出口のない迷路を、もうずっと歩き続けている。
取材旅行に訪れた地で、切り立った崖を降りている最中、誤って足を滑らせた。
重力に倣って前のめりに倒れた身体は、けれどそれ以上落ちることなくぴたりと止まった。
それと同時に、よく知った声が耳元に届いた。
「…っと~~に!何だってアンタは、こんなに危なっかしいんだよォ~!!」
一年ぶりに再会した男は、少しだけ大人びた顔をして。
露伴を離さないように、その腕をぎゅっと掴んでいた。
「僕は聞いていないぞ!」
『それは、私が伝える前に先生が取材に行ってしまったからです。でも、私の目に狂いはありませんでしたね。まさかこんなに、早く先生を捕まえて来てくれるなんて』
電話の向こうの担当は、先生の原稿をもらうこっちの身にもなってください。などと、いけしゃあしゃあと言ってのける。
そもそもそれが君の仕事ではないのか。たとえ担当している漫画家が、取材旅行と称して雲隠れ状態になっていても。
「だからって、こんな素人に頼むやつがあるかよ!あと君、何か片手間に喋っているだろ。そういうのさ、良くないと思うぜ」
「就業時間は終わりました。ネイルしてる途中で電話してきたのは先生じゃないですか」
「ねぇ先生。どうしてそんなに目くじら立てるんです?」
「なに…?」
「私、先生のお宅に原稿を取りに行ったとき、何度か彼を見ているんですよ」
「先生が自宅に招き入れるくらいなんですから、親しい間柄なんでしょう?その大学生と」
電話を切ると、露伴は盛大に舌打ちをした。
誰と誰が親しい間柄だって?いったい何をどう思ってそんな結論にたどり着くのだろうか。
キッチンの扉を開ける。いい匂いだすると思ったら、仗助が昼食を作っているところだった。
「電話終わった?」
「ああ」
「嘘じゃあなかっただろ?短期のバイトだって」
「僕としては、“嘘”であってくれたほうが都合が良かったけどな」
「嘘つくなって言ってたの、アンタじゃん」
「君が昔から嘘ばっかついてたからだろう。こういう時だけ本当の事言うなよな…」
「仕方ねーだろォ…。露伴が好きなの、アンタにバレたくなかったんだからよォ~」
は?
「こう見えて仗助クンは純情なんで。あの時は、アンタにバレたら終わりだくらいに思ってたんっスよ」
なんだよそれ。
じゃあ、今はもういいのかよ。
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忘れ時の言の花
初公開日: 2020年04月27日
最終更新日: 2020年04月27日
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