「でも、それは不思議なことじゃない」
振り返り様にアンドラスは言った。
アンドラスの手元に一瞬輝いたものが見えたが、次の瞬間にはその疑問もまた思考の海に沈んだ。
「なんで磔刑だったのか。という話になるわけだよ」
「見立て殺人ってことじゃないのか」
「そもそもそこからが勘違いだったんじゃないかと思ってる」
なんてことを言い出すんだ。ソロモンは目を剥いた。
「だったら、……そしたら元々の、いや。根底が崩れるよ」
今の今まで、俺たちは見立て殺人の線で追っていた。なのにそれを覆されてしまったら、ここまで組み立てた推理や理論はどうなるんだ。
「ごめん、言い方が悪かったね。見立てはあったんだよ」
「それらしい要素はいくつかあっただろう?磔に焼死体、切断に水死体」
見るに無残な姿が脳裏にフラッシュバックする。
「でもさ。三つ目くらいから消えたんだよね」
「…………」
三つ目の死体。記憶に新しい、幼い死体。一つ目や二つ目に比べて損傷が少ないにも拘らず、目を失ったことで凄惨さを醸し出したそれにソロモンは口を開いた。
「妄執……ねぇ」
「オレには縁の遠いものだと思ってたけど」
ぐっと拳を握ると、爪が掌を傷つけて血が流れる。赤黒い生命の液体。メギドである本性とは異なるヴィータの身体に、妙なおかしい気持ちになって笑う。
正しく狂気だっただろうが、アンドラスの思考は冴えていった。流れる血に比例して、すうと冷たくなっていく考えがある二つの選択肢を示した。