「麦茶取って」
ベッドに沈んだままの身体を起こそうという気も見せず、沙紀が手を振る。腰が重いのは私も同じだ。数歩先にはキッチンがあるというのに動くのもおっくうだ。それはもう沙紀のせいなのだけれど、私も悪いから「仕方ないな」と立ち上がった。
ひとりぼっちの部屋の中はとても広くて冷たいのに、彼女がいる間はどうしようもないくらいに狭く感じる。高校を受験して、都内の学校に入学した時点で私は勝ち組になれたと思っていた。そんなことはないんだと知るのは入学式で周りの女の子を見た瞬間。都会の女の子は生まれたときから一定の勝ち点を持っている。十五年間溜めてきた勝ち点はこれから溜めようなんて考えている私とは比べ物にならないほど。
「はい、冷たいやつ」
冷蔵庫から麦茶の入ったポットを取り出し、グラスに注ぐ。氷が小さく鳴いて、麦茶を冷やし始める。沙紀は私からグラスを受け取って微笑んだ。何もしなくても与えられる、勝ち組の女の子。私は取り繕ったところで根が田舎の人間なのだろう。どうやっても彼女のように振る舞うことができない。何かをやってもらおうとか、与えられようという気持ちになれない。お互い様の精神はあるけれど、見返りを求めるのは何かが違うような気もするし、結局私だけが動いて損をしているような気分になる。被害妄想だなんて言わないで。
「ね、ゆづ。こっち来なよ」
「いやよ、暑いんでしょ」
「もう麦茶飲んだし」
「私はまだ飲んでないの」
「飲めばいいじゃない」
「ひと口くれるかと思った」
沙紀は少し考えたようなそぶりを見せて、私に口づけた。ひんやりと冷たい彼女の口の中。余計に自分の身体が熱くなっているような気がした。這わせた舌の温度が彼女に移っていく。ふたり同じ温度になって、生温い唾液が布団に染みを作った。
「ゆづ、ほしい」
「私だって」
私の頬を撫でる彼女の手のひらがとまる。