診断結果
梅谷 理花へのお題は『花言葉なんて、貴方は知らないんでしょうね』です。
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本文
「ちょっとペン借りていい?」
 クラスで孤立しかけていたわたしになんのこだわりもなく話しかけてきたのが、貴方だった。もうきっと覚えていないでしょうけど、わたしはしっかり覚えている。困ったように下がった眉と、人好きのする笑みを描いたくちびる。
 もしかしたらわたしは、その瞬間からすでに、貴方を特別な人間と認識していたのかもしれない。
「え、ええ。どうぞ?」
 ちょっと人との会話の仕方を忘れそうになっていたわたしはおっかなびっくり貴方にオレンジ色のペンを貸した。さらさらと何かを書いてわたしにペンを返してくれた貴方が、まぶしかった。
「きみがお弁当に誘ってくれるなんて思わなかったな。ぼく、クラスで浮いてるよね?」
「あら、自覚があったのね。でもわたしも浮いているからお互い様よ」
「えっと……『あら、自覚があったのね』」
「ふふ」
 わたしは裕福すぎて浮いていたし、貴方は庶民的すぎて浮いていた。良家の子女の集まるそこそこの学校というのは、むしろ多様性が薄い方だと、わたしは思う。
 ペンの件以来、貴方のことが気になっていたわたしは、ぽつんとお弁当を食べている貴方に目を付けてちゃっかり話しかけるチャンスを作ったのだ。
「母さんがどうしてもっていうから入ったけど、やっぱりここは、ぼくには居心地があまりよくないよ」
「わたしも、そうね。お父様のこだわりだったし自分でも入りたかったけれど……思っていたのとはだいぶ違ったわ」
「意外と似た者どうしか、ぼくたち」
 嬉しそうに笑った貴方に、私は照れ隠しに身を引いて、ぴんと人差し指を立てたのだ。
「まだ、わかりませんよ」
「それは、ざんねん」
 結局、浮いた者どうし仲良くなったわたしたちは、ずいぶん深い話もした。たとえば、そう、結婚の、話とか。
「理想の結婚相手とか、きみはいるの?」
「理想もなにも、わたし、婚約者がいるもの」
「わーお」
 貴方は下手な口笛を吹いた。少し困ったように視線を泳がせたけれど、その大きな瞳に宿る好奇心は隠しきれていない。
「いつから?」
「ちょうどこの学校に入った頃ね」
「どんなひと?」
「それ、貴方に関係ある?」
「あるとも。親友の伴侶だからね、きちんと見定めないと」
「もう……」
 わたしが照れたのに気付いて、貴方も少し照れる。でもその意味合いが違うことに、気付いているのはわたしだけ。
 婚約者の話をひととおり聞きだされたあと、わたしは反撃をすることにした。
「貴方には理想の結婚相手はいるの?」
「ぼく? 無理だよ、結婚なんて」
「逃げるのはずるいわよ」
「ええ? じゃあ真面目に考えるよ」
 うーん、とうなったあと、貴方は小さく微笑んだ。わたしはその笑みに惹きこまれそうになる。
「こんなぼくでもいいって、言ってくれる人がいいな」
「いいに決まっているじゃない」
「なんできみが返事をするのさ」
「あら、それもそうね」
 すっとぼけたわたしに貴方は笑って、それ以降、こういう話はあまりしなくなった。わたしに気を遣ってくれたのか、貴方自身が気まずかったのか、それはわたしにはわからない。
 時はずいぶん流れる。卒業後もぽつぽつと連絡を取り合っていたわたしたちだったけれど、貴方から結婚式の招待状が送られてきたのには驚いた。そういう話、全然していなかったのに。
『結婚するんですって?』
 メッセージアプリで送った言葉に、既読はすぐについた。
『ああ、招待状届いたんだ』
『びっくりしたわよ』
『ごめんごめん』
 わたしはひとつ深呼吸して、慎重にメッセージを打つ。
『貴方でもいいっていうひとが、見つかったのね』
『よく覚えてたな』
『まあね』
『これで結婚式はお互い様だ』
 わたしは思わずふっと笑った。
『規模はだいぶ違いそうだけれどね』
『きみのが規格外すぎたんだよ』
 わたしは薬指にゴールドの指輪が光る左手をぼんやり眺める。貴方は感慨深そうにしながらスピーチを聞いていたっけ。
『花を、差し入れるわね』
『嬉しいよ、ありがとう』
 結婚式当日。花束を持って、花嫁控室・・・・に向かったわたしは、貴方らしい素朴なウェディングドレスを着たその姿を見て、うっかり泣きそうになった。
「……きれいね」
「ああ、ここまで来てくれたんだ」
「待ちきれなくて、ね」
「せっかちだなあ」
 貴方は照れたように笑う。わたしは手にした花束をそっと差し出した。
「チューリップ? オレンジ色なんて珍しいな」
「あら、そうでもないわよ。赤、白、黄色……♪」
「ああ、そっか」
 嬉しそうに黄色いチューリップのささやかな花束を受け取った貴方は、きっとそういうことに疎いから、この花の花言葉なんて知らないのでしょう。それでいいのだけれど、やっぱり少し寂しい気もした。
 どうやっても叶うわけがなかった、秘めた恋心の終わりを、そっと貴方に差し出しましょう。
END.
昔に書いた百合の逆視点をやってみたという完全自分得のショートショートでした。
おつかれさまでした。ありがとうございました。
追伸
脱字を発見して慌てて直しました。うける。本当に今度こそおつかれさまでした。
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花言葉なんて
初公開日: 2020年04月22日
最終更新日: 2020年04月22日
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コメント
お試しがてら、診断メーカーで出たお題でショートショート書こうと思います。
ゆう喜 真櫛の心
男から女に贈ると求婚の意味がある櫛をいきなり携えてきた見ず知らずの青年、姐さん笑顔は保ってたろうけど…
篠畑