4番 アコルダール
足音 耳 一目惚れ
演練場。日常において、唯一自分以外の審神者と接触することが可能な場所。
政府は本丸において人が審神者のみという孤独感を避けるためか、はたまた精神の安定のためか。あるいは審神者の独裁状態となるのを防ぐためなのか、演練を行うことを日課任務とするほど推奨していた。
「さ〜て今日も頑張るぞ〜〜!」
男審神者は肩を回して演練場へと足を踏み入れる。彼に続く刀剣男士5振りは、やや心配そうな面持ちで己の主を見ていた。
「頑張るのは俺らだけどな」
「うっせ。わかってるっつの。頼んだぞ」
男審神者と軽口を叩く和泉守兼定。その隣を歩く堀川国広はその様子を微笑ましそうに見ている。 
「まぁ、主さんは僕たちに任せてよねっ」
「任せすぎられても困るけどな。きちんと指示は頼んだぜ?」
乱藤四郎が男審神者の顔を覗き込むように歩き、獅子王は一歩後ろから声をかける。
「任せろ任せろ。大船に乗った気持ちで俺に任せろ!」
男審神者はドンッと張った胸を叩いた。男審神者を見る5振りの表情はさらに心配の色を濃くした。
「不安だなぁ」
「乱ちゃんって、結構俺に厳しいよね」
「えーやだぁ!そんなことないよ!」
「それより今日は戦いに集中しろよ。主はいつも女見つけるとそっちにいっちまう悪い癖があるからな」
「まぁまぁ兼さん。主さんも必死なんですから少しは大目に見てあげましょうよ」
「ほっり。必死なのはあってんだけど、もうちょっと優しくして。俺デリケートなん」
様々な本丸の審神者と刀剣男士たちを横切り、男審神者は受付会場まで来ると視線を巡らせ、目当ての刀剣男士に手を振った。
「みっちゃーん!」
受付の役人と何やら言葉を交わしていた燭台切光忠が声に振り返る。
「おまたせー」
「遅刻だよ。僕、あれほど時間厳守でって言ったよね?」
「ごめんなさい燭台切さん。僕も結構急かしたんですけど」
「仕方ないだろ!唯一女審神者と出会える場所だぞ!?かっこよく決めなくてどうする!」
「かっこよく決めるのは大事だけど、時間に間に合うように支度してねって言ったつもりなんだけどな」
「そうだぜ主。俺だってかっこよーくばっちし決めてるが、時間に間に合ってたんだからよ」
「兼さんはほっりに手伝ってもらってるだろ!ずるくね!?俺だって手伝ってもらってたら間に合ってたし!」
「あはは。兼さん以外は手伝いませんよ」
「え……なに……。急にほっり冷た……」
わいのわいのはしゃぐ男審神者と刀剣男士の数歩後ろ。
白髪に白い猫耳と尻尾を生やした審神者が少し困った顔でその様子を見ていた。尻尾がゆれ、耳が音を拾いひくりと震える。
「うむ。邪魔だな」
「ちょっと三日月。あんまり正直に言うのはだめ」
「けどなぁ。あそこで騒がられるとこっちが受付できないぜ」
白猫の審神者を挟むようにして、三日月宗近と鶴丸国永は男審神者を見ていた。話は盛り上がり、そこを退く気配はない。白猫の審神者は仕方がない、というように軽くため息を吐いて男審神者へ近寄った。
1歩、2歩。人とは違う音を消した歩き方。男審神者は後ろを向いていた。3歩、男審神者が振り返る。白猫の審神者は少し驚いた顔をして、歩みをとめた。男審神者の顔も驚いていた。目を見開いて、見つめ合う。そうして空いた距離を今度は男審神者がつめる。
「あ、あの!はじめまして!こんにちは!あの、この後時間空いてる?一緒にお茶しませんか?」 
ぴゃっ、と白猫の審神者がすこし跳ねる。尻尾の毛が逆立ち少し後退するが、その距離を男審神者が詰める。がすぐに男審神者が詰めた距離の倍後退した。
「ははは。すまんな。主は少々人見知りのきらいがあるでな」
「み、ミカヅキムネチカ」
白猫の審神者はそそくさと三日月宗近の後ろに隠れる。あぁ~と男審神者の頭上に浮かぶ(ように見えた)ハートが割れる。人見知りというのも間違いではないのだろう。が、それだけではない威圧感が間に割り入った三日月宗近から放たれている。
「まぁまぁ。そう威圧してやるな」
白猫の審神者の後ろ。こちらを興味深そうに伺っていた鶴丸が止めに入る。ふむ、と男審神者を見下ろし、朗らかに笑って見せる。同時に男審神者が深く息を吐き出した。気が付けば呼吸が止まっていた。これが、三日月宗近か。
「すまないな君」
「い、いえこっちこそ。あ、あの」
三日月宗近越しに、後ろに隠れてしまった白猫の審神者に声をかける。頭上であからさまに三日月宗近の機嫌が傾いたような気がするが、男審神者は勢いで押す。
「急に話しかけてすみません。あの、もし今度お時間……いえナンデモナイデス。でもほんと、驚かせちゃってすみませんでした」
軽く頭をさげてから男審神者はその場を離れた。後ろから成り行きを見守っていた刀剣男士が小言を呟きながら駆け寄ってくる。
「ひやひやしたよ」
「わかりやすく威圧してきてたな」
「も~主さん言った側からいい加減にしてよね」
すぐ女性をナンパするのはがっつきすぎだよ、向こうの鶴丸国永も後半すごかったなという好き勝手な物言いに男審神者がうるせぇ!と吠えた。
「一目惚れだったんだよ!今話しかけなきゃダメだって思ったんだから仕方ねぇだろ!」
「主さん、それ毎回言うよね」
「乱ちゃん……俺の話一応聞いててくれたんだ。今日いち嬉しいかも」
「おいおい。主がそんなんで今日の演練大丈夫かよ」
わいのわいの。騒ぎながら男審神者はそっと後ろを見た。白猫の審神者は三日月宗近や鶴丸国永になにか苦言を呈している様子だが、こちらを見ることは一度もなかった。これは振られたんだなと、珍しくもない最速失恋に肩が落ちる。
「でも聞こえたんだよ」
「聞こえたって、なにが?」
燭台切光忠に、男審神者はみっちゃん~と泣きついた。
「光忠だけだよ聞いてくれるのは~!」
「うわちょっと、鼻水つけないでよ」
「やっぱり嫌いだわ」
すん、となって燭台切光忠を突き放す。燭台切光忠は一切ふらつくことなく、代わりに突き放した男審神者が反動でふらついた。体幹どうなってんだよ、と心の中でぼやいた。
「音だよ音。恋の音が後ろから聞こえて、振り返ったらあの子がいたから俺は運命だと」
そう思ったんだ、という言葉は最後まで出ることなくみんなの笑い声に掻き消えた。さすがにこれは失言だと、男審神者も顔を覆った。しばらく恋の音今日は聞こえたか?と聞かれる日々だと恨めしそうに唸る。一人くらい失恋を労わってくれてもいいだろという呟きに、乱藤四郎が毎日労わったら僕たちが疲れちゃうよと返した。
「乱ちゃんが……俺の呟きに返答してくれた……。今日優しいね」
「主さんの中で僕ってどういう扱いなわけ?」
ちなみにその後の演練では白猫の審神者とあたり、男審神者たちは清々しいほど勢いよく敗北した。
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初公開日: 2020年04月30日
最終更新日: 2020年05月01日
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