レイシフト先で、キャスターのサーヴァントに最後、スキルを使われたアキレウス。あ、なんかやばいヤツくらったかな、とは思ったんだけどもうその時には戦車で踏み潰した後の祭りで、なんかだるいなー、状態異常くらったかな、と自覚しつつも動けないほどではないし、でメンバーとレイシフトしてカルデアに戻るんだけど、戻ったら、マスターにもダヴィンチちゃんにもぎょっとされる。

 既に修復したはずの微小特異点で、魔力反応が増大しているとレイシフトしてみれば、いつの間にか新しい敵がそこに棲みついていた。
「っ、数が多い!」
 倒せないほど強大な敵というわけではない。
 竜牙兵タイプのエネミーは、特異点においては比較的よく出現するエネミーの一つだが、ここの竜牙兵達は特に統率が取れていて、やりにくい。
「面倒だ! まとめて引き潰す! それでいいな、マスター!」
「もうちょっと待って! あれだけ統率が取れているんだ、親玉がいる! そっちを叩かないと意味がない」
 マスターの指示は正論だが、群がる竜牙兵達はまるで蝿の群にたかられているように面倒で、鬱陶しい。
「マスター! 親玉はどっちだ!?」
 索敵しているんだろう? と問いかける。
「あっち!」
 言葉としては曖昧に過ぎるとケイローンであれば正確に伝えるように諭されるところだが、マスターとサーヴァントの関係であれば、それだけで伝わるものも多い。
「よし、見えた!」
 マスターの示す指のまっすぐその先。
 黒く揺れる影。シャドウサーヴァント。
「クサントス! バリオス! ペーダソス! 行くぞ! 命懸けで突っ走れ! 我が命は流星の如く!疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)!」
 宝具を展開する。
 敵の親玉たるシャドウサーヴァントまで、一息に駆け抜けて。
「----!」
 それは瞬きの間の出来事だった。
 踏み潰され、消えゆくその一瞬前。
 顔も姿もしかとは分からぬそのシャドウサーヴァントの口元が、何事かを綴るのを、確かにアキレウスは見た。
 次の瞬間、がくりと足元が揺らぐ。
 あ、何かくらったな、と悟る。
 力が抜ける感覚はあるが、動けないというほどのものではない。
 クサントス達と共に戦車が消えて、地に降り立つ。 
 怠さは残る。状態異常は感じられるが、特に苦痛もないので、それほど深刻なものではないと判断し、マスターと合流する。
「お疲れさま! て、あれ、アキレウス?」
「あー、ちょっと最後何かくらったみたいだ。大事ない」
「んー」
 マスターは思案顔。
 敵が一掃されたことを確認して、早々に引き上げるというマスターの方針に否やはなかった。
 そこにいる自分が一旦霊子に解かれて、再構成される感覚というのはサーヴァントになった今もあまり慣れられるものではなかった。
 自分の意思で霊体化したり、実体化するのは、全く自然なことのように行えるというのに。
 
 光が収まる。
 いつものカルデアの管制室。
 帰ってきた、と実感する。
 けれど、
「え? 誰?」
「……君は?」
 きょとんとするマスターと。
 不思議そうにこちらを覗き込む一見美少女なダヴィンチちゃん。
「は? 何言ってんだ、マスター」
 問いかけて。
 はっとした。
 なんだ、この声は。
 自分のものではない、けれど、自分の声。
 ああ、そうだ。
 今の、自分の声、ではなく。
 
 ようやく、視線を下に向ける。
 そこに見慣れた鎧はなかった。
 
 白く、ひらひらとした、足元まで隠れる長い衣。
 視界の隅には、見慣れた色の長い髪の先。 
「え、今、召喚とかしてない、よね? ダヴィンチちゃん」
「まさか」
「君は誰だい?」
ダヴィンチの問いに答えたのは、本人ではなく。
「おや、アキレウス。ひさしぶりだな、その姿は」
遅れて帰還したオデュッセウスだった。
「アキレウス? 本当に」
「なるほど、スキューロスでオデュッセウスに見いだされた時の姿か、それは」
「くそ、あの最後のスキルか」
原因として考えられるのは、最後にかけられた術だった。
詳しく調べた結果の、状態異常は、戦闘不能と判明した。
系統としては、キルケ―の宝具、禁断なる狂宴(メタボ・ピグレッツ)に近いのだろう。
アキレウスを一定期間、戦闘不能にし、その間その姿を変えてしまうというものだ。
「ああ、なるほどな。戦闘不能の象徴としての姿これなら、納得もいく」
スキューロス島、リュコメーデース王の邸に女官として身を潜めていたのは、戦に出すまいという母テティスの願いによるもの。この姿は、アキレウスにおける戦わぬという状態を体現するものなのだ。
「じゃあ、状態異常が解けたら、元の姿に戻るってことだな」
「解呪の式を探しておくよ」
「頼んだぜ、ダヴィンチちゃん」
アキレウスは自分の姿がすっかり極上の美少女になっているということにもとんと頓着しない。そういうこともあった、というだけのことだ。
あまりに潔く、美少女姿のままカルデアをうろつくものだから、他のサーヴァント達、特に男性サーヴァント陣にはどよめきがはしる。
あいつ、あれで平気なんだ。
自分が美形ってことを自覚している人間って怖いな。
生前の自分全部黒歴史みたいに思ってるマンドリカルドあたりは、さすがギリシャ屈指の大英雄、女装ネタでさえ黒歴史じゃないんだ、って逆に尊敬のまなざしを注いでくれそう。
「こちらへいらっしゃい、アキレウス」
メディアに呼びつけられても、あっさりと応じる。
ギリシャの魔女勢を迂闊に怒らせてはいけない、というのは幼少時から繰り返し教えられたケイローンの教えの一つだ。
兄弟子イアソンの元妻に、アキレウスはあくまで年少の者として敬意をもって接している。
「せっかくだから着飾りましょう」
「ああ、あんたがやってくれるのか? 俺そういうの苦手でいつも姫さん達にやってもらってたからな」
任せた、とあっさり身を委ねてくれるものだから、一部女性サーヴァント達がここぞとばかりに長い髪を編んだり、結ったり、リボンや花で飾ったりと弄りまくるけど、自分が今戦闘不能状態なのを分かってるから、好きにさせておく。
戻ってきた時より、三割増しのきらきら美少女で、ヘクトールの部屋に夜這いをかける。
ヘクトールの反応はおそろしく薄い。
「こんな美少女が乗っかってやってるのに、無反応かよ」
「自分で美少女とか言ってんじゃねぇよ、クソガキ」
「ちょっとくらいは、こうぐらっとこねぇのかよ」
これでもスキューロスの女官の中ではだんとつ男達にもてていたのだが、と。
「寝所に忍びこまれて、美女に乗っかられそうになるなんざ、こっちも慣れているさ」
貞淑な夫として知られるヘクトールは、そうやって寝所を訪れて妾の地位を狙う美姫達も、それから命を狙う刺客達もかたっぱしから退けてきたのだ。
今さら、極上とはいえまがい物の美少女になびくはずもなかった。
「まだいつものお前を相手にしている方がましだ」
カット
Latest / 81:18
カットモードOFF