「……ふぅ」
最近、やけに肩が重い気がする。そう思ったベレスは腕を回してみたり、首を回してみたり、マヌエラに教わったストレッチ法など試してみているのだが、一向に肩の重みと、痛みは治らない。
「肩こり……」
あんなにも剣を振って、運動をしているのに肩こりなど。しかし、おそらくこの悩みは限られた女性にしかわかってもらえない。イングリットやアネットに肩こりを治す方法を聞いてみたが、そもそもなったことがないとまず共感をしてもらえなかった。どうしようかと悩んでいた矢先、出会ったのが、マヌエラとドロテアの二人で、そこで初めて知ったのだ。
「胸が大きいと、その重みで肩が凝りやすくなるのよ、センセ」
そう、言われて初めてベレスは自分の胸の大きさを、正しく認識した。
「うーん……」
認識したからと言って、治るかと言われたらそうではない。ストレッチや体操を試みても、完治はしない。
「大きい人の運命だと思って、付き合うしかないわね」
とマヌエラにも言われてしまったが、そうは言っても、痛いものは痛いし、しんどいものはしんどい。
「どうにかならないかな……」
教師業をやっていると、机に向かう時間も増える。傭兵時代との差はおそらくそこだろう。原因がわかったところで解決はしないし、自分で揉んでみてもあまり気持ちよくもなく、ベレスはうんうんと一人悩んでいた。
すると、教室から出てきたディミトリが、座って唸っているベレスを見て、近寄ってきた。
「先生?どうしたんだ、こんなところで」
「ディミトリ」
「どうした、皆が真面目に予習復習をしているか見張っていたのか」
「そんなんじゃないよ」
「そうか」
少しだけ冗談を言えるようになった彼が、楽しそうに話してくる。
「ではなぜこんなところで……」
そう言いかけて、ディミトリの視線はベレスの肩へと向けられた。
「肩が、痛いのか?」
「え?」
「最近、そうやって手を当てていることが増えただろう?もしかして怪我でも」
心配そうにのぞき込むディミトリに、ベレスは「違うよ」と首を横に振る。
「怪我とかじゃないんだけど、痛くて」
「痛い?」
「肩こり……なんだけど」
少しだけ恥ずかしそうに言うベレスに、ディミトリはわかっているのかいないのか「あぁ」と頷く。
「自分でもこうしてほぐしているんだ。あまり、効果はないんだけどね」
苦笑いをするベレスを見て、一瞬だけ何を考えた様子のディミトリが、「ならば」と話し始めた。
「俺が揉んでみよう」
「え?」
「力が強い俺ならば、その肩こりにも効くかもしれない。もちろん、加減はするが」
「い、いいよ!生徒にそんなこと」
「日頃のお礼だ。すまない、触れさせてもらうぞ」
ベレスの後ろに回り込み、彼女の髪をそっとかきわけると、ふわりと甘い香りがディミトリの鼻先をくすぐった。
「(女生徒は、こんなにもいい香りがするのか……)」
「ディミトリ?どうしたの?」
「い、いや、何でもない。では……」
普段見えないベレスの白いうなじが今、ディミトリの眼前にある。なるべくそこは見ないようにして、少し震える手をベレスの肩に置くと、ゆっくり、優しく、ほぐし始めた。
「先生?その、痛くないか?」
「平気。もう少し強くてもいいかも」
「そうか。……このくらいか?」
「あっ……う、ん……その、くらい……」
「っ……」
「んん……気持ち、良い……」
……肩を揉んでいるだけだ。そう、先生のために、先生の肩こりを少しでも治すために肩を揉んでいるに過ぎない。
「ぁっ……!そう、そこ……いい……!」
「ここ、か?」
「そう!そこ……もっとぉ……」
「こう、だろうか?」
「あぁ……!す、ごく……気持ちが、良いよぉ……」
……肩を揉んでいるだけだ。間違いなく、自分はベレスの肩を揉んでいるだけだ。そう、間違いなく。