見た話をしてく…
瀬をはやみ